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FRB人事なぜ注目? 金融政策、世界経済に影響

FRB人事なぜ注目? 金融政策、世界経済に影響

 トランプ米大統領が米連邦準備理事会(FRB)の次期議長にジェローム・パウエル氏を指名したニュースが、日本でも話題になりました。なぜ、FRBの人事が世界中から注目されるの?

 FRB議長の人事について藤井彰夫編集委員に話を聞いた。

――FRB議長の人事が注目を集めるのはなぜですか。

FRBのかじ取りはパウエル次期議長に委ねられる(写真はFRBの外観)

 FRBは米国の中央銀行ですが、FRBの金融政策は米国だけでなく世界に大きな影響を及ぼします。米国の金利が上がると、為替相場や株式市場などを通じて世界の市場や経済にも波及するので、世界中に米国の金融政策を観察する人がいるのです。

 FRBはワシントンに本部があり、議長、副議長を含む理事が7人、これ以外に全米12の地方の連邦準備銀行総裁のうち5人の、最大12人が投票権を持って政策を決めています。政策を議論する米連邦公開市場委員会(FOMC)は年8回開かれます。

――なぜイエレン議長は再任されなかったのですか。

 トランプ大統領はイエレン議長の再任も含め4人ほどの候補に面接をしてパウエル氏の起用を決めました。1980年代のレーガン政権以降、1期目の大統領は前政権が起用した議長を再任してきました。イエレン議長は今回、任期4年の1期目で退任することになりますが、これは79年の高インフレ期に約1年半で退いたミラー議長以来です。

 イエレン氏の場合は、金融政策運営に特に問題があったわけではありません。何でもオバマ前政権の反対の政策をとろうとするトランプ氏のこと、議長人事でも独自色を出したかったのでしょう。パウエル氏は共和党支持者でビジネス経験もあります。民主党支持者で経済学者のイエレン氏より、肌合いは良かったのかもしれません。とはいえパウエル氏は現在のイエレン議長の路線を支持しています。トランプ氏としてはFRBの金融政策を大きく変える必要はないが、自ら人事権を発揮したかったということではないでしょうか。

――パウエル氏はどのような人物なのでしょうか。

 ワシントン近郊で生まれ育った弁護士出身ですが、財務次官や投資銀行、投資ファンド経営者など豊富な経験があり、2012年にFRB理事就任後は金融政策や金融規制の決定に携わってきました。イエレン議長やバーナンキ前議長のように経済学者ではなく、金融政策について強い個人的な理論や考えを持っているわけではないようです。

 今後の政策運営でも他の理事や地区連銀総裁、FRBスタッフの意見を聞きながら判断する「調整型」になるのではないかとみられています。11月28日の米議会の指名公聴会でも「他の理事や地区連銀総裁の見解を丁寧に聞いていく」と述べています。

――パウエル次期議長の課題は何ですか。

 なんと言っても大規模な金融緩和の出口を円滑に完了できるかどうかです。FRBの総資産規模は08年の金融危機以降の国債購入などで危機前の9000億ドルから4.5兆ドルまで膨らみました。FRBは10月から、保有国債が償還を迎える際に再投資をしないことで段階的に縮小する計画を示しています。当面はパウエル氏もこの計画に沿って総資産を縮小していくとみられます。公聴会では「3~5年かけて2.5兆~3兆ドルまで縮小」という見通しを示しました。

 金利については経済指標をみながら徐々に引き上げていく方針を継続するでしょう。12月のFOMCではイエレン議長の下で最後の利上げに動くとみられています。米経済が順調に成長を続けるならば、来年もゆっくりしたペースで利上げが続くでしょう。

 問題は、地政学リスクや米国経済の変調など大きなショックが起きたときに、迅速な金融政策の変更などで指導力を発揮できるかどうかです。ただ自らの理論に縛られる学者と違ってパウエル氏のほうが柔軟に動けるのではないかという見方もあります。トランプ氏がFRBの政策に介入してきたときにどう対応するかなども課題です。

■ちょっとウンチク
物価と雇用、2つの使命
 世界の多くの中央銀行の金融政策の目標は物価の安定だ。ところが米連邦準備理事会(FRB)は2つの使命(Dual Mandate)を持っている珍しい中銀だ。それは「物価安定」と「雇用の最大化」だ。通常は政府は雇用の最大化を求め、中央銀行は物価安定を求める。FRBはこの両方への目配りを特に求められている。
 1970年代の石油危機時のように失業率上昇と物価上昇が同時に進む場合はFRBは難しい選択を迫られる。今は逆に失業率が下がってもなかなか賃金・物価は上がらない時代だ。成長率も物価も望ましい水準よりは低いのだが、FRBがゆっくりと金融政策の正常化を進められるのはこのためでもある。

(編集委員 藤井彰夫)[日本経済新聞夕刊 2017年12月11日付、NIKKEI STYLEから転載]

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