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ホッピー、3代目は2つの大学院修了
新・同族経営

ホッピー、3代目は2つの大学院修了新・同族経営

 同族企業の後継者には会社と学校の二足のわらじを履く人がいる。ホッピービバレッジ(東京・港)の社長の石渡美奈氏もその一人。まず早稲田大学ビジネススクールに進学して修士号を取得。その後、慶応大学大学院で学び、2つ目の修士号を取った。学問とのつながりは続き、研究と経営を両立している。

技術経営コースで論理的思考磨く

 同社は1905年の創業。石渡氏は3代目にあたる。アルコール飲料を割って飲むビール風味の割り材が主力で、地ビールなども手がける。売上高は約40億円(2017年3月期)、社員は約40人。

 石渡氏が03年に副社長に就任したころから、父の光一氏は業務を少しずつ任せるようになった。このときに力を入れたのが、自分の代を支える社員の育成だった。そのために07年に新卒採用をスタート。若い社員を育てながら、後継者として実績を積み上げた。

 事業承継に向けて経営者に必要なスキルを高めようと09年、早稲田大学のビジネススクールに入学。技術経営コースに入り、寺本義也教授の下で学んだ。IT(情報技術)の専門用語が多く当初は苦戦。それでも仮説と検証を繰り返すなかで論理的思考を少しずつ身につけた。10年に社長に就任すると、実際の経営に取り入れた。

社員への伝え方を変える

ホッピービバレッジの3代目社長の石渡氏は父から事業を引き継いだ。

 同社は家族で経営する会社のため、祖父の代から家族主義的な企業風土がある。石渡氏はそのベースを変えるつもりはない。一方、時代に合わせて変えなければならないところもある、と思った。

 例えば社員への伝え方。祖父や父の代までなら、経営者としての思いを伝えれば社員は動いたかもしれない。しかし、若い社員はそれだけでは難しい。むしろロジカルに整理して語ることで説得力が増し、前に進むことがある。同じ社員にも、感情で伝えた方がいいときとロジックで伝えた方がいいときがある。石渡氏は「思いとロジックのハイブリッドが大切」だと気づき、実践してきた。

 数年がかりで事業承継の準備をしていたこともあり、父から一人娘への経営の引き継ぎは順調だった。それでも石渡氏はいつからか「経営者として生きるため、論理的な思考をもっと身につける必要がある」と考えるようになった。といっても、ロジカルな発想で壁にぶつかったわけではない。むしろ「トップが立ち止まると、この会社の成長も止まるのではないか」という危機感が大きかった。

社員を幸せにする経営をテーマに

主力商品の「ホッピー」はビール風味の割り材として広く知られる

 信頼されるトップでいるには自分が成長し続けなければならない、と考えた石渡氏は14年、慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科に入学。2度目の大学院通いに周囲の経営者には「勉強する時間があるならば、お客さんを回ったほうがいい」という人がいた。「経営者にそこまでの学歴はいらないのではないか」という社長もいた。それでも「100人の社長がいれば100通りの考え方がある。どちらがいいとか悪いとかではない」と気にしなかった。業績が順調だったことも決断を後押しした。

 慶応では前野隆司教授の下、研究のテーマを社員を幸せにする経営に据えた。「会社は長い時間を過ごす場所。縁あって入った社員には幸せな人生を送ってほしい。自分の人生を幸せにする力がないと、仕事も頑張ることができないし会社の業績も上がらない」(石渡氏)。幸福の要因を論理的に分析する前野教授の講義は刺激的で、石渡氏は多忙ななかでも時間をやりくりして週2~3回のペースで授業に出席した。2年のコースを終え、修士論文では企業が取り入れている森の中で過ごす研修プログラムを取り上げ、参加者の行動などを分析して自らや他者を受け入れるメカニズムなどを調べ、2つ目の修士号を取得した。

 学び続けてきた石渡氏は会社を「道場」だととらえている。社員が幸せになるには心を磨く必要があり、それは経営者の果たすべき役割だとする。そのために学問の成果を生かす。例えば、森の中で過ごすプログラムには社員の3分の1が参加してきた。修士の修了後も慶応の研究生として活動。前野教授の最近の著書「実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義」を通して、改めて「自分を知り、自分の力を見いだす」大切さを知った。

 学問を通じて経営者としての経験を社会に還元したい気持ちもある。中小企業の経営者は営業からマーケティング、広報・宣伝、製造、財務までを担当する。石渡氏は「経験値を学術的にひもといてみたい」と話す。これからも学びながら経営を続けていく。
(中沢康彦)[日経電子版2018年1月30日付]

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