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日本経済新聞「未来面」
学生から大和ハウス工業社長への提案
「暮らしに合わせ移動する家」

日本経済新聞「未来面」 学生から大和ハウス工業社長への提案「暮らしに合わせ移動する家」

 日本経済新聞の未来面は、読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。共通テーマは「革新力」です。今回は大和ハウス工業社長・芳井敬一さんからの「建築で世界の街をどう変えますか」という課題について、学生の皆さんから多数のご投稿をいただきました。

【課題編】建築で世界の街をどう変えますか

芳井敬一・大和ハウス工業社長

 大和ハウス工業がこれまで手掛けてきたのは衣食住の「住」の部分ですが、時代の変化とともに人々が住まいに求めるものも変わってきました。最初は雨露がしのげればよかったわけですが、次第に個性が重要になり、超高齢社会を迎えた今は「絆」という要素が大切になっています。女性のひとり暮らしも増えており、街づくりの観点からも、安心や安全ということがとても大事になっています。

芳井敬一・大和ハウス工業社長

 もちろんそれだけでは足りません。日本では「四季」の感覚も不可欠です。我々はそうした環境に配慮した住宅を品質と量の両面から安定的に提供する「建築の工業化」を推し進めてきました。東京都世田谷区で開発した高級木造注文住宅プロジェクト「プレミアムグランウッド世田谷・等々力の家」では、屋外だけでなく、家の中にいても四季を感じられるような工夫を施しました。吉野杉など国産材をふんだんに使った住宅というのも大きな特徴です。

 我々が持つ感覚や日本で育まれた建築技術は海外にも十分通用すると思っています。米国や中国、オーストラリアなど海外での事業展開に力を入れており、中国の大連市では延べ床面積が52万平方メートルにも及ぶマンションや商業施設などの複合開発をしています。当社としては2件目の開発ですが、この規模になると、建設というより、街づくりといってよいでしょう。

 街づくりを通して人々の暮らしや経済を豊かにしてきた例は過去にも色々あります。例えば安土・桃山時代の「楽市・楽座」は、税制によって人口を増やし街の活性化に成功した例だといえます。中国にならった飛鳥時代の藤原京は碁盤の目の街に様々な施設を置くことで政治や防災という目的を巧みに実現しました。

 その意味では2020年に開かれる東京五輪も東京の街づくりを促す意味で重要なイベントです。選手村を開発するコンソーシアムに我々も参画していますが、子供たちが将来にわたって使えるレガシーをどう残していくかという視点が重要です。英国は12年のロンドン五輪を通じて街をハイテク都市に変えるなどして、都市ランキングでも順位を上げました。

大和ハウス工業が豪州シドニーで手がける分譲マンション

 では皆さんは建築を通じ日本や世界の街をどう変えていったらよいと思いますか。日本では地方の交通機関の不足や空き家などが大きな社会問題となっています。一方、新興国や途上国では、個性を持った住宅を購入したいという人が増えてくるでしょう。そうした世界の建築ニーズにどう応えていったらいいのか、ぜひ皆さんのアイデアをお聞きできればと思います。たくさんのご応募をお待ちしております。
(日本経済新聞2018年1月9日付)

◇    ◇

【アイデア編】

アイデア001 暮らしに合わせて「移動する家」
田口 大貴(東北大学経済学部2年、21歳)

 すべての建物を移動できるようにしたらどうだろう。例えば郊外で病院が近くにない場所に住んでいて、通院が必要になった高齢者の住む家が病院の近くに移動する。子供が生まれ、外で遊べる公園があればいいなと思っている家族の家は、公園の近くに移動する。このように人々のライフスタイルや様々な事情を吸い上げ、人工知能(AI)によって街の形の最適解を導く。街の中での移動は自動運転やナビゲーションのアプリが案内する。建物を移動させる手段や基礎はどうするのか、また法的な課題も多くありそうだが、人々の生活の変化にあわせて街自体が変化すれば住民の満足度が最大化されると思う。

アイデア002 地下に広がる「アリの巣」方式に
辰己 由真(駒沢大学経営学部4年、22歳)

 日本の建築はアリの巣のように発展していくべきだ。地上ではなく地下に建築を広げていくのである。今日では地上に建物があふれすぎていて統一感がなく雑多な印象を受ける。建物をつくるために多くの自然が破壊されてきた。高層ビルやタワーが物珍しかった頃はそれらが街のシンボルとして映えていたが、当たり前となった今ではかえって視界を妨げたり圧迫的な印象を与えたりすることもある。地上に建物が増える一方で、地下へと広がるモノもある。代表例が渋谷駅だ。JR線は地上へ、東急線は地下へと伸びているのが特徴だ。鉄道が地下に入れば地上から線路や踏切が減り、空いた土地に芝生や木や花を植えることができる。このようにアリの巣方式で建築が発展すれば自然の植物があふれる豊かな地上が実現できるかもしれない。

アイデア003 何でも分解・再構築できる建築
萩原 慶一(公務員、45歳)

 人生100年時代といわれ、我々は大きく不確実に変わる社会や技術、地球環境に対していま以上に的確な対応が必要となる。変化を受け入れて挑戦する者こそ適応できるが、取り残される者が出てしまうことは避けられない。世阿弥は「珍しきが花(新しいことが大切)」「人生時どきの初心を忘れてはいけない」と記した。革新は基本のもとにある。個性的な建築も悪くはないが、地球環境や生命、健康を守ることこそが建築の最大の役割であり基本だ。目指すべきは「オーバーホール&ビルド」、何度でも変化に合わせ分解し再構築できる建築だ。耐震や断熱、長期にわたる寿命といった最低限の性能をプレハブ部材で簡単に供給することで、世界の建築や街の水準を高める。個性はその上での表現だ。日本人は鼻と花の言葉に見るように、人と植物を区別なく生命として捉えてきたという。四季の変化に植物は自然に再生する。自然なプレハブが幸せを導く風景が描けたらよい。

【講評】芳井敬一・大和ハウス工業社長

 「建築で未来の街をどう変えるか」という課題に多くのご提案をいただきました。3Dプリンターで作る「未来の建築」や「移動する家」などユニークなものから、持続可能な社会に向けた「何度でも再構築できる家」、「お味噌汁みたいな家」のように共感が持てるものまでアイデアは多岐にわたります。

 すでに試みがなされているご提案もありました。例えば「アリの巣」や「地下都市」といった地下空間の活用です。鉄道を地中化して空いた地上空間を緑化し、新たなふれあいの場をつくるプロジェクトが各地で進んでいます。住まいでも地下空間の上手な活用法を真剣に考える必要があると思っています。

 私たちは建設という事業を通じ地域の皆さんと交わることが多いですが、ある日「芳井さんにとって家とは何ですか」と聞かれたことがありました。そこで答えたのが「ほっとできる場所」です。人口減少を受け、コンパクトシティが話題になっていますが、特に高齢者にとってつらいのは異なる住環境を押しつけられることです。人に合わせて建物を移動させるなど、そこで住まう人の気持ちに寄り添い、柔軟に発想することが大切だと思います。

 一方、家の中で様々なデータを収集し、人工知能(AI)で住みやすい環境を提案することも重要になっていきます。最近、AIスピーカーを活用した取り組みを始めましたが、将来的には健康状態や自然環境などの情報を集め、住まいを自在に変化させていけたら素晴らしいのではないでしょうか。

 そして建物に忘れてはならない重要な要素が「絆」です。過去の大震災を通じ、私たちはその重要性を実感しました。高齢者世帯や単身世帯が増えていく今後は、仮想現実(VR)技術などを活かし、家族や地域の人々がバーチャルな空間の中で絆を深められるような仕組みづくりも重要だと思います。
(日本経済新聞2018年1月29日付)

【「未来面」からの課題】
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