日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

出雲充・ユーグレナ社長が語る(上)「人前で勉強はダサい」 ユーグレナ出雲氏育んだ駒東

出雲充・ユーグレナ社長が語る(上) 「人前で勉強はダサい」 ユーグレナ出雲氏育んだ駒東

 東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に、世界初となるミドリムシから作ったバイオ燃料で飛行機を飛ばすと宣言したバイオベンチャー、ユーグレナの出雲充社長(37)。出身は、中高一貫の私立男子校、駒場東邦中学・高校(駒東、東京都世田谷区)だ。東京大学の合格者数を伸ばし脚光を浴びるが、そんな母校を出雲氏は、世界的な起業家を送り出していることで知られる米スタンフォード大学と重ね合わせる。

 近所の先輩に憧れて駒東を受験した。

ユーグレナの出雲充社長

 2歳の時に、弟が生まれたのをきっかけに、神奈川県川崎市から東京郊外の多摩ニュータウンに引っ越しました。父はいわゆる猛烈サラリーマン、母は専業主婦。典型的な日本のサラリーマン家庭でした。

 実家が会社経営でもしていれば、将来は自分でビジネスをやろうかという気持ちも多少は芽生えたのでしょうが、そういう家庭環境ではなかったので、自分が起業家になるなどとは、その時は夢にも思いませんでした。

 駒東を受験したのは自分の意思です。小学校高学年のころ、近所に駒東に通う中学生がいて、その人を見るたび、何て格好いいんだろうと思ったのが動機です。

 私も両親も中学受験に関心がなく、その中学生が通う駒東以外の進学校は知らなかったというのも事実です。小学生のころは、放課後は毎日、近所の公園で弟や友達と泥だらけになって遊んでいましたし、母親も私たち兄弟に向かって「勉強しなさい」と言ったことは一度もありません。ただ、6年生の時に駒東に行くと決めてからは、自分の意思で塾に通い始めました。

 駒東は、今は入学するのがすごく難しくなっているようですが、私のころは、入るのがそこまで大変という感じはありませんでした。まあOBとしては、こんな得な話はないなとひそかに喜んでいますが。

 駒東では、勉強は格好悪いことだった。

「友達といる時は楽しく騒いで、勉強するそぶりを見せない。駒東とスタンフォードはそっくり」と振り返る

 試験に受かって進学校に入ったわけですが、授業が始まってからも、変な気負いも、勉強のプレッシャーもまったく感じませんでした。

 駒東には昔から、人前で勉強するのはダサい、人に勉強している姿を見せるのは格好悪いという文化というか校風、価値観みたいなものがあります。上級生から下級生に代々受け継がれてきた伝統でしょうか。

 例えば、私は電車通学だったので、有名な他校の生徒が、二宮金次郎のように電車の中で立ったまま勉強している姿をよく見かけましたが、そういう光景を見ても、自分も勉強しようとか勉強しなくてはという考えは起きませんでした。

 別に電車の中で勉強してはいけないという校則やルールが駒東にあるわけではありませんが、人前で勉強する姿を見せないのが駒東生の美意識です。学校でも、みんな、クラスメートの前では勉強するそぶりを絶対に見せません。それどころか、普段からいかに自分が勉強していないかを自慢し合う空気すらありました。

 ですから、テストの直前になっても、人前で勉強したり、勉強するために遊びの誘いを断って家に帰ったりするようなことはしません。その代わり、遊んで家に帰ったら、夜中すぎまで必死で勉強し、翌日何事もなかったかのように登校して、テストできっちりといい点数をとる。やせ我慢大会みたいですが、そんな駒東の校風が私は大好きでした。

 米スタンフォード大学にそっくりだった。

 話は飛びますが、東京大学時代に米スタンフォード大学に短期留学したことがあります。留学中に驚いたのは、スタンフォードの校風や学生の雰囲気が駒東とそっくりだったことでした。

 スタンフォードの学生は、夕方に授業が終わると、毎晩のように友達とつるんでどこかのバーに出掛け、夜中まで酒を飲みながら騒いでいました。パーティーも多い。でもみんな、うたげがお開きになると寮に戻り、授業の予習や復習にとりかかる。そして翌日、ちゃんと学校に行く。その体力にも驚きましたが、友達といる時は楽しく騒いで、勉強するそぶりを見せないところは、駒東生そっくりだと思いました。西海岸の温暖な気候のせいか、自由で開放的な雰囲気もありました。

 同じ米国の大学でも、東海岸の大学は全然雰囲気が違います。私は東部マサチューセッツ州にあるバブソン大学の起業家養成プログラムにも参加したことがありますが、バブソン大学の学生は、授業以外の時間はずっと図書館や寮の部屋にこもって勉強しているという印象でした。

 就職先も違います。東海岸の大学の学生が有名投資銀行やコンサルティング会社、弁護士事務所などに入ってエリート街道を歩むのに対し、スタンフォードなど西海岸の大学の学生は起業志向が強い。

 実際に滞在してみて、私には自由な雰囲気でベンチャー志向の強い西海岸のほうが性に合っていると思いました。ただ、その時はまだ起業する発想はありませんでした。スタンフォードと駒東に共通点があったのが、単純に面白いと思ったのです。

 校風は自由だった。

東京都世田谷区にある駒場東邦中学・高校

 日本はベンチャーが育ちにくい環境とよくいわれます。しかし、私は、人は誰でも大なり小なりベンチャー精神を持ち合わせていると考えています。ただ、多くの場合、学校教育の現場で先生たちが無意識のうちに、生徒の自由な発想を抑え込むような指導をしてしまったり、生徒のためを思って安定した職業を勧めたりしてしまうため、ベンチャー精神がそれ以上、育たないのではないでしょうか。

 その点、駒東の先生たちは、生徒の自由な発想を最大限尊重し、人に迷惑をかけない限り、好きなことはどんどんやりなさいという姿勢でした。進学校はだいたいどこでも自由な校風を掲げますが、駒東の場合は、口先だけでなく、本当に自由でした。

 例えば、私は古文が大好きで、特に源氏物語は高校時代に原文で全巻読破するほどハマりました。古文の授業中も先生の話はほとんど聞かず、いつも源氏物語を読んでいました。しかし、古文の先生はそんな私をとがめるどころか、それほど好きなら源氏物語を研究している東大の先生が書いた本を読んでみるよう、アドバイスしてくれたのです。

 今の子供たちが大人になるころには、おそらく現在の仕事の半分はロボットと人工知能(AI)がこなしていることでしょう。その時、私たち一人ひとりや社会に求められるのは、自由な発想とその発想力を養う場です。駒東の教育方針はそういう時代に非常にマッチしているのではないかなと、OBの一人として思います。
(ライター 猪瀬聖)[NIKKEI STYLE 2017年11月20日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>