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終電を逃したらどうする? 
深夜だけ限定アイドルの世界

終電を逃したらどうする? 深夜だけ限定アイドルの世界

 ついつい逃した最終電車。寒空の下さまようよりはと、はしご酒でだらだら始発待ちしていませんか。深夜に陥る謎のハイテンションを楽しまなければもったいない! 深夜営業縮小が相次ぐ中、深夜ハイの状態でテニス、ボードゲームに興じる人々や「始発待ちアイドル」が現れるなど、おかしな盛り上がりをみせている。始発待ちの時間に何が隠されているのか?

始発待ち、ゆるく楽しむ

 終電もなくなった深夜の東京・渋谷。4人の女の子が観客の目の前でジャンボジェンガで遊ぶ。

 「『好きな歯磨き粉はなに?』えー、クリアクリーンかなー」

深夜1時から始まった「始発待ちアンダーグラウンド」の結成イベント(昨年8月、東京都渋谷区)

 ジェンガにかかれたどうでもいい質問。「自分を動物にたとえるなら」「好きな食べ物は」。代わる代わる4人がジェンガを抜いて読んでは上に積んでゆく――。

 この不毛なトークイベント、主役である彼女たちの名は「始発待ちアンダーグラウンド」。渋谷で終電を逃した4人が暇つぶしに結成した、という設定のアイドルだ。

 設定よろしく昨年8月の結成式は午前1時にスタート。まだ持ち歌はないので、メンバーによる民謡の披露、お客を交えた大喜利、メンバーオリジナル紙芝居の朗読、ビンゴなど4時間近くふわっとした企画が続く。

 会場の40人近くの観客はほぼ全員があきらかに飲んできた感じ。終電を逃して楽しそうだったからたまたま寄ったという三輪祐嗣さん(36)は「会場でも飲んでたし、ワイワイしてたけどよく覚えていない」とイベントの感想を語る。撮った覚えのない写真が携帯に残っていたといい「見返すと楽しんでたみたい。一人で飲むくらいならこっちかな」。

 メンバーのムラタ・ヒナギクさんは「会場は突っ込む元気もないよという感じでした。あの時間のゆるい雰囲気、好きです」と始発待ちを猛プッシュする。来月、再び深夜のトークイベントを開催する予定だが、来月下旬の初ライブはなぜか朝の9時半かららしい。

金曜日は翌朝6時まで営業するゲームカフェ(東京都千代田区)

 「これはゴキブリではありません」「残念、ゴキブリでした」

 ところ変わって深夜3時の東京・秋葉原、雑居ビルの3階「ゲームカフェ秋葉原集会所」に、アナログゲームに興じる人たちがいた。ボードゲームカフェでは珍しく、毎週金曜は朝6時まで開いている同店。100種類超のゲームをしに、わざわざ深夜に人が集まってくるという。

 「ごきぶりポーカー」というカードゲームをしていたのは会社帰りに飲んでから寄ったという打越優さん(32)。飲み続けるのは好きじゃないといい一人で訪れては「深夜だとからみやすいから」とその場で会った人と一晩で10種類ほどのゲームをする。「マージャンは単調で飽きるし、ほら、後半ギスギスしてくるでしょ」。その点、アナログゲームは安心。勝ち負けでなく純粋にゲームを楽しめるのだそうだ。

 会社の新年会帰りに同僚と神保町から歩いて来た荒山鉄平さん(27)は「カラオケオールはきつい。ボードゲームでクールダウンです」と次々に棚にあるゲームを手にして勝ち負けを繰り返し、5時にはすっかりヘロヘロになっていた。

女性らもハイ

高輪テニスセンターで週末、始発までテニスを楽しむ(東京都港区)

 アドレナリンが出ているのか深夜はヘンなテンションになる。社会人サークルの「ゆるスポ」はその勢いで、週末の深夜1時から始発が出るまでテニスに明け暮れる。もう帰れないと追い込まれるので、かえって集中できる......らしい。

 会場である品川プリンスホテル高輪テニスセンター(東京・港)では、8人の参加者が開始早々フルスロットルの勢いで打ち込みを始めた。

 「朝からテニスをして、昼、夜遊んで、深夜にテニス。打ち足りないんです」と常連の高橋智里さん(25)が語るように集まったのはかなりのテニス好きの面々。「深夜は人数が少ないからたっぷり打てる」(高橋さん)。始発までほぼ休憩もなく、ひたすら打ちまくっていた。ただなかには「金曜だと仕事の後なので相当つらいし、ねむい日はねむい」(泉良樹さん・24)との声も。

24時間営業の「クリアドベンチャース 」でボルダリングを楽しむ人たち(川崎市)

 さすがに3時以降は足どりが重そうで「ごめんなさい」の声が増えたようだったが、4時ごろの最後の試合は一ゲームごとに歓声があがり今日一番の盛り上がりとなった。藤江巧真さん(30)は汗をふきながら「気分爽快です。駅で飲み明かした人を見ると優越感がある」と後悔とは無縁のひとときを満喫した。

 どうも深夜は体がうずくらしい。昨年11月には、国内では珍しい24時間営業のボルダリングジム「クリアドベンチャース」が川崎市にオープンした。危険なため飲酒後の利用はできないが、ここで壁を登りながら朝を迎える人も。東京・足立在住の会社員、岡崎一輝さん(24)は金曜は朝まで壁を登り続ける。「深夜は僕だけのときもあるから、おもいっきり叫びながら登る」。これぞクライマーズハイ。

 ちょっとおかしくなるくらいがちょうどいい。始発待ちの時間は誰もがハイになる魔法のひとときだった。
(二村俊太郎)[日経MJ2018年1月19日付、日経電子版から転載]

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