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教科書は街おこし(12)2045年からのメッセージ(下) AIに支配される世界が来る?

教科書は街おこし(12) 2045年からのメッセージ(下) AIに支配される世界が来る?
authored by 久米信行久米繊維工業会長

 前回はAIやロボットによってこれまであった仕事が取って代わられる可能性について説明しました。今回はAIやロボットが普及しても残る仕事や、これからの働き方についてお話ししましょう。

高くても買いたくなる「もの」や「こと」

 ただし、「今だけココだけあなただけ」の特別な「もの」や「こと」に、高くともお金を支払うような人がいなくなるわけではありません。アジア地域に大量に出現する新中間層や富裕層はもちろん、特別なテーマにこだわりを示す趣味人も急増するでしょう。ひとたび気に入って「あなたが作ったものしか買わない」「あなたからしか買わない」と決めると、他に安い商品や便利なお店があっても「ほれ込んだ人からほれ込んだものやことを買い続ける人」が現れるのです。

 生産性を度外視しても手仕事にこだわるので高コストにして高額になる。機能自体は大量生産の機械製品と変わらないけれど、よく見れば美しく、使いこむほど味がでる。そんな名人の手しごとのものづくりなどは、3Dプリンターでなんでもコピーが簡単に創れる時代だからこそ、珍重されることでしょう。

 例えば、100円ショップでもお箸やコップは買える時代なのに、わざわざ、私のふるさと墨田区の工房ショップを訪ねて、数千円の江戸木箸や数万円の江戸切子硝子を買ってくださる方がいらっしゃいます。同様に、ネットで探し出して、自分が好きな生産者が作ったお米、お味噌、お酒などを取り寄せる人も増えています。私もそんな古くて新しい買い物を楽しむ一人ですが、ひとたび自分好みの本物に出合うと、どんなに安くとも他のものを買う気にはなれないものです。

ロボカップ世界大会で

 それから、一夜限りのライブコンサートが入手困難なプラチナチケットになり、ネットで高値取引されるのも新しい現象です。昔ならCDやDVDなどの売り上げが、ミュージシャンの収入源だったはずですが、今や音源や映像もamazonやYoutubeなどで無料ダウンロードできる時代になりました。ネットを使えばタダか安価で見聞きできるものを、なぜ、わざわざ高いお金を払って遠くまで見に行くのでしょうか? インスタやtwitter映えするからでしょうか? こうしたお客様の変化に伴い、音楽ビジネスも姿を変えました。広く無料配信でファンを増やし広告収入を得ながらも、一番の収入源は特別なファン向けの1万円を軽く超えるコンサートチケット販売や、会場限定のグッズ販売だったりするわけです。

 つまり両極分解が起こるのです。

 「いつでもどこでも誰でも」買えるようなもの=おそらくは全体の8割ぐらい?=は、AIとロボットによって大量生産大量提供されて、限りなく安くなり、人間の出番も減っていくでしょう。

 そのかわり、「今だけココだけあなただけ」の感動を生み出すオンリーワン「ものづくり」や「ことおこし」=全体の2割ぐらい?=の方が「お金を稼ぐ」ようになるでしょう。そんな特別な仕事ができる人の価値はますます高まっていくはずです。

「誰がやっても同じ結果の出る仕事はしたくない」

 この何とも生意気な発言は、私が、新卒入社したゲーム制作ベンチャー「イマジニア」で、上司に言い放った暴言です。力量もない若造のくせに何と恥ずかしい発言だろうと思い出しながら赤面しています。

 しかし、AI黎明期の今こそ必要なのは、この「誰がやっても同じ結果の出る仕事はしたくない」という心意気なのです。よく考えますと、オンリーワンを目指すことは、AIがあろうがなかろうが、ビジネスの王道、商売繁盛の鉄則です。そして、生涯をかけてスキルを高める自己投資の最終目標でもあります。

 つまり、大学時代にやるべきことは、今も昔も大きな違いはありません。オンリーワン人材になれるように自分を磨き上げて、オンリーワンの企業に就職する。仕事を学びながら工夫を重ねて、オンリーワンの事業を生み出す。可能ならオンリーワンの起業も志す。こうした独創的な生き方を目指すことが、10年前も20年前も変わらぬ大学生の鉄則なのです。

 人生100年時代を迎えたオンリーワンの働き方改革を志す大学生が増えれば増えるほど、AIが描く新しい未来も、楽しく美しいものに変わっていくはずです。

AIとロボットに世界を支配される?

 AIとロボットに関する質問をよく読むと「仕事を奪われるのではないか」という恐怖と並んで、「世界を支配されるのではないか」という漠然とした恐れが感じられます。

 私も、今から40年ほど前、10代の頃には手塚治虫の「火の鳥」や、ジョージオーウェルの「1984年」を読んで愕然としたことがあるので気持ちはわかります。コンピュータが人間を支配する世界に怯えて、不眠症になったことさえあるのです。

問 将来ロボットやAIが人間を支配するのでしょうか? コンピュータが人を支配する未来を回避する方法はありますか?

答 既にICT技術無しで人間は仕事も生活もできません。 人よりAIの方がマシな支配?をするとも考えています。

 支配という言葉の定義が難しいのですが、すでに人間は、コンピュータ・インターネット・ロボットなしでは、工場、商店はもちろん、金融、国防まで動かすことはできません。例えば、コンビニ一つ考えても、ICT技術なしでは、1日たりとも営業はできないでしょう。全国各店に届けるおにぎりの需要予測と生産はもちろん、個人向けの宅配受付からATMまで、すべてが情報技術の進化に依存しています。便利で安価な暮らしとICT技術は裏表であり、その依存の度合いはAI技術の進化により高まりこそすれ低くなることはないでしょう。

 また、あえて支配という言葉を使うなら、過去の血塗られた歴史や、現在も世界各地で続いている人種や宗教などをめぐる紛争を見ればわかるとおり、人間が立派な支配をしてきたとはとても思えません。自分勝手な欲得や差別意識で争いを繰り返す人間の支配者階級よりも、逆にAIやロボットの方が良い支配?を行う可能性もあると考えています。

ロボット同士のサッカーの試合

 わかりやすく言うならば、AIやロボットの力を借りて、いつでもどこでも、水、食糧、エネルギー、情報などの資源を、無駄なく効率的に生産して最適に分配する仕組みが作れれば、領土や資源をめぐる余計な争いも激減するでしょう。また、一部の多国籍企業、政治家、官僚の利権のために余計なインフラや軍備を作る必要もなくなるので、減税どころか配当や、ワークシェアリングをする国(地域)さえ出てくるかもしれません。そうなれば、どんな名君や名宰相よりも、AIの方が、市民を喜ばせる政治や経済のマネジメントができることになります。

受け身ではなく、AIの優れた能力を活用しよう

 つまり「AIに支配される」のを受け身で待つのではなく、AIの人間より優れた能力を活用して「これまで人間ができなかったこと」を一緒にする智恵が必要になるのです。進化するのはAIの技術だけではありません。同時に進むネットワーク社会のおかげで、情報公開と人々の教育・意識改革が進んでいることも注目に値します。

 例えば、パナマ文書の公開以降、国際金融市場やタックスヘイブンなど一部の人が富や力を独占する世界に歯止めがかかろうとしています。このように、誰もがうすうす感じながら正されることがなかったタブーが明らかになり、抜け穴がふさがれるのは驚くべきことです。とりわけインターネット以降の資本主義経済では新技術発展の副作用として、多国籍企業や一部の資本家への富の集中が起こります。この副作用を打ち消すための所得再分配ルールなども、各国の首脳が欲得で考えるよりも、AIが考える各国が平等な国際ルールを作って機械的に行った方がよいかもしれません。

 これからは、AIを活用しながら、「所有」より「活用」、「奪う」より「与える」シェアエコノミーの時代に移行すると主張する人も少なくありません。だとすると、人間が「所有、専有」することを前提にしてきた「支配」型国家と、AIが「共有、活用」を最適化する「分配」型コミュニティ(国境にとらわれない)とは、似て非なるものになるでしょう。

 そんな新しい時代を夢見て、これまでにない仕事や生き方を、みなさんがどれだけ想像できるかによって、AIが支配する未来の姿も変わってくるのです。大切なのは、人間の支配では諦めていたことを、AIの力を借りてマネジメントしてもらう発想でしょう。