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出雲充・ユーグレナ社長が語る(下)駒東の同級生に「敗北」 ユーグレナ創業に生かす

出雲充・ユーグレナ社長が語る(下) 駒東の同級生に「敗北」 ユーグレナ創業に生かす

 バイオベンチャー、ユーグレナの出雲充社長(37)が語る母校、駒場東邦中学・高校(駒東、東京・世田谷)時代の思い出。米スタンフォード大学にも似た自由で開放的な校風を謳歌する様子を、前回(「『人前で勉強はダサい』 ユーグレナ出雲氏育んだ駒東」)で振り返ってくれた出雲氏。今回は、その後のキャリアに影響を与えることになる様々な出来事について、さらに話を続けた。

 パソコンに出合い、独学でプログラミングを勉強した。

ユーグレナの出雲充社長

 印象に残っている思い出の一つに、文化祭があります。ちょうどインターネットが登場した時期でした。業務用コンピューターを扱う会社でエンジニアをしていた父の影響もあり、コンピューターに興味を覚えた私は、親にマッキントッシュを買ってもらい、独学でプログラミングを勉強しました。中3の時には、友達を誘ってインターネットの同好会を立ち上げました。

 高1の文化祭では、そのマッキントッシュを学校に持ち込んで、デジタルカメラとプリンターにつなぎ、顔写真入り名刺を作るデモンストレーションをしました。今なら珍しくも何ともありませんが、当時は画期的なことで、予想以上の大盛況。トレンドに疎かった私は、当時写真シール作成機がはやっていたことなどまったく知りませんでしたが、どうやらそれにそっくりだということで、希望者が殺到したようです。

 この時の経験は私に、思い付いたことを形にすることの面白さを教えてくれました。それを後押ししてくれる環境が、家庭にも学校にもあったことは、その後の自分にとって、とてもラッキーだったと思います。

 自由放任だったが、ほったらかしではなかった。

 駒東の特徴の一つだと思いますが、教科によって「分割授業」というのがあります。一時的にクラスを少人数に分割し、より生徒に寄りそった授業をするのが目的です。教育方針は自由放任ですが、けっしてほったらかしではありませんでした。

 先生もとてもフレンドリーで、勉強のことでも勉強以外のことでも相談に行くと親身になってくれました。私の好きだった古文の先生も、源氏物語を勉強するための専門的な参考書を教えてくれただけでなく、先生も交えた何人かの有志で源氏物語を読んで感想を述べ合う読書会まで開いてくれました。

 フレンドリーなのは先生だけではありません。駒東生には、誰かが何か面白いことをやろうとすると、面白がって一緒に盛り上げてくれるという気質もありました。源氏物語の読書会の呼び掛けに反応してくれたのも一例ですし、中3の時にインターネットの同好会を立ち上げた時もそんな感じでした。

 同級生にコンプレックスも抱いた。

「アイデアが行き詰まった時は、自然と弁論大会での敗北を思い出す」と語る

 中学から仲のよい友達に片寄雄介という男がいました。明るいし頭は切れるし、彼の周りにはいつも人が集まっていました。自分もあいつのようになりたい、どうすればなれるのか、といつも考えていました。

 片寄のすごさをまざまざと見せつけられたのは、中3の時の校内弁論大会です。私も片寄もクラスの代表として出場しました。

 世界の食料問題をテーマに熱弁をふるった私は、他クラスの代表や会場の反応を見て内心、勝利を確信しました。ところが、優勝したのは最後に登場した片寄でした。

 彼は何と、いきなり演台の上に正座し、マイクも使わず大きな声で、落語調で話し始めたのです。私も含め、みんな度肝を抜かれました。どうやったら学校をもっと面白くできるかというシンプルなテーマでしたが、誰も思い付かないようなやり方で、内容も圧倒的に面白く、聴衆をとりこにしたのです。

 後に、ユーグレナを創業した時、そして創業した後も、それまで誰も成功したことのないミドリムシの屋外大量培養をどうやったらできるか、ずっと悪戦苦闘、試行錯誤してきましたが、アイデアが行き詰まった時は、自然と、片寄に負けた弁論大会のことを思い出しました。そして、もっと斬新なアイデアがあるのではないか、発想の転換が必要なのではないかなど、自分に問いかけました。弁論大会の一件は、それくらい強烈な体験でした。

 そんなことがあっても、私にとって片寄は一番の親友で、大学も一緒。今でもよく会います。

 国際連合で働きたくて東京大学を目指した。

 国連は子供のころからの憧れでした。きっかけとなるような強烈な体験があったわけではなく、普通にニュースなどで国連の活躍を知るうちに、自分も世界のために国連で働きたいと思うようになったのです。

 インターネットの普及前でしたから、国連に関する情報はもっぱら本が頼り。国連で働いた経験のある日本人の著書を読むと、著者の中に東大を出た人が結構いました。それで東大を目指そうと決めました。

 駒東の学生は人前では勉強しないと言いましたが、人前でなくても普段はあまり勉強しません。部活動やその他の課外活動を一生懸命やり、テストの前だけ集中して勉強するのが基本です。

 ただしそれは高校2年生までの話。高3になって部活動を引退し、5月の体育祭を過ぎると、受験に向けて一斉にギアが入ります。それ以降は、人前であろうとなかろうと、なりふり構わず必死に勉強。塾にも通い始めます。夏ごろに東大向けの模擬試験を受け、自分の位置が初めてわかります。

 私は、最初は「不合格」の判定でした。これで逆に闘志がわいてきて、必死に勉強したら何とか間に合いました。駒東生はみんなギアチェンジがうまい。駒東での最初の5年間は、いってみれば、最後の1年間のためにオンとオフの切り替え方、集中力の発揮の仕方を学ぶ時間だと思います。

 現在はユーグレナを経営するかたわら、日本の将来を担う科学者の育成にも力を入れる。

今は図書館で自習する生徒も目につく(東京都世田谷区の駒場東邦)

 先日2017年9月期の決算を発表しましたが、好調な食品関連事業に支えられ、3期連続で過去最高益を計上しました。ミドリムシと出合うきっかけとなったバングラデシュの子供たちの栄養失調を解決するプログラムも引き続き続けていきます。当面の最大の目標は、東京五輪・パラリンピックが開かれる20年までに国産ミドリムシから製造したバイオ燃料で飛行機を飛ばすことです。油の抽出量を増やすためにミドリムシの品種改良にも取り組んでいるところです。

 個人的には、次世代の科学者育成のために文部科学省が主体となって行っている「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業」の支援にも力を入れています。日本は科学分野で毎年のようにノーベル賞を受賞していますが、いま受賞対象となっている研究成果は、基本的にどれも20年ぐらい前のもの。理科力が衰えて将来、日本が大変なことにならないよう、私も講師として全国の指定校に出向き、理科の大切さや面白さについて話をしています。

 駒東は残念ながらSSHの指定校には入っていませんが、時々、母校で話をする機会をいただいているので、その時には、天国のような6年間を過ごさせてくれた母校への恩返しのつもりで、色々な話をさせてもらっています。
(ライター 猪瀬聖)[NIKKEI STYLE 2017年11月27日付]

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