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池上彰の大岡山通信 若者たちへいい質問をする会(上)―日米蜜月に思わぬリスク

池上彰の大岡山通信 若者たちへ いい質問をする会(上)―日米蜜月に思わぬリスク
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 東京工業大学で「池上彰先生に『いい質問』をする会」を開きました。学生たちの日ごろの疑問や関心事に対し、教授として答えるという初めての試みです。まず私からの問題意識として「日米関係」をテーマに話をしました。今回はその一部を紹介します。高校生や大学生の皆さんも、一緒に考えてみませんか。

 君たちは小学校のころから、先生の質問に答え、定期試験や入学試験で正しい答えを出す訓練をしてきたのでしょう。でも、大学では「自らの問いを立て、その答えを考え抜く」という経験を積んでほしいのです。それがこの会を実現しようと考えたきっかけです。

◇ ◇ ◇

 ドナルド・トランプ大統領と安倍晋三首相は「蜜月関係」といわれます。トップの仲の良さは両国の交渉ごとにはプラスでしょう。ただし、「馬が合う」というのは果たしてプラス面だけなのでしょうか。大統領個人と仲良くし過ぎるリスクもあるのではないかという心配もあります。

 たとえば、トランプ大統領がイスラエルの首都をエルサレムと認め、大使館を移すと宣言しました。

 この決断には米国内の事情が影響しています。今年は連邦議会の中間選挙があり、2020年には大統領選が控えます。2期目を目指すトランプ氏は目に見えるかたちで公約を実現し、影響力を持つユダヤ系人脈を大事にしたいのです。

 さらにトランプ大統領周辺とロシアとの不透明な関係を巡る疑惑「ロシアゲート」から目をそらすためではないかという批判もあります。

 トランプ氏の決断にイスラム世界が反発し、新たな火種となることが懸念されます。

◇ ◇ ◇

 第2次世界大戦後、国連はパレスチナを「ユダヤ人の国」と「アラブ人の国」に分割することを決めましたが、3つの宗教の聖地エルサレムは国際管理とすることにしました。国際紛争を避ける知恵でした。ところが、中東戦争を経て、イスラエルはエルサレム全域を占領。実効支配してきた経緯があります。

 イスラム世界から見れば、エルサレムが異教徒に支配されてきたと映るのです。トランプ大統領は、米国から遠い中東で衝突が起きるというくらいにしか感じていないのかもしれませんが、イスラム世界の怒りを軽んじることは危険です。

 世界の首脳らは素早く反対の立場を表明しました。後に日本も、米国の決定を無効とし、撤回を求める国連の決議案には賛成に回りましたが、当初の対応は明確ではありませんでした。

 「北朝鮮問題を抱えているときにトランプ大統領の機嫌を損ねるのは得策ではない」という配慮が働いていたのかもしれません。ただ、配慮するあまり、思いがけないリスクが日本に及ぶことはないのでしょうか。

 日本は1970年代、中東戦争で石油危機が起きたとき、アラブ諸国から「石油とイスラエルのどちらを取るか」厳しい選択を迫られました。日本が国際社会で置かれている構図はいまも同じ。こうした現代史を知っておいてほしいのです。

 日米関係を話題にしましたが、親密な外交関係に潜む影響を別の角度から考えることも、「時代を読む視点」を養うきっかけになるでしょう。

 次回は国際情勢に対する疑問や問題意識について、学生たちとの対話を紹介します。

[日本経済新聞朝刊2018年2月12日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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