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就活リポート2019(4)残業代がつかない裁量労働制とは~募集要項の注意点

就活リポート2019(4) 残業代がつかない裁量労働制とは~募集要項の注意点
authored by 上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授

 3年生の皆さんは、期末試験を終えたらいよいよ就活に本格的に取り組もうと考えているでしょう。もしかしたら既にインターンシップで接触した企業から、内定の話が出ている人もいるかもしれません。

 ところで皆さんは、応募を考えている企業や、インターンシップで「いいな」と思った企業の、就業時間や初任給額、給与の内訳などを知っていますか? それらに意識は向いているでしょうか?

募集要項をよく読もう

 若手社員の過労死・過労自死が大きなニュースになる中で、長時間労働を警戒する意識や、各企業の残業の実態を知ろうとする意識は高まっています。健康に働き続けられる企業を選ぶうえで、それはとても大事なことです。

 同時に、それぞれの企業の給与がどのように決められているのかにも注意を向けてください。多くの企業は20万円程度の初任給を提示しているため、「どこでも、だいたい同じ」と思いがちですが、実際は違います。初任給の中に一定時間分の残業代が含まれていたり、残業をしてもその分の残業代が出ない制度をとっていたりすることもあるため、注意が必要です。

 そのような特別な仕組みをとる場合には、企業は募集の段階でその旨を明示することが求められています。そのため、労働条件が記されている募集要項を、じっくりと読み解くことが大事なのです。

 新規大卒者の採用では、募集要項は3月1日に就職情報サイトや企業ホームページの新卒採用情報で一斉に公開されます。既に就職したい企業を決めて内定の話をもらっているとしても、「もう就活は終わった」と安心せずに、必ず募集要項が公開されたときにその内容を確認しましょう。もし募集要項が公開されないなら、問い合わせましょう。そして、他の企業と労働条件を見比べてみましょう。社風や社員の雰囲気だけで、「働きやすそう」と考えるのは、お勧めできません。

固定残業代に気をつけよう

 固定残業代という言葉を聞いたことはあるでしょうか。聞いたことがない人も多いと思いますが、募集要項を見る際に、特に注意が必要なものです。残業代が一定額に固定されている、という意味ではなく、一定時間分の残業代を毎月支払うことをあらかじめ決めている制度のことを指しています。

 あとで説明する裁量労働制のような「みなし労働時間制」が適用されている場合を除き、残業代を一定額しか支払わないこと(例えば「毎月の残業代は3万円とする」など)は、違法です。労働基準法により、1日8時間の労働時間(休憩を除く)を超えて労働した場合には、その時間外労働については25%以上の割増賃金の支払いが必要となっています(休日労働や深夜労働、月に60時間を超える時間外労働については、別途、割増賃金の定めがあります)。

 ただし、一定時間分の残業代をあらかじめ月給の中に含ませておくことは認められています。これが固定残業代です。その場合、その額に相当する残業時間を超える残業をした場合には、追加の残業代の支払いが必要です。

 この固定残業代が月給に含まれている場合には、見た目の初任給が実際よりも高くなります。いわば「水増し初任給」です。

(石田眞・浅倉むつ子・上西充子著『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』より)

 上の図で、B社の初任給はA社と同じ20万円ですが、実はその中に4万円分の固定残業代が含まれています。A社は基本給が20万円で、残業をすればその分の残業代が追加で支払われます。そのため、A社の方が実際の賃金水準は高いのですが、「初任給20万円」というところだけを見ていると、その違いがわかりません。

 C社は一見したところ、A社やB社よりも初任給が高いため、魅力的に見えます。けれどもC社の初任給24万円には8万円の固定残業代が含まれており、基本給はB社と同じ16万円です。A社よりも基本給は低くなっています。B社とは基本給は同じですが、8万円の残業代を毎月支払うようにしていることから、B社よりも多くの残業が日常的に見込まれていると推測することができます。実はC社は、一番魅力的なようでいて、一番注意が必要な企業です。

 このように給与については、初任給の額だけではなく、その内訳に注意が必要です。上のB社やC社のような企業が、固定残業代を含ませていることを隠している事例が、過去には多くみられました。その問題に対処するために、2015年の若者雇用促進法の制定に伴う指針によって、若者を対象とした募集において固定残業代制を適用する場合には、固定残業代がいくらであってそれは何時間分に相当するものであるのか、また固定残業代を除いた基本給の額はいくらであるのかを明記することが求められるようになりました。さらに、固定残業代は「残業代は固定額だけ払えばいい」というものではないため、そこで見込んでいる時間外労働を超える時間外労働を行った場合には、その分の割増賃金は追加で支給することも明記が求められました。

 具体的にみると、固定残業代を含む場合には、たとえば次のように記載することが求められたのです。

(適切な記載例)
月給:大卒 ●●円
   基本給〇〇円  残業手当△△円
   (残業手当は、時間外労働の有無にかかわらず、30時間分の時間外手当として支給)
    ※月30時間を超える時間外労働には、別途割増賃金を支給する

 ですので、給与の欄はしっかりと確認したいものです。もし「月給20万円(30時間分の固定残業代含む)」のような記載があったら、その固定残業代がいくらであるかがわからないので、適切に記載されていないということです。そういう企業は要注意です。「月給20万円(残業手当3万円を含む)」といった場合も同様です。これだとその3万円が何時間分の残業代なのか、わかりません。

裁量労働制も明示が必要になった

 この固定残業代とともに注意が必要なのが、裁量労働制です。裁量労働制とは、「みなし労働時間制」の一種で、実際の労働時間にかかわらず、一定の時間働いたものと「みなす」制度のことです。

 この裁量労働制が適用されている場合、もし1日8時間働くものとみなされていれば、実際の労働時間が10時間であっても2時間分の残業代(割増賃金)を企業が支払う必要はありません(ただし、深夜労働と休日労働に対する割増賃金の支払いは必要)。1日9時間働くものとみなされている場合には、1時間分の残業代(割増賃金)に相当する手当の支払いが必要ですが、その場合であっても、実際に10時間働いたとしても1時間分の残業代(割増賃金)の支払いの必要はありません。

 このように裁量労働制は、実際の残業時間に応じた残業代の支払いを行わなくても違法とならない働かせ方であるため、長時間労働につながりやすい働き方です。労働弁護士は「定額働かせ放題」になるとして、注意を呼びかけています。

 裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の二種類があり、それぞれの対象業務は労働基準法により詳しく限定されています。適用にあたっては決められた手続きも必要です。

 この裁量労働制を適用する場合について、2017年の職業安定法の改正に伴う指針により、募集時にその旨の明示が求められることになりました(2018年1月1日より適用)。この指針では、若者を対象とする募集に限定せず、すべての募集について、先に見た固定残業代の明示や裁量労働制の明示、派遣労働者として雇用する場合はその旨の明示などを求めることになりました。

 法改正に伴って厚生労働省が新たに作成した求職者向けのリーフレットには、新しく明示が必要となった項目が、下記の通り星印で表示されています。

求職者向けのリーフレット

 求職者が知りたい大事な労働条件項目が、追加で明示されるようになったのは喜ばしいことです。

 裁量労働制が適用されている場合には、給与が月給ではなく年額(年俸制)で表示されていることもあります。裁量労働制ならば、長時間労働が常態化していないか、実態を注意して調べることが必要でしょう。

労働条件の説明が追加されたり変更されたりする可能性に注意

 もう一つ、知っておいていただきたいことがあります。明示が必要な労働条件項目のすべてが、最初に示された募集要項に明示されているとは、限らないことです。

 上に示した厚生労働省のモデル募集要項には、募集にあたって企業が明示すべき項目が示されています。これらが就職情報サイトや企業ホームページの新卒採用情報で網羅されているかというと、残念ながらそうとは限りません。例えばモデル募集要項にある「契約期間」という項目は、主要な就職情報サイトでは設けられていません。新卒採用なのだから正社員なのは当たり前かというと、労働契約期間に定めがある契約社員を募集している場合もあり、注意が必要です。

 また、募集要項では明示されていなかった固定残業代や裁量労働制などが、企業説明会や面接などの段階で初めて説明されることも残念ながらあり得ます。企業説明会の資料に小さな文字で記載があって、けれども口頭の説明では特に言及されないといったことも、残念ながらあり得ます。

 もしそのように固定残業代や裁量労働制などの大事な情報を「後出し」にする企業であれば、そのような企業に就職して大丈夫か、慎重に判断すべきでしょう。選考の途中で労働条件を変更するような企業も同様です。そのような不誠実な企業ではなく、皆さんに募集の最初の段階から誠実にすべての労働条件を明示している企業を、選びたいものです。また、先のモデル募集要項に示された労働条件項目は、書面で明示することが求められています。口頭だけで説明するような企業は、注意が必要です。

 自分が応募する企業については、就職情報サイトの募集要項と企業ホームページの新卒採用情報における募集要項の、どちらも確認し、プリントアウトしておきましょう。その企業が募集を終了すると、募集要項のページも閉鎖されてしまいます。プリントアウトした情報を、企業説明会や面接に持参し、話が変わってこないか、注意して確認することをお勧めします。

 もし話が変わってきたり、不審な点が出てきたりすることがあれば、遠慮なく尋ねましょう。不安なことがあれば、大学のキャリアセンターなどにも積極的に相談しましょう。労働条件をごまかすような企業にうっかり入社の意思を固めてしまわないように、ぜひ心がけてください。

<お知らせ>
2月5日開催「日経カレッジカフェアカデミー 業界研究フォーラム」で、上西充子先生
の講演「残業、離職率、初任給...... 安心して働ける職場がわかる『募集要項・客観情報』の見方」があります。詳しくはこちらをご覧ください。