日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

池上彰の大岡山通信 若者たちへトランプ米大統領、就任1年――自国第一主義、世界を分断

池上彰の大岡山通信 若者たちへ トランプ米大統領、就任1年――自国第一主義、世界を分断
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 気がつけば、はや1年。米国のドナルド・トランプ大統領が就任してから1年を迎えました。

 一昨年の選挙中、トランプ氏の破天荒な言動は物議をかもしましたが、大統領になれば収まるのではと見ていた人も多かったことでしょう。

◇ ◇ ◇

 ところが、大統領になってからも相変わらずの言動が続いています。

 1月11日には移民に関する超党派の上院議員たちとの会議で、ハイチやアフリカ諸国のような「肥だめのような国」からの移民を受け入れなければいけないのかと発言したと報じられました。

 トランプ大統領は、さっそくフェイクニュースだと反論しましたが、出席していた民主党議員は「確かに発言した」と語りました。大統領を支えるニールセン国土安全保障長官は「正確な表現は思い出せない」と弁明しています(日本経済新聞1月16日付朝刊)。否定していないのです。

 この発言に対し、アフリカ連合が抗議声明を出すなど世界各地で反発が広がっています。

 トランプ大統領の発言が問題になると、大統領本人が「フェイクニュースだ」と否定する。この1年間に、何回繰り返されたことでしょうか。

反トランプデモの「女性大行進」でニューヨークの6番街を埋め尽くす群衆

 とりわけ最近のニュースは、トランプ政権の内幕を暴いた書籍『炎と怒り』でしょう。ジャーナリストのマイケル・ウォルフ氏が1年半にわたり関係者200人以上への取材にもとづいて執筆したというものです。

 この中では、トランプ氏は当選すると思っていなかったので、当選が報じられると幽霊を見たような顔をした、メラニア夫人は喜びではない涙を流した等々、驚くべきエピソードが出てきます。

 特にトランプ大統領を支えてきたスティーブ・バノン前首席戦略官・上級顧問が、トランプ大統領の家族に関して辛辣な発言をしていることが衝撃を与えました。

 バノン氏の発言にトランプ大統領が激怒し、ツイッターで非難すると、バノン氏は発言の一部に間違いがあると弁解しましたが、発言全体は否定しませんでした。あれだけトランプ大統領を支えてきた人物の発言なのだから事実だろうと受け止められ、本はベストセラーになりました。

◇ ◇ ◇

 ただし、米国のメディアの反応は二分されています。トランプ大統領に批判的なテレビのCNNは本の内容を積極的に報じる一方、大統領寄りのFOXニュースは、逆にウォルフ氏を批判的に報じています。

 トランプ政権誕生後、米国社会は二分されました。大統領の差別的な言動を受け、白人至上主義の運動が活発になる一方で、それを批判する運動もあり、両者の衝突も起きています。

 事情はメディアも同じ。大統領を批判的に報じるメディアが多数ですが、擁護するメディアもあります。大統領支持率は低迷していますが、共和党支持者に限ってみれば、80%前後の支持を得ています。

 トランプ政権は世界規模でも分裂を引き起こしました。イスラエルの首都をエルサレムだと宣言したことに対し、批判する国と同調する国に分かれたのです。

 自国ファーストの動きが世界を分断する。この動きはこれからも続くでしょう。誰がトランプ氏を支持するのか。世界はこれからどう変わるのか。メディアにも観察力と分析力、それに予測能力が問われます。

[日本経済新聞朝刊2018年1月22日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>