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教科書は街おこし(11)2045年からのメッセージ(上) AIとロボットができること

教科書は街おこし(11) 2045年からのメッセージ(上) AIとロボットができること
ロボットのサッカー(ロボカップ世界大会)
authored by 久米信行久米繊維工業会長

 2045年にAI(人工知能)の進化が人類を追い越すとされる「技術的特異点(シンギュラリティ)」が話題になっています。これから社会で活躍する大学生のみなさんにとって、AIやロボットは敵でしょうか? 味方でしょうか? また、AIやロボットは、みなさんの仕事や暮らしを豊かにするのでしょうか? それとも貧しくするのでしょうか?

 わが多摩大学経営情報学部「SNS論」の講義では、毎回提出するレポートの中で、受講生からの質問を受け付けています。当初は、授業では伝えきれなかったSNSの活用法や美味しいお店の探し方などに関する質問を想定していました。しかし、その予想は大きく外れました。毎回の講義で内容を問わず全ての質問に答えていたからでしょうか。3カ月もすると、まるで人生相談のように多種多様な質問が集まるようになりました。毎回30分の質疑応答コーナーは、イマドキの大学生たちの悩みを移す鏡のようになったのです。

講義ブログに公開しているQ&Aの一部

 寄せられた質問の答えについては、多摩大学SNS論の講義ブログに全公開してあります。例えば「子供の時の夢は実現しましたか?」「先生のモチベーションは一体どこからきているか知りたいです」「気持ちが沈んでいる時は何をしますか?」「行きたい会社への他にはないアピールの仕方は?」といった具合です。こうした質問に答えることは一筋縄ではいきませんが、やりがいがある仕事です。今では私の新しいライフワークとさえ感じています。

AIとロボットに仕事を奪われる?

 中でも質問が多く寄せられ、深く考えさせられたテーマは、驚くことに「AIとロボット」についてでありました。これまで明治大学で10年以上も大学生と講義で対話を繰り返してきましたが、これほどAIとロボットに関する関心が高まったことはありません。

 ご存知の通り、就職活動自体は今や完全な売り手市場です。数年前までの教え子たちのように、入学した瞬間に「就職できないのでは」と悩んで就活を始めるような異常事態はなくなりました。ところが、今度は就職後に待ち構えているであろう「AIやロボットと働く社会」に対して、漠たる不安を抱いている学生が現れたのです。

 もちろん、正しい時代認識を持つのが大学生の本分ですし、将来に健全な危機意識を抱くことは大切なことです。しかし、目の前の大変革の本質を知らずに、やみくもに怖れているだけでは仕方がありません。AIやロボットが築く新時代を「大学時代に何を学ぶべきか」を考えるきっかけにして、正しく怖がり自分を磨いてほしいのです。

 むしろ、大学時代にこそ2045年の未来を大いに空想して、そこから2018年=今を振り返って考えると良いでしょう。そうすれば、これから未来に向かってやっておくべきことがイメージしやすいはずです。わずかでも未来からの振り返りのヒントとなりますよう、学生から寄せられた質問を使って、私の考えをお伝えいたしましょう。

問 AIが発展したら人間の仕事はどうなるのですか?

答 多くの仕事がAIやロボットに置き換わられますが、オンリー1「今だけココだけあなただけ」の仕事の価値が上がります。

 経営者の立場からすれば、AIやロボットの価格対性能比が高まれば(=安く手に入るようになれば)、働く主役を人間からAIへと置き換えていく手を打つことは間違いありません。ご存知の通り、産業革命以降、誰がやっても同じ結果の出る仕事から順番に機械化が進んでいきました。自動織機から電子計算機まで、生産性の高い機械が発明されるたびに、人と機械が置き換わっていく歴史は、これまでもずっと繰り返されてきたことです。

 その目的はコスト削減だけではありません。これから少子高齢化が進んで、人手不足が深刻になる中で、AIやロボットに頼らなければ、企業活動が存続できなくなるのではと、多くの経営者は危機意識をおぼえているはずです。毎回、新卒採用や退職社員の補充に悩まされたり、繁忙期に残業を増やしてブラック企業呼ばわりをされるより、物言わず黙々と働くAIやロボットを選ぶ経営者も多いでしょう。

ホワイトカラーやスペシャリストが仕事を奪われる

ロボカップ世界大会で

 しかし、これまでの技術革新と、これからの新産業革命とでは、インパクトの大きさが異なります。今までは人間しかできないと思っていた高度な仕事まで、AIとロボットが取って代わる可能性が高いことです。例えば、売り上げの予測や、それに連動した最適な生産計画、さらにはクルマの自動運転のみならず町中の交通機関の集中運行管理なども、人間よりAIの方がより速く正確にできる可能性を秘めています。いわゆる知的なホワイトカラーや技術に富んだスペシャリストが、これまで誇りをもって担ってきた仕事が、AIとロボットに奪われてしまう可能性が高いわけです。

 AIやロボットによる「働き方改革」は、工場やオフィスなどの生産現場の仕事にとどまりません。一般的に、人と接して喜ばせる営業や接客などの仕事の方は、AIやロボットには苦手であると思われがちです。たしかに、私が25年前に証券会社で相続診断システムを作っていたころのAIならば、人の介助が必要だったでしょう。しかし、これからはAIやロボットの方が、「人に気に入られる振る舞い」が得意になるかもしれません。人間よりも素直に接客の基本を「すぐやる」だけでなく、粘り強く上達しながら「やり抜く」可能性が高いのです。

 私はこれまで、講義や著書を通じて「出会う技術」「認められる技術」を広めてきました。例えば「事前に相手の好きなものごとを調べて、自分も好きになり、初対面の名刺交換の時から、その話題ができるようになろう」と提唱してきたのです。しかし、この簡単で効果的なルールを実践して習慣化している学生やビジネスパーソンは、私の実感からすると1%もいないでしょう。

 ところが、気の利いたAIなら、私の日々のインスタグラムやFacebookを読んで、私が喜びそうなコメントやメッセージを書くことなど「朝飯前」でしょう。そして、コメントやメッセージが相手に喜ばれたとわかったら、誰にでも何度でも繰り返すことが人間以上にできるはずです。ましてや愛苦しいロボットが、私のSNS記事を毎日欠かさず見てくれて「今日のおすすめの曲は切なくてなんだか泣けましたね。今夜は楽しい夢が見られるといいですね」などと言われたらどうでしょう? おそらく人間よりも「かわいいやっちゃ(トップセールスの必要条件)」と感じて、思わず抱きしめてしまうかもしれません。

 AIの凄まじいところは、こうした一人ひとりに「かわいいやっちゃ」と思われる接客対応を、好き嫌いにとらわれず、疲れることなく飽きることなく、何千人何万人にほぼ同時にできることです。

 好むと好まざるとにかかわらず、これからは、単純作業や大量処理のみならず、個別に好みに合わせて人を喜ばせる複雑なサービス業であっても、AIやロボットに仕事を奪われる可能性が高いのです。また逆に人間がAIやロボットを補助するような仕事に就かねばならず、それこそ時給いくらのパートやバイトに甘んじなければいけないかもしれません。(つづく)