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「こんな場所に?」  ホテル立地、変わる常識

「こんな場所に?」  ホテル立地、変わる常識
着物姿で写真を撮る訪日外国人

 2017年に過去最高を更新した訪日外国人客数。訪日客が増えるにつれ、ホテルの立地が変わってきた。「都心の駅前」に偏っていたが、「こんなところに?」と思う場所に続々と進出している。日本人にとっては意外でも、訪日客の視点に立てばそここそ観光地。ホテルをきっかけに街が変わったという声もある。あなたの住む街にもホテルができるかも。

訪日客、意外な所で大はしゃぎ

 浅草駅から東武スカイツリーラインで20分ほど。平日の午後8時、西新井駅(東京・足立)近くの「エンブレムホステル西新井」を訪れると、欧米やアジアの旅行者らであふれかえっていた。

 「ミートアップイベントを開きます」。英語のアナウンスが流れ、バーに宿泊客と地元住民が続々と集まってきた。「滝に打たれてきたよ」とカナダ出身のアントニー・ヒシュカさん(21)。住民との会話がはずむ。

 エンブレムではほぼ毎日イベントがあり、約200人以上の住民が自主的にもてなす。この日は蔦川はるみさん(69)による着物体験も。「最高にクール」とドイツ出身のケン・ハウザーさん(30)がはしゃぐ。

 別の日には、魚がし寿司の柏倉幸男さん(67)がすし握り体験を開催。「ソフトソフト、ロールロール~」。妻のたついさん(66)が英語で繰り返し、カナダ出身のオーティン・マクファーランドさん(23)ら8人が笑いの渦に包まれた。

 オープンは2015年12月。仕掛けたのは入江洋介社長(40)だ。三井不動産でマンダリンオリエンタル東京の開発に携わったが、自らホテルを営みたいと転職を経て、米コーネル大学に留学。夢を実現させた。

 西新井にはほとんどホテルが進出してこなかったが、入江社長の目には「ディープでバックパッカーにとって魅力」と映った。とはいえ、ここならではの体験を提供しなければ......。

住民、イベント開き交流

 そこで着目したのは下町の住民力。呼びかけたところ、予想以上の人が集まった。型苦しいルールは一切なし。何度も参加したくなるような空気をつくった。「ホステルができて街の姿が一変した」と柏倉さん。ブッキング・ドット・コムなどに体験談が載り、口コミで広がった。宿泊客の9割以上が外国人で、稼働率はほぼ満室とされる8割を超えるようになった。

 宿泊客に都内のどこに行く予定か聞いたところ、新宿や渋谷を挙げた人はごくわずか。訪日リピーターにとって、観光バスで皇居などキラキラしたスポットを巡るだけが東京観光ではない。裏路地や昭和の香りがする商店街。何げない日本人の生活を垣間見ることが観光価値なのだ。

 17年12月には「エンブレムステイ金沢」(金沢市)を開いた。地元の市場のそばにあり、食で住民と訪日客をつなぐ。「リトル京都」としてよそ行きなイメージで知られる金沢だが、住民との素朴な交流が、外国人を喜ばせている。

 ロボットが活躍するエイチ・アイ・エス(HIS)グループの「変なホテル」。昨年12月に開いた都内初の場所は江戸川区の西葛西だ。観光客になじみが薄いが、東京メトロ東西線が通り「都心にも東京ディズニーリゾート(TDL、千葉県浦安市)にも行きやすい穴場」(マネジャーのウマルフ・マルフ氏)。無料送迎バスも毎日走らせ、TDL最寄りのJR舞浜駅には約30分で着く。

星野氏「ディープな文化、観光に最高」

 ホテル業界では長らく「1に立地、2に立地、3にも立地」といわれてきた。星野リゾート(長野県軽井沢町)が2017年に日雇い労働者の街、大阪・新今宮と風俗店もある東京・大塚に新ブランドの都市型ホテルを出すと公表し、「なぜあんな場所に?」と業界を驚かせた。星野佳路代表に「立地論」を聞いた。

 ――かねて都市型ホテルは立地がすべてと言っていましたが。

 「都市型ホテルは駅前など立地の良さに稼働率や単価が比例する。立地の良い場所から業績は上がり、悪い場所は単価を下げざるを得ない。歴史的にそうだが、今でもこの定説は通用している」

星野リゾートの星野佳路代表

 ――ではなぜ、新今宮と大塚に?

 「これまでの都市型ホテルはビジネス利用を想定してきたので、ビジネス街の駅前が最良の立地だった。だが地方から来た観光客や訪日外国人客(インバウンド)の目的はビジネスではない。ビジネスにとって悪い立地も、インバウンドにとっては最高の立地かもしれない」

 「大阪の新今宮はその象徴だ。ビジネス向けでは新今宮の駅前は最悪の立地だと思われていた。だが観光の視点で大阪を見ると、地域のディープな文化が感じられる場所が最高の立地と考える人もいる。これまで単に『立地が良い』で済んでいたが、誰にとっての立地か定義せざるを得なくなった」

 ――そもそもホテル業界は顧客層に合わせた立地選びをしてこなかったのか。

 「他の業界では1970年代~80年代に(市場を細分化する)セグメンテーションマーケティングをはじめた。ホテルにはなかった。バブル崩壊とともにホテルが供給過多になり、新しいホテルを作る動きがここ30年なかったからだ。ここ数年でようやくマーケティングする環境になった」

 ――「星野リゾートトマム」(北海道占冠村)は「雲海テラス」で夏の集客に成功した。新今宮駅前や大塚はどう魅力をアピールするか。

 「新今宮駅前は(人気観光スポットの)通天閣まで歩いて行ける。梅田の駅前ホテルに泊まるよりもはるかに大阪にいる実感がわく。東京は通常、渋谷や銀座など(を集めて)都市全体の魅力をアピールしている。対して大塚は、ここだけを切り取って地方の田舎に置いても行くだけの魅力がある街だ」

 「今ある素材をどれだけしっかりと伝えて自分たちのコンテンツとして生かせるかが勝負。リゾートでは自然の魅力や地域性を演出して滞在の楽しみ方を提案してきた。同じ事をやりたい」
(清水孝輔)[日経MJ2018年1月8日付、日経電子版から転載]

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