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自動運転、人材確保レースAIの社内蓄積乏しく NextCARに挑む CASEの衝撃【A】

自動運転、人材確保レースAIの社内蓄積乏しく NextCARに挑む CASEの衝撃【A】

 実用化が近づく自動運転(Autonomous)の車。画像などクルマ周辺の膨大な情報を取り込んで処理をする人工知能(AI)や半導体の技術が不可欠だ。自動車各社はスタートアップ企業などとの連携で技術の取り込みを図る一方、自前の人材確保も急ぐ。旧来の組織や産業構造を抱えたままでは人材確保はままならない。

センスタイムはAIを活用した画像認識の技術を市街地での完全自動運転に生かす

 モニター上の無数の赤や青、黄色の枠。これらは映像からAIが認識した、街を行き交う車両や人だ。歩行者の性別や年代、かばんの有無も認識し次の動きを予測する。12日、都内の展示会で香港のスタートアップ企業、センスタイムのブースに人だかりができた。

 その技術にほれ込んだホンダは11月、自動運転の実現に向けたAI技術の共同開発を決めた。センスの強みは「視界」に入った100以上の歩行者や車両を同時に捕捉できる画像認識だ。

 一定の条件下なら人が介在しない「レベル4」の2025年の実現を目指すホンダが求めたのは、120人の博士号取得者を含めた総勢400人の研究員の層の厚さ。センスタイム日本法人の河村敦志シニアリサーチャーは「日本にAI人材は少ない。トップクラスの実績が注目されている」と語る。高速道路などの限定された場所ではなく、混雑するアジアの市街地などでの自動運転には強力な画像認識の技術が不可欠だ。

新卒も中途も

 本田技術研究所の安井裕司主任研究員は「新卒や中途でAI人材を集めているが、足りない。センスの人材や開発環境も生かしたい」と語る。

 世界の自動車各社が続々と自動運転の実用化を打ち出している。PwCコンサルティングは機械が運転の主導権を持つ「レベル4」や「レベル5」の自動運転車は25年に世界で730万台、30年には8100万台と劇的に増えると予測する。

 だが自動車メーカーにAIの蓄積は乏しい。外部と連携して補うにしても「コネクテッドやAIに精通した人材を自社でも取り込まなければ生き残れない」(三菱自動車の益子修最高経営責任者)と危機感を抱く。

 自動ブレーキや車線維持機能が高い評価を受けているSUBARU(スバル)も、現在の技術は「こうなったらこうする」という「ルール」が基本。情報量が飛躍的に増える自動運転は別次元の技術が必要だ。

 10月22日、トヨタ自動車は東京駅近くの高層ビルでセミナーを開いた。リクルートも関わったこのセミナーには、業界を越えて30人弱が参加。画像認識の技術者が「人とモノと車をどうすれば見分けられるか」をテーマに議論を交わした。

 直接採用を目的としたものではないが、まず関心を持ってもらい、長い目で人材確保につなげる意図も見え隠れする。ホンダも同様の交流会を10月から開いている。

 「ソフトエンジニアへの求人が加速度的に増えてきた」。技術者の転職支援のメイテックネクスト(東京・千代田)の河辺真典社長は強調する。同社のデータでは自動運転にもつながる「制御系・組み込み・ファームウェア」のソフト系エンジニアの11月の求人数は1056人と3年前の2倍の水準になった。リクルートキャリアによるとこの分野のエンジニアの11月の転職求人倍率は4.79倍に達している。

 激しい人材獲得競争をどう勝ち抜くのか。メイテックネクストの河辺社長は「従来の開発組織や人事制度をどれだけ変えられるかが問われている」と話す。

 家電や自動車といった日本の製造業の研究拠点は郊外の工場近くにあることが多く、持ち家を構える技術者も多い。一方でソフト系エンジニアは東京都心や自由な服装での勤務を望む人も多い。

 若年層の意識の変化も逆風だ。かつてクルマづくりは多くの理系学生の憧れだったが、就職支援のマイナビ(東京・千代田)の調査では、就職先としての人気は低下している。2008年の新卒理系学生のランキングではトヨタ自動車(1位)を筆頭にトップ100に5社が入ったが、18年入社予定の新卒理系学生ではトヨタ(6位)を含め順位を落とした。

都心に開発拠点

 「都心に拠点をつくることが第一歩」(河辺社長)。ホンダは17年に東京・赤坂に外部人材との連携拠点を開設。デンソーも16年に日本橋に研究拠点をつくり、日産自動車も都内にコネクテッドカーの研究施設を開所した。ホンダの拠点には約120人が在籍し、半分は外部からの採用だ。

 待遇面での課題もある。リクルートキャリアは先端のITエンジニアに絞った転職サービス「モファーズ」を立ち上げた。11月下旬から企業側の求人を受け付け始め、既にホンダ、日産、デンソー、アイシン精機などが利用している。特徴は求人を出す際にあらかじめ年収を提示してミスマッチを減らすこと。ただ最も多いのは600万~700万円。年収1000万円を超えることもあるゲームやIT企業と比べてなお低い。

 自動運転への対応は、自動車産業の伝統も崩そうとしている。一般的に車両開発ではエンジンをどう搭載するかをまず決め、順に足回りやボティーなどの仕様を検討していった。あるメーカーの技術者は「開発部門にはエンジンを頂点とした序列があった」と明かし、外部への依存が大きい電装や内装部品を軽く見る向きもあった。

 だが自動運転にはセンサーやソフトウエアの技術が欠かせず、状況は変わりつつある。エンジン開発を受託するエイヴィエルジャパンのアルゲ・ハラルド取締役は「エンジン開発はトラディショナルな領域と位置づけられるようになった」と語る。完成車メーカーが専門メーカーに開発を委託する動きが増えてきた。自動車設計の「場所取り」が、センサーから始まる時代が来るのかもしれない。

自動運転(オートノマス) カメラやレーダー、全地球測位システム(GPS)や高精度な3次元地図などを使って周囲の状況を把握し、人工知能(AI)などで分析してシステムが自動車をどう動かすかを判断する。技術水準で5段階に分かれ、現在はブレーキやハンドルなど複数の操作を一度にシステムが担う「レベル2」までが実用段階。「3」では一定の条件下で緊急時を除きシステムが運転の主体となり、「5」はあらゆる状況下でシステムが判断する。半導体とAIの技術が鍵となり、米エヌビディアなど専門企業と自動車メーカーとの連携も進む。
(企業報道部 古川慶一)[日経産業新聞 2017年12月14日付、日経電子版から転載]

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