ストップ! リクルートスーツ論争
人事部の視点(3)
高知大学特任教授の中澤二朗です。一昨年まで、長い間にわたり、企業人事にたずさわっていました。毎年この時期になると、就活生の不安をよそに、大人の困ったこの話が繰り返されます。リクルートスーツ論争です。今日はリクルートスーツ論争に決着をつけます。
まず、結論から申し上げましょう。リクルートスーツは必要です。それも、1着でかまいません。誰もがよく選ぶ無難なもので当然さしつかえありません。無難とは他人から見てではありません。あなたが見てです。要するに、余計な心配がいらないスーツです。言い換えれば面接の邪魔にならないものです。
面接集中すべきは伝える内容
理由は2つあります。1つ目は、皆さんにはリクルートスーツをたくさん買う余裕がないはずだからです。余裕があれば交通費、宿泊費、参考資料代に回したほうがよいです。2つ目は、面接で集中するべきものが伝える内容などであって、着るものではないからです。皆さんは1日に複数社回ります。着替えをする場所も余裕もありません。訪ねる会社は、業界も違えば、好みも違います。たとえ同じ会社であっても、面接官も十人十色。価値観も違えば、受け取る印象も異なります。それに合わせることは無理です。
とはいえ、例外はあります。おカネに余裕があるならば、スーツを何着か買ったらいいでしょう。高価なスーツを買う選択肢もあります。本命の会社に勝負服で着飾っていくのは、ありです。
悪印象でなければOK
要するに、着るもので大事なのは(例外ケースを除けば)、まず、玄関払いをされないことです。そして、悪い印象を持たれないことです。簡単にいえば、礼を失しない。印象を悪くしないことが大切なのです。
面接で着るものは、減点されることはあっても加点されることはありません。企業は大変な労力とおカネをかけて人を採り、人を育てます。たった数万円で着飾れる衣服でもって判断するほど、なまやさしくはありません。
学生の方には反論もあるでしょう。しかし私は以下のように答えます。
学生A「第一印象を決するのは服装という会社がありますが......」
わたし「第一印象であって決め手ではありません。無視して下さい。ただ、身だしなみだけは気をつけましょう」
学生B「無難な黒や紺のスーツで来た人は評価しませんという会社もあります」
わたし「言語道断です。理由は前述の通りです。それでも本命の企業であれば、例外として臨みましょう。その会社の言い分に耳を傾ければ『入ってから個性を磨いて下さい』『その個性を出して是非会社に貢献して下さい』というメッセージが浮かんできます。そこまで意を汲んで面接に対応したらいいでしょう」
スーツ着用は手間省くため
最後に企業人事の方へ申し上げたいことがあります。生意気な言い方で申し訳ありませんが、もうそろそろリクルートスーツ論争はやめませんか。われわれ大人が自身をふりかえれば、もう決着がついているはずです。
普段私たちはなぜスーツを着るか。手間・ヒマ・カネがかからないからです。突然の見舞いや訃報にも対応し、礼を失することがないようにするためです。自分たちのことは棚上げし、自分の会社目線だけで話をするのは、もうやめましょう。それが自分の子どもたちであったら、きっと困るはずです。
個性を表に出すこと自体には私も賛成です。しかし、それをただでも頭がいっぱいの就活生に求めるのは酷です。その主張は、学生が御社に入ってから、存分にぶつけたらいかがでしょうか。
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