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曽和利光の就活相談室エントリーシートなんていらない

曽和利光の就活相談室 エントリーシートなんていらない
authored by 曽和利光

 リクルートなどの人事責任者として20年以上就活生を面接してきた曽和利光さんと学習院大学キャリアセンター担当事務長の淡野健さんとの対談の続編。学生の負担になっているエントリーシートやインターンシップなど独特の就活の慣習を見直すべきだとの意見で一致しました。

前編はこちら

大手志向もアリ

逆求人や紹介ビジネスなどの新興就職ビジネスに大学側も対応しなくてはいけない時代になった(対談する曽和利光さん=左=と淡野健さん

曽和 売り手市場と言われながら、大手に限定すれば「買い手市場」です。大手志向の学生は学習院でも多いですか。

淡野 そうですね。就職活動をした人の約2割は大手に決まっています。やはり知名度が高くて憧れるから受けたいようです。

曽和 我々も数千人規模の会社にはいったゆえ、人のネットワークできて、いろいろなことを教えてもらいました。大手志向を批判するつもりはありません。ただ実態を知らないまま受けると、「売り手市場」と聞いていたのにバンバン落ちるので、心折れるということがありそうです。「就活鬱」のようなものはありますか。

淡野 「『学習院の運動部』ならなんとかなるんじゃないか」「先輩が行っているし、とりあえず銀行」と思っている人が少なからずいます。それで選考を受けると「なんでこの俺が落ちるんだ」「あいつらは受かっているのに」と嘆きます。

曽和 万単位の学生の応募をさばく大手企業側は選考で工夫をすべきだと思います。例えばエントリーシート(ES)。一部の超人気企業は応募者を減らしたいので、紙で書かせたり、分量が多かったりする負担の重いESを学生に課します。絶対受からないような学生たちがそれに2~3時間かけてがんばって書く。それも何十社も血眼になってやっています。学生にとって無駄だからなくした方がいいです。

淡野 学生の負担は相当なものですよ。企業側は「きちんと書いてください」と言いますが、全部きちんと見ているのか、疑問に感じます。

曽和 一部では見直す動きも出ています。ヤマハ発動機はESそのものを廃止しました。適性検査(SPI)後に1次試験から学生と直接面談して選考するそうです。どうせ選考で使わないのだからいい判断だと思います。

淡野 なるほど。それにしても、志望動機ってだいたいみんな同じことを書きますね。我々もエントリーシートの練習に付き合うのですが、たとえばある銀行のCMのキャッチフレーズを引用して、「御行の◎◎◎に共感し......」みたいなことを平然と書いちゃう。我々からすると「また出た!」と思ってしまいます。

曽和 それは志望動機じゃなくて、単なる事業説明ですよね。

淡野 文章ではごもっともなことのように書いていますが、内容が全くないのです。企業側は、そのキャッチフレーズに自分がどう共感したかを書いてほしいわけです。

曽和 もし聞くなら「会社を選ぶ基準は何か」などとさらりと聞く程度でいいのではないでしょうか。企業側も就職志向を聞きたいだけなので、「ウチをどのくらい愛しているか」などについては、先に進む面接の過程で学生に聞けばいいのです。

1日インターンではわからない

曽和 3年生向けのインターンが活発になっています。学生には影響はありますか。

淡野 3年の就活は明らかに学業を阻害しますよ。

曽和 夏がインターンのピークでした。この先、2月に山がまた少し出そうです。後期のテストが終わったあとですから、企業は配慮しているんでしょうか。

淡野 実はそうじゃないんですよ。我々の実感では早くなっています。業界研究という名の下の企業説明会やワンデーインターンシップが2月以前に増えています。今、3年生は単位をとることに一生懸命です。学生は企業のことを早く知りたいと思っているかというとそうではないんです。それより、部活をやりたいし単位だって取らなくてはいけない。この時期にやるインターンって「誰のニーズなんだ」と思います。本当は説明会をやりたいけど、今の時期はできないから「インターンシップ」と名前を付けて開いているだけですよね。

曽和 その側面はあると思います。これまで経団連が「インターンは5日以上」と定めていたので、企業側は判を押したように5日でした。それが2018年春に1日でもOKとなりました。インターンシップって本当は就業体験をすることで自分が向いているものを考える場です。1日じゃそれはできませんよね。

淡野 はい。最低でも5日間は必要でしょう。月曜の午前9時に会社に行って、エレベータに乗ってどんな人が出社して、昼は社食でご飯食べて、いろんな部署を回る。もちろん営業同行して、内容はよく分からないけど企業の会議に出て議事録を書く。そんな経験の中で経営陣がどんなことをやっているのかというのを、肌で学び取るというのがインターンの本来の姿だと思います。

新興就活ビジネス 大学側も把握して

淡野健(だんの・たけし)1985年学習院大学経済学部卒。リクルートで新規事業・総務人事採用、営業事業部門長を経験。スポーツ選手のセカンドキャリア支援会社の起業を経て、2010年同大学キャリアセンターに勤務。

曽和 これまで学生は「リクナビ」や「マイナビ」などのナビサイトに登録しておけば安心でした。しかし、それが少しずつ変わってきましたね。

淡野 紹介サービスや逆求人などいろいろ出てきました。4~5年前から相談が増えてきました。

曽和 こうしたサービスを提供する企業も使う側の企業も盛り上がっています。学生があまり志望しないような採用ブランドの低い企業は、ナビサイトに情報を掲載するより、「オファーボックス」などのようなスカウトメディアのほうが「いい人材がとれる」として、積極的に使うケースも増えています。

淡野 学生にとっては困ることもあります。ある紹介サービスは、6月解禁より前に学生と接触します。でも紹介される企業は中小が中心で、学生が行きたい会社がありません。だけど学生はそれを知らずに紹介されて面接まで受けてしまう。すると本当に行きたい会社の選考を逃してしまう可能性があります。

曽和 人気企業でもナビサイトには出さなくて、上位校の学生向けサイトにだけ情報を出すケースも出てきています。ナビサイトしか使っていない学生が機会を逃すこともあります。ほかにも体育会やエンジニアなどセグメントを絞って紹介したり。これまでワンマーケットだった新卒マーケットが分散化してきています。

淡野 他大から聞くところによると運動部の学生限定の説明会もあるそうです。でも運動部員だけを特別扱いするのはどうかな。キャリセンからいうと全ての学生に平等に機会を与えなくてはいけません。

曽和 大学側はこうした新サービスを把握しなければならない時代ですね。「このメディアを使うとこういうところに入れる」「この紹介会社には中堅、中小企業しかない」など各サービスの特徴を的確に学生に伝える必要があります。

曽和利光(そわ・としみつ)
 1971年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て2011年、主に新卒採用を対象にしたコンサルタント事業の人材研究所を設立。著書に「就活『後ろ倒し』の衝撃」(東洋経済新報社)、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」(明日香出版社)などがある。

[日経電子版2017年11月30日付]

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