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liberal arts-大学生の常識

「ブレインテック」に注目

「ブレインテック」に注目
authored by 榊原健太郎サムライインキュベート社長 

 私がこの仕事を選んだ理由は2つある。1つは多くの起業家を支援・育成することによって、多くの産業を生み出したいと考えたからだ。そうなれば多くの雇用が生まれ、世の中は今よりも穏やかで豊かになる。

 もう1つの理由は、問題や課題をたくさん解決したいからだ。しかし、私1人では限界がある。だからこそ、専門家や、問題や課題に真摯に向き合っている人たちを応援したいと思っている。

 支援しているスタートアップでは、MAMORIO(東京・千代田)が紛失物防止に、ヤマップ(福岡市)が山岳遭難防止に、IT(情報技術)を活用して取り組んでいる。エースチャイルド(東京・品川)はいじめや犯罪をなくすためのSNS(交流サイト)を、エアークローゼット(東京・港)は衣類のシェアリングサービスを通じて多忙な女性がおしゃれをする機会を提供している。ポート(東京・新宿)は遠隔診療のプラットフォームを構築しようとしている。

 私が子どものころから解決したいと思っている課題が2つある。1つは、目が見えない人に世の中を見せてあげられるようにすること。もう1つは、記憶を呼び戻してあげられるようにすることだ。

 どちらも医療に関連しており、脳との関係が深い。過去の記憶は脳の中に残っているのだが、すべてを瞬時に思い出すのは非常に難しい。パソコンであれば、何年前のデータであっても保存されていれば詳細に引き出すことができる。

 脳は記憶をもとに将来を予測する。仮に記憶を正確に保存できれば、予測精度も向上するのではないか。ビッグデータ解析による予測値向上のような話だ。

 記憶を呼び戻すことについては、イスラエルの大学や研究機関で研究が進んでいる。多くの日本の製薬企業がイスラエルに注目しているのもそのためだ。目が見えない人に世の中を見せることができるサービスもイスラエルにシーズ(種)がありそうだ。弱視の子どもが特殊なメガネをかけて初めて親の顔を見ることができた映像をある動画サイトでみた。このときの感動は忘れられない。

 米テスラの創業者、イーロン・マスク氏や米フェイスブックもこうした「ブレインテック(脳技術)」に注目しており、会社を設立したり、サービス開発を進めたりしている。人が見ているものをデータとして保存してハードディスクに記録させたり、テレパシーで通信したりする世界に近づいていると感じる。

 私の父は脳梗塞で倒れ、認知症の症状も出ている。もっと仕事や家族のことを語りたい。「記憶を戻してあげられたら」と思う。似たような感情を抱いた方は多いのではないか。

 我々もこうした課題の解決に取り組む起業家をもっと支援したい。穏やかな未来の世界を創るために。
[日経産業新聞2017年12月18日付、日経電子版から転載]

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