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22歳が仕掛ける「アンバンドル」 自動運転、転換迫る
NextCARに挑む 米国からの波頭(上)

22歳が仕掛ける「アンバンドル」 自動運転、転換迫るNextCARに挑む 米国からの波頭(上)
 世界2位の自動車市場である米国。1908年発売の「T型フォード」で量産技術を生み出した自動車大国は今、自動運転や環境といった次世代車の分野で、フロントランナーの地位を固めようとしている。今月開催の米家電見本市「CES」と北米国際自動車ショーはこうした技術の祭典となり、自動車産業にもたらす構造変化の大きさを印象づけた。

 「時速120キロメートルの車が完全に停止するには、200メートル先の異常まで検知する必要がある」。CESが開かれた米ラスベガス。会場の一角でワゴン車に乗り込むと、センサーが捉えた周囲の様子を点画の要領で周囲を鮮明に映すモニター画面があった。大学生風の男性が説明を始めた。

ルミナーのラッセルCEO

 この男性はレーザーを使った自動運転車の「目」、LiDAR(ライダー)の開発を進める米ルミナーテクノロジーズ(カリフォルニア州)のオースティン・ラッセル最高経営責任者(CEO)。物理を学ぶために進学した米スタンフォード大学を3カ月で中退し、17歳で起業。まだ22歳だ。

中核技術で覇権狙う

 「自動運転の試験車両の速度が遅いのは、LiDARの検知できる距離が30~40メートルと短いから」(ラッセル氏)。大学中退後に米フェイスブックなどへの投資で知られるピーター・ティール氏の支援を受け、LiDARを一から開発した。主要部品の素材にインジウム・ガリウム・ヒ素を使うなどして「200メートルの壁」を越えた。

トヨタ自動車は自動運転実験車両にルミナーのセンサーを採用

 ルミナーには既にトヨタ自動車など4社が目をつけた。トヨタはCESで公開した自動運転の車試験車両にルミナーのLiDARを搭載し、それを公表した。「部品会社は黒子」という業界旧来の力関係はそこに無く、ラッセル氏も「パソコン時代の『インテル・インサイド』のようになりたい」と話す。

 英IHSが見込む自動運転車の世界販売は、2040年で3300万台超。従来の自動車業界のプレーヤーは強力なセンサーや人工知能(AI)といった技術を持ち合わせておらず、スタートアップを含む「よそ者」には参入の好機だ。通信やIT(情報技術)業界が経験してきたような、既存の枠組みの解体や組み替えが起こる「アンバンドル」の波が自動車業界にも押し寄せる。

 「100年続いたピラミッド型の自動車業界の構造が変わってきた」。電波を使う自動車向けレーダーを開発する米メタウエーブ(カリフォルニア州)のマハ・アシュールCEOはこう感じている。17年の発足で、CESは初参加。だが借り上げたホテルの1室には毎日100人以上が詰めかけた。

 同社もまた200メートル先を見つめる。米ゼロックス傘下のパロアルト研究所(PARC)の技術を基盤に、素材の改良やAIの応用に取り組む。アシュール氏は無線などの分野の起業歴を持つ。

 自動運転車の目としてはLiDARへの関心が高いが、アシュール氏は「検知距離や悪天候への対応などに限界がある」とみる。PARC出身者に加えて素材やAIといった分野から技術者を集め、およそ半年で15人の体制を作った。

 10年設立のオートノマスタッフ(イリノイ州)も自動運転の実用化を好機ととらえる一社だ。ロバート・ハンブリックCEOは、生産ラインの自動化などを支援する企業での勤務を経て起業。経験を生かしてセンサー開発から始め、現在は自動運転の試験車両の生産などを幅広く手掛ける。

 「自動車業界の構造が大きく変わり、1社ですべてを手掛けるのは難しい」(ハンブリック氏)。同社の顧客は2000社を上回り、自動運転に力を入れる半導体大手の米エヌビディアや中国IT(情報技術)大手の百度(バイドゥ)、ルネサスエレクトロニクスなどの車は同社製だ。

太さ増す資金流入

 自動車産業の構造変化を目の当たりにして、スタートアップへの資金の流れも太くなってきた。米マサチューセッツ工科大学出身で09年に米クリアモーション(マサチューセッツ州)を設立したシャキール・アバドハニCEOは「投資家の姿勢は一変した」と打ち明ける。17年に米JPモルガン・チェースなどから1億ドル(約110億円)を調達し、車の揺れを大幅に抑えるショックアブソーバーの開発を進める。

 基本になるのは雑音と正反対の波形の音をぶつけて中和する、ヘッドホンのノイズキャンセリングのような仕組みだ。米音響大手のボーズが自動車向けに開発していた関連技術も買収した。自動運転時代をにらみ「車内をオフィスや居間として使えるようにする」(アバドハニ氏)。

 米PwCによると米ベンチャーキャピタル(VC)による自動車分野のスタートアップへの投資額は17年1~9月期に9億ドルを超え、16年通年(8億8200万ドル)を上回った。

 若い起業家、技術や人材、資金――。コマがそろい、自動車業界でもアンバンドルが一気に進む条件が整いつつある。ただ課題もある。取材で浮かび上がったのはスピード、量産の壁、そして既存企業とスタートアップとの関係構築だ。

量産技術に課題

 スタートアップはスピード重視で大企業が解決できない課題に挑戦する印象が強いが、自動車業界はこれまで7年前後のサイクルでビジネスを回してきた。自動車向けに力を入れ始めた半導体メーカーの幹部は「周期が1年のスマートフォンと、7年の自動車の違いは大きい」と話す。

 量産も課題といえる。現在、完成車や部品各社はスタートアップの技術を試験車両などに使い始めた段階だ。だが、電気自動車(EV)の米テスラが量産で苦戦しているように、量産は開発とは異なる能力が要る。ある大手自動車メーカーは米シリコンバレーの研究拠点に量産の担当者を送り込む検討を始めた。

 スタートアップにとってM&A(合併・買収)で大企業の傘下に入るのも経営判断のひとつだが、資金供給の環境がいいこともあり独立志向を強めている。独立心の強い企業が自動車メーカーなどとどう付き合っていくか。いかに相互にメリットのある関係を築くかもアンバンドル時代を勝ち抜く条件といえる。
(ラスベガスで、編集委員 奥平和行)
[日経産業新聞 2018年1月16日付、日経電子版から転載]

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