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liberal arts-大学生の常識

アニメ先生が個別指導すららネット、教育格差に挑む

アニメ先生が個別指導すららネット、教育格差に挑む

 オンライン学習システム「すらら」を展開するすららネットが18日に東証マザーズに上場した。すららはアニメーションを使って学ぶオンライン教材。独自のアルゴリズムで個人に合わせた問題を出し、ゲーム感覚で子供の学力を底上げする。「教育格差の解消」を目標に掲げる湯野川孝彦社長(57)のもと、すららの輪は低所得層や東南アジアにも広がっている。

東南アジアでも展開

すららの授業を受けるインドネシアの小学生(西ジャワ州バンドン市)

 インドネシア・ジャワ島西部のバンドン市。国立インドネシア教育大学付属小学校ブミ校の一室には30台のPCが並び、300人の生徒が週3回「Surala Ninja!」で学ぶ。従来の授業では生徒が歩き回り勉強に集中しないこともあった。2016年に算数の授業ですららを導入してからは「生徒たちが算数が好きになり計算力も飛躍的に上がった」(イマム校長)という。

 アニメのキャラクターが先生役。勉強するほどレベルアップするなどゲーム感覚が特徴だ。オンライン学習は一般的に、授業を受ける「レクチャー型」と問題に回答する「ドリル型」があるが、すららは両方の機能を備える。

 個人に適応する教材を目指し、子供の「つまずきポイント」を認識する独自のアルゴリズムで特許を取得。先生や保護者は学習の進捗や子供の弱点を把握し、次の学習プランづくりに生かす。海外では算数、日本では小学生から高校生までの英国数に対応する。

 これまで国内125の学校と約550の塾が導入。近畿大学付属中学校(大阪府東大阪市)や函館白百合学園中学高等学校(北海道函館市)、野球が強い広陵高等学校(広島市)などの有名校も導入している。東京立正中学校・高等学校(東京・杉並)では、高校1年生のアドバンスクラスで偏差値50以上の生徒の比率が半年間で1.85倍になったという。

 湯野川氏が特に力を入れるのが、勉強が不得意な子供の学力向上だ。勉強の得意な子は塾に行って自分で成績を上げていける。一方で低学力の子には個別指導が大切だ。ところが学校は人員不足で丁寧な対応が難しく、大学生アルバイトが中心の個別指導塾は講師の質にばらつきがある。すららはそこに目を付けた。

 「経済格差から学力格差が広がっている。中レベル以下の子供の学力をデジタルの力で底上げしたい」。熱っぽく語る湯野川氏の視線は低所得層や不登校、発達障害・学習障害の子供にも向く。

 様々な事情から勉強に難しさを感じてる子供たちがNPOや自宅学習を通じてすららで学習できるよう、取り組みを広げる。教材の料金は学校や塾がすららに支払うが、低所得層向けのNPOには特別な料金設定にしているという。

 2014年に国際協力機構(JICA)の事業に採択されたのを機に海外展開も開始。JICA事業終了後も継続し、現在スリランカで貧困層向けの塾など17校、インドネシアで5校に提供。昨年インドにも進出した。

消えかけた事業をMBO

「子供の実力に応じて問題が変わる」とすららの仕組みを説明する湯野川孝彦社長

 大手企業との連携にも積極的だ。14年にNTTドコモ・ベンチャーズから出資を受け、16年4月からドコモの人工知能(AI)機能を利用した「AIサポーター」を搭載。アニメのキャラクターが個人に合った声かけで応援する仕組みを取り入れた。今年5月には凸版印刷と資本業務提携し、理科教材を共同開発している。

 実は、すららは一度消えかけた。もともと別の教育関連会社の新規事業として07年にサービスを開始したが、08年のリーマン・ショックで会社が傾き、追加投資ができなくなった。事業を担当していた湯野川氏は「このままなくなってしまうのは残念」と10年末に自ら数百万円で事業を買い取り、会社を出て自分で何とかしようと考えた。

 しかし当時、事業は年間7千万円の赤字。とても個人では継続できない。資金繰りのためベンチャーキャピタル(VC)を回ったが、当時はVC投資も冷え込んでいて門前払いが続く。唯一話を聞いてくれたのがグロービス・キャピタル・パートナーズだった。湯野川社長は「グロービスの出資がなければ今の会社はない」と断言する。

 11年に2億円の投資に踏み切ったグロービスの仮屋薗聡一マネージング・パートナー(48)は「個別指導にはオンライン化ニーズがある」と判断。「子供を飽きさせないコンテンツと先生や保護者に提供する分析機能が優れていた」と当時の判断を振り返る。出資から2年後に黒字化。その後も仮屋薗氏が大手企業の提携先を紹介するなど二人三脚で歩んできた。

 上場で巣立ちのときを迎えたすららネット。今後は多くの株主の目にさらされ、人材採用や社内組織づくり、海外事業の収益化などの課題にも直面する。テクノロジーで教育を進化させる「EdTech(エドテック)」のパイオニア。本番はこれからだ。
(企業報道部 佐藤史佳)[日経産業新聞2017年12月20日付、日経電子版から転載]

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