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今って景気がいいの? 戦後2番目の長さも給料増えず

今って景気がいいの? 戦後2番目の長さも給料増えず

 日本の景気拡大は5年近くも続いているといますが本当でしょうか? イチ子お姉さんとからすけが話しています。

イチ子お姉さん 日本の景気回復がここ5年近く続いていると言われているわ。2017年9月まで58カ月間も連続して良い状態よ。戦後2番目の長さなんだって。

からすけ 景気ってよくわからないけど、お金がたくさんもらえるってこと? でも、ボクのお小遣いは増えないし実感ないな。景気って本当にいいの?

イチ子 景気が経済活動に関係しているのは、からすけもわかっているようね。社会でお金がどれぐらい回っているかをいうの。お金が回ると人やモノ、サービスの動きが活発になるわ。モノがよく売れれば仕事は増えるし、株価も上がるわ。日本全体で商売がうまくいっていれば好景気、反対が不景気ね。

からすけ ふーん。昨晩お父さんが「景気よく飲んだ」と言ってた。お金をたくさん使ったってことか。で、誰がどうやっていいか悪いか決めるの。

イチ子 政府が企業の活動や働きたい人が仕事を見つけやすいかどうか、家計はどうかなど、いくつかの経済統計をもとに景気動向指数(キーワード)という経済指標を毎月計算して決めるのよ。景気が上向いているかどうか専門家の意見も聞いて最終的に判断するの。

〈キーワード〉
景気動向指数 政府が生産、販売、雇用など景気を映し出す29の指標を集めて毎月算出し、景気の現状把握や将来予測に使う。現在の景気動向を示す「一致指数」、数カ月先を示す「先行指数」、数カ月遅れて動く「遅行指数」の3種類あり、これらを総合的に評価して景気状況を判断する。
デフレ モノの値段が下がり続ける現象。インフレの逆。企業の売り上げが減り、働く人の賃金も下がりやすくなる。モノが売れず、企業の設備投資も細り、経済全体が縮小して国民全体の生活が苦しくなる。日本では1990年代半ばからデフレ状態が続いているとされる。

からすけ 戦後は新しくモノが作られ、たくさん売れたから好景気になったと習ったよ。今はなぜ景気がよくなったの?

イチ子 今の景気回復が始まったのは2012年12月。安倍晋三首相の2度目の政権ができたころよ。安倍さんは政府のお金で道路や橋を造ったり、補助金や手当を増やしたほか、経済活動の妨げとなる仕組みを変える規制緩和を進めたわ。それが一定の効果を上げたのね。日本銀行の黒田東彦総裁が世の中に出回るお金の量を増やしたことも影響しているの。だから、2人の名前から「アベクロミクス景気」と呼ぶ人もいるわ。

からすけ 人気グループ「ももクロ」みたい。景気がいいとみんなハッピーな気分になるね。続けばいいのに。

イチ子 ところが好景気はいつまでも続かないの。例えば、よく売れた自動車も1人で何台も持つわけじゃないからやがて売れなくなる。売れないと造る台数が減る。すると会社員の労働時間が減って給料が下がり、買い物や外食を控える。そうなると社員を減らしたり、つぶれたりする企業が出るの。

1980年代後半から90年代前半は世の中、バブルに浮かれていたが…

からすけ 景気はよくなったり悪くなったりするんだね。

イチ子 好景気と不景気を交互に繰り返すことを景気循環と言うのよ。1980年代半ばからは、銀行から安い利息でお金が借りられて、そのお金が大量に土地購入に使われて地価がつり上がる「バブル景気」に沸いたの。でも、行き過ぎを心配した政府が世の中に出回るお金を急に絞ると、そのあおりを受けて91年に好景気は終わったわ。

からすけ バブル崩壊のことだね。その後は?

イチ子 政府は不景気から抜け出すための政策をとり、いっときは回復したの。でも、08年9月の米証券大手リーマン・ブラザーズの倒産を機に起きた世界的な不景気や、11年の東日本大震災もあって、デフレ(キーワード)の状態から抜け出せないでいるわ。

からすけ デフレってマイナスイメージなんだけど、それでも好景気って変な感じ。

イチ子 デフレは不景気を示す用語ではないけど、デフレ状態が長く続くとモノが売れなくなって景気は悪化するわ。そうならないのは政府や日銀が積極的にお金を市場に投入し、みんなが利息の低いお金を使えるようにしているからよ。

からすけ それでも景気がいいって感じられないね。

イチ子 国の経済が実際にどれくらい伸びているかを示す実質経済成長率が過去の好景気のときと全然違うの。今回は5.5%なのに対し、1965~70年の「いざなぎ景気」の期間は67.8%、02~08年の好景気の期間は10.3%伸びたの。主に富裕層や訪日外国人の消費がこの数年の景気を支えてきたけど、一般の人の給料が増えないと消費は盛り上がらないわ。

からすけ お母さんも「お父さんの給料が増えない」ってこぼしてたよ。

イチ子 企業は売り上げや利益が増えても、人口減少で市場が縮むと考え、お金を使うのをためらっているわ。企業が稼いだお金を家計に回し、モノを買う余裕がでるようにするのがデフレを終わらせる1つの策。政府も減税や規制緩和で企業の技術革新や新サービスを後押ししたり、年金や医療・介護など社会保障への国民の不安を和らげたりする必要があるわ。

からすけ 今の景気回復はどこまで続くかなあ。

イチ子 19年1月まで続けば戦後最長を更新。ただ東京五輪の競技場建設やホテル改修の動きは18年がピークだし、消費税率再引き上げなど懸念材料もあって楽観視できないわ。

戦後の好景気、神話にちなんで


豊島岡女子学園中学高等学校の神谷正昌先生の話 日本では1950年代半ばから73年までの高度経済成長期に、相次ぎ大型好景気が訪れました。54年からの「神武景気」、58年からの「岩戸景気」、65年からの「いざなぎ景気」で、神話にちなんで呼ばれています。
 神武景気は日本始まって以来最もよいとの意味を込め、初代天皇とされる神武天皇から名付けられました。当時「神武以来(このかた)の」という表現が流行していました。58年からの好景気はこれ以上に長く続いたため、時間をさかのぼり、天岩戸(あまのいわと)の話から岩戸景気と呼ばれました。
 57カ月続いた、いざなぎ景気は、その話に登場する男神「伊弉諾尊(いざなぎのみこと)」がもとです。この時代の世相は「気楽でぜいたく」と評され、後の首相、福田赳夫氏は江戸中期の元禄時代になぞらえ「昭和元禄」と呼びました。元禄は紀伊国屋文左衛門などの豪商が財をなし、豪華な文化の時代。今の好景気は何をうむでしょうか。

[日本経済新聞夕刊2017年12月2日付、NIKKEI STYLEから転載]

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