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君が食べる「シメの名は。」

君が食べる「シメの名は。」

 お酒を飲んだ後の「シメ」と言えば、ラーメンやお茶漬け。そんな定説が崩れてきた。都心部ではスイーツやパスタなどシメ狙いの新顔の専門店が続々と登場し、若者らでにぎわう。交流サイト(SNS)の写真映えなどが背景にあり、大手居酒屋もシメメニューの開発を競い合う。まもなく忘年会シーズン。さて、君が食べる「シメの名は。」――。

スイーツやパスタ、飲食店集客の切り札に

夜間しか営業しないパフェ専門店パフェテリアベル(東京都渋谷区)

 「シメに意外と合うんですよ!」。11月の土曜夜、東京都渋谷区の「パフェテリアベル」で、横浜市の会社員の円城寺椋さん(25)は友人たちと、色とりどりの食材が盛り付けられたパフェを堪能していた。1次会の居酒屋で酒を飲んだといい、その顔はほんのりと赤い。

 同店は10月にオープンした北海道発の「シメパフェ」専門店。数種類あるパフェはシメに合うようフルーツとアイスの甘さや酸味を調整し、さっぱりとした味わいに仕上げた。価格は1400~1900円でボリュームもあるが、30代の女性客は「ぺろりと食べられる」と話す。店は午後5時から翌日の午前0時または2時まで営業し、「客の9割はシメに利用している」(同店)という。

 シメパフェはもともと札幌で数年前からブームとなっていた。同店を運営するGAKU(札幌市)の橋本学社長は「飲んだ後に手の込んだスイーツを食べたいという需要は高い」とみて、来年春には福岡県への進出も検討している。

 「さっぱりしているので、お酒を飲んだ後の口直しにちょうどいい」。横浜市に住む堀紀久美さん(51)は午後10時すぎ、東京・六本木のかき氷店「yelo(イエロ)」で人気メニューの「ティラミス」(850円)を注文した。

 ふわふわに削った氷と、マスカルポーネチーズのソース、ココアパウダーなどが層状に重なる。濃厚だが、後味はあっさり。かき氷は計10種類ほどあり、夜遅くにもかかわらず店内はほぼ満席に近い。

 2014年に開業した同店は、ウイスキーなどもそろえ基本的に朝5時まで営業する。当初夜はバーとして利用する客が多かったが、今では「午後11時以降はシメのかき氷を目当てのお客さんがほとんど」という。

 人気の背景はSNSでの写真映えだ。埼玉県の男子大学生(22)は「夜中にリッチなかき氷を食べているんだと友達にも自慢したくて」と早速、スマホで撮影していた。

 ぐるなびが9月に20~69歳の男女1248人に「夜の外食のシメのメニューとして思い浮かぶもの」を調査したところ、2位の麺類、3位のごはんものを抑え、デザート・スイーツ類が首位となった。特に若い世代に「シメスイーツ」を支持する声は強い。

 シメの新顔はスイーツに限らない。東京のJR中野駅近くのバー「バーイリュージョン」で一番人気のシメメニューは、スパゲティのナポリタン。来店客の3~4割が注文する。隠し味としてカクテルに入れる食材を使い、シメに合わせた。

「Bar ILLUSIONS」のナポリタンをお酒のシメによく食べる佐々木玲奈さん(左)と松木光伸さん(東京都中野区)

 「ナポリタンを食べて、幸せな気分で一日を終えたい」と話すのは、都内の会社員の佐々木玲奈さん(36)。他の飲食店での飲み会の後、週1~2回ほど利用する常連客だ。

 ナポリタンは04年の開業時から提供しているが、注文が目立って増えたのはこの数年のこと。13年ごろから街中にナポリタン専門店が登場して注目が高まったことを追い風に、「シメに合うナポリタン」との評価が口コミで広がった。

 シメにラーメンを食べたくなるのは、一説によると肝臓がアルコールを分解する際に糖質を必要とするため。その点では糖質たっぷりのナポリタンも納得がいく。ナポリタン専門店チェーン「パンチョ」の東京都心の店でも、今春ごろからシメとみられる夜間の利用客が急増しているという。

 同じ麺類のシメとして本格的なうどんを提供する「うどん居酒屋」も都市部で続々と増えている。博多発祥のうどん居酒屋の先駆けである「二○加屋長介(にわかやちょうすけ)」は昨年11月、都内に進出した。午前3時まで営業し、80種類のおつまみのほか、博多名物の水炊きがベースのスープを使った手打ちうどんが一押しメニューだ。

 今年6月には、香川・高松のうどん店からのれん分けした「うどん酒場香川一福」が東京都豊島区にオープン。同店を運営するビッグベリーでは「深夜に本格的なうどんが食べられる店は都内にはほとんどなく、開拓の余地が大きい」(大林芳彰社長)とみる。

 「シメカフェ」を選ぶ人もいる。渋谷駅近くのカフェ「桜丘カフェ」では午後11時ごろになると、20代後半を中心とする客が次々と訪れる。周辺の居酒屋で飲み会を終えた客は昨年まで2割ほどだったというが、最近は3~4割に増えた。

 友人男性とともに訪れた会社員男性(35)は「飲み会で疲れた。店の雰囲気とコーヒーでホッとなる」と話す。翌日の午前4時まで営業し、終電を逃した利用客も多い。

居酒屋は独自性追求

 シメ市場の変化が如実に出ているのが居酒屋チェーンだ。「家飲み」の広がりという逆風が吹く中、店に来た客にシメまでフルコースで味わってもらおうと各社は知恵を絞る。

 「これが食べたくて来ました」。養老乃瀧(東京・豊島)が運営する「養老乃瀧 池袋南口店」(同)。飲み会の終わりに埼玉県上尾市の会社員、森田亨さん(57)は牛丼を片手に笑顔をみせる。かつてランチ用に販売し、10月からシメメシとして十数年ぶりに復活させた「養老牛丼」だ。

 大手牛丼チェーンの丼より小ぶりだが、価格は税別330円と「吉野家」などよりも安い。以前の味を知っている中高年だけでなく、若い世代にも好評で、定番のお茶漬けなどを上回る注文が入る店も多いという。

 職場の飲み会などでは2次会、3次会を敬遠する若者が増え、居酒屋は1店で完結させる傾向が強まっている。客単価を上げるためにも、「シメの1品を頼んでもらえるかどうかはこれまで以上に重要になってきている」(同社)。養老牛丼はその戦略商品だ。

 「旬鮮酒場天狗」を運営するテンアライドは今秋から、深煎りのイタリアンエスプレッソコーヒーを使用したゼリーの販売を始めた。狙いは新たなシメ需要の開拓。「お茶漬けなどありふれたメニューではもはや客の心に響かない」(同社)と、わざわざ店でコーヒー豆からひくカフェのようなこだわりようだ。

 鳥貴族も「シメは集客の重要な要素」(同社)とみて力を入れる。約10種類のシメメニューのうち、数年前まではスイーツといえばアイス程度だった。昨秋からは新たにスペインの人気スイーツ「チュロ」を発売。今年10月には独自にアレンジした名古屋名物の「台湾ラーメン」も税別298円で用意した。客の約4割はシメを頼むという。

 居酒屋の定番のつまみメニューは差異化が難しく、価格競争に陥りがちだ。シメの逸品で客の胃袋を満たせるかどうかは、店の集客力にも直結し始めている。

多様化するメニュー、SNS映えやご当地限定も

 日経MJが11月に東京の新宿、渋谷、新橋で男女50人に「あなたがシメに食べたいもの」を調査したところ、1位はラーメンだった。以下、アイスクリーム、お茶漬けと続き、少数意見ではおでん、サンドイッチなど様々なものが出た。

 シメ市場が多様化してきた背景について、ホットペッパーグルメ外食総研の有木真理上席研究員は「若者を中心にSNS向けに他人と違う写真を投稿したいという心理がある」と分析する。

 食事の画像と言えば、個人のSNSでは定番中の定番。普通に投稿しても注目されないが、「夜中に面白いシメをみつけたというだけで話題になる」。カラフルで見栄えがするパフェやかき氷はその象徴だ。

 炭水化物を避ける糖質制限ダイエットなど、健康志向の高まりも影響している。東京・新橋で飲み会を終えた会社員男性(42)は「シメはラーメンが多かったが、体重が気になるので最近はそばにしている」と話す。シメのうどん店が台頭したり、おでんを挙げる人がいたりするのは、ラーメンに比べ比較的カロリーが低いこともあるとみられる。

 ぐるなびの今秋の調査によると、飲み会の後などに「シメのメニューを食べる」と答えた人は86%に上った。酒離れが指摘される20代では男女とも9割強が「食べる」と答えており、競合の激しい飲食店にとって魅力のある市場だ。

 山形の芋煮カレーうどん、福島のカレー焼きそば、宮崎の肉巻きおにぎり......。日本各地を見渡せば、ご当地ならではのシメグルメはたくさんある。飲食店の「シメビジネス」にはまだ大きな商機が眠っている。
(小田浩靖、長尾里穂、千住貞保)[日経MJ2017年11月27日付、日経電子版から転載]

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