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米VCプラグ・アンド・プレイ上陸、国境なき起業支援

米VCプラグ・アンド・プレイ上陸、国境なき起業支援

 起業の街、東京・渋谷の国際化が進んでいる。それをさらに加速させそうなのが、2017年に日本に本格上陸した米有力ベンチャーキャピタル(VC)のプラグ・アンド・プレイだ。創業間もない企業を大企業と橋渡しし、成長を後押ししている。世界13カ国にインキュベーション施設を展開し、ネットワークを駆使した「国境なき起業家支援」を推し進める。

13カ国にインキュベーション施設

プラグ・アンド・プレイの支援プログラムに参加する起業家ら(東京・渋谷のインキュベーション施設)

 17年11月10日、渋谷にインキュベーション施設を開設したプラグ・アンド・プレイの「お披露目式」は、300人を超える起業家や関係者らでごった返した。通常のスタートアップのイベントとは雰囲気が違う。カジュアルな服装の起業家よりスーツ姿のビジネスマンが目立つ。大企業の新規事業や研究開発部門の担当者らだ。

 「日本の大手銀行や保険会社と組み、事業を拡大していきたい」。認証技術を手掛ける米ノーパスワードの事業開発担当、ホマ・サレー氏は力を込める。支援プログラムに選ばれた国内外の起業家らが次々と事業モデルを披露した。

 「シリコンバレーでの実績を東京や北京など世界に広げていく」。あいさつに立った創業者のサイード・アミディ最高経営責任者(CEO=57)は強調した。起業家や投資家、大企業が集積する「シリコンバレーの縮図」を渋谷で目指す。

 プラグ・アンド・プレイは06年にイラン系米国人のアミディ氏らがシリコンバレーで設立した。米ペイパルや米ドロップボックスに出資した実績を持つ「世界最大のアクセラレーター」として知られる。支援先は2000社を超え、出資先は700社超。支援したスタートアップの資金調達額は総額60億ドル(約6700億円)を超える。

 アミディ氏は1970年代後半のイラン革命を機に両親とともに米国に移住した。不動産事業などを経て90年代初めにスタンフォード大学の近隣に2階建てビルを取得。創業したてのペイパルやグーグルに部屋を貸し出した。その建物はいつしか成功企業が相次ぐ「ラッキービル」と呼ばれるようになった。

 その経験から、より効率的に起業家を支援するため、数百社のスタートアップが入居する現在のインキュベーション施設をシリコンバレー中心部に設立した。

 その後、インキュベーション施設は世界13カ国・25カ所に広がり、アジアではシンガポールやジャカルタ、中国本土にも広く進出している。大企業との幅広いネットワークが強みで、提携先は200社を超え、日本からも30社超が協力する。

起業家と大企業、橋渡し

米プラグ・アンド・プレイのサイード・アミディCEO

 日本第1号となる渋谷の施設は、提携先の東急不動産の1階フロアを占有。三菱UFJフィナンシャル・グループやパナソニックなども参画し、大企業との交流イベントを定期的に開催している。「技術開発のみならず海外での営業やマーケティングのノウハウを提供できる」(アミディ氏)

 大企業はここで有望なスタートアップを発掘する。プラグ・アンド・プレイは支援するスタートアップの選定段階から、提携を念頭に大企業と綿密に協議を重ねる。アミディ氏は「大型船(大企業)は正しい方向に進めば大きな価値を生む。スタートアップは感度の鋭い小さな高速船だ。両方を融合させる存在になりたい」と語る。

 「事業がすぐに成就しないこともある。お互い失敗を容認する文化を育んでほしい」。アミディ氏は大企業に注文をつける。富士通経営戦略室の林尚郁シニアマネージャーは「同じ船に乗っている認識だ。自社の技術もスタートアップに公開し、ともに新しいディスラプション(破壊)を起こしたい」と話す。

 日本の支援プログラムではフィンテックや、あらゆるモノがネットにつながるIoT、保険とIT(情報技術)を融合したインシュアテックの3分野からスタート。まずは国内外の21社を選抜した。年10社ほどに出資し、3月までにはモビリティー分野でも支援を始める計画だ。

 インキュベーション施設の国際ネットワークを使い、海外スタートアップの日本進出も後押しする。金融業界向けに規制順守の手続き自動化を手がける米ヘクサニカはフィンテック分野で支援対象に選ばれた。ヨゲシュ・パンディットCEOは「日本の大手銀行と協議を進めている」と既に感触を得ている。

 近年、アジアでは中国や韓国に進出する海外のVCが増えている。一方で、日本に拠点を持つ欧米のVCの数はまだまだ少なく「国際的に活躍する日本のスタートアップが少ない理由の一つ」(米VC関係者)とも指摘される。アミディ氏は日本での支援事業について「エコシステムづくりは離陸したばかり。本番はこれからだ」と力を込める。
(企業報道部 駿河翼)[日経産業新聞 2018年1月12日付、日経電子版から転載]

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