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和える(aeru)の夢(6)これからの安泰な会社とは?

和える(aeru)の夢(6) これからの安泰な会社とは?
authored by 矢島里佳和える代表

 みなさん、働くならどんな会社で働きたいですか。世の中に安泰な会社というものは、存在するのでしょうか。1990年代のバブル崩壊を境に、良い学校に行き、良い会社に就職すれば一生安泰という、人生の成功パターンが崩れ始めている今、"安泰"ということ自体が神話化しつつありますね。それでも未だに私たち人間は、どこかで安泰を求め続けているように感じます。

「社員を守る」、創業時から理想追求

 みなさんは働き始めるときに何を大切だと考えていますか。自分が本当にやりたいこと? それとも給料が高いこと? 福利厚生が手厚いこと? どのようなバランスで働くということを考えるのでしょうか。

 私は、一生に一度の人生、自分の気持に素直に、自分がやるべきだと思ったことを仕事にし続けてきました。お金もとても大切ですが、お金だけあっても幸せでないことには、みなさんすでに気がついていると思います。それでもお金がなくなることの恐怖から抜け出せない人が多いようにも感じます。

 けれども、お金という物自体、人間が生み出したもので、必ずしも自身を守ってくれるものではなく、いつか無くなる可能性も大いに有りえます。災害など非常事態が起きた際に、お金で買いたくても物が手に入らないということもありますよね。

 私は、経営者の大切な役割の一つに、社員を守るという仕事があると思っています。人生を共にしてくれる社員を、災害時も含めてどのように守ることができるのか。創業時から常に考えてきました。

 和えるくん(会社)の死はお金がなくなること、そして和えるくんを育む人(社員)がいなくなることです。では人の死は何かと考えると、お金がなくなることではなく、水や食べ物がなくなること。和えるくんが生き続けられるように経営者としてお金を得ることももちろん大切ですが、それと同じく大切なのが、社員のために水と食べ物と住む場所を用意しておくことだと考えています。

秋田のsatoyama事業、大きな一歩に

地元の男性2人の案内で山を歩く(秋田県五城目町)

 そこで創業時から、いつか山を求め、水と食べ物と住む場所を保有する計画を立ててきました。今年からいよいよ秋田県中央部に位置する五城目町(ごじょうめまち)で"aeru satoyama"事業として、緩やかにスタートできそうなところまできました。

 地元の人たちから農業、林業の知恵を社員が受継ぎ、「山守」と呼ばれる山の番人として、和えるの山で食料の生産を行います。5~10年後の安泰な会社ランキング上位の会社は、みんな山を保有している会社になっていたら面白いなぁと、最近ふと考えたりしています。

 それから、"aeru satoyama"事業が本格的にスタートしたら、年に2週間〜1ヶ月ほど、和えるの山で、全社員が各々好きなタイミングで、仕事をすることも推奨していこうと考えています。自然とともに生きるという、本来当たり前であったことから、私たち人間は長らく離れてきてしまったように感じます。

 ですから、社員の心と身体の健康のためにも、自然とともに生きる感覚を取り戻していける機会を、会社として設けていくべきだと思うのです。また、会社に入って「お金を生み出すビジネススキルが身についた」ということだけでなく、「生きる力がついた」と感じられる状態を目指したいと思っています。

 そして、社員を守るということはもちろんですが、実は日本の伝統を次世代につなぐという、和えるの本質にもこの事業はつながってきます。戦後復興の流れで多くの杉(針葉樹)が全国各地で植えられ、日本全国の山が人工的に植えられた杉だらけになったまま放置されてしまっているのです。この人工林を、もう一度広葉樹と針葉樹が共に支え合うバランスの良い山に戻し、美しい里山という伝統も次世代につないでいきたいのです。

 また、"0から6歳の伝統ブランドaeru"の商品づくりで欠かせない、木、漆、楮(こうぞ)などの原材料の生産にも、aeru satoyama事業では挑戦をしていこうと考えています。

次世代のため、できることから始めよう

岡山・備前焼の登り窯の跡地を訪ねた

 実は、今多くの日本の伝統産業の原材料は、外国での生産に頼っており、国内で原材料を確保することはかなり難しくなってきています。自国の伝統産業でありながら、他国が原材料の生産をやめてしまうと、日本の伝統産業がものづくりを続けられなくなる状況にあるのです。

 これも創業時からずっと気にかけてきたことでした。とても気の長い事業にはなりますが、和えるは常に中長期的な視点でビジネスモデルを考え、循環していくビジネスの生態系を生み出そうと考えているので、今すぐお金に変えることだけを考えるのではなく、将来の経営者が困らないように、つまり将来の社員を守るという観点でも、この"aeru satoyama"事業は和えるのとても重要な事業として位置付けています。

 さて、ここまで書いてきて感じるのが、近代の人間の歴史を振り返ると、どうもお金を生み出すことに意欲が向けられすぎて、本質から離れてきてしまったのだと改めて感じます。

 水や食べ物、住む場所よりも、お金。効率的に木を切るために人工林を大量に生み出し、お金に変わらないと放置してしまう。モノづくりはするけれど肝心の原材料は、海外に依存している......。人間が最も利潤を得ようと全てを効率化した結果、どこか調子がおかしくなってきている。今私たちはその近代の歴史と真正面から向き合っているのだと思います。

 人間も、会社も、自然も、もう一度生態系を見直す時期がやってきているのです。私はこれからも、日本の伝統を次世代につなぐために、循環型のビジネスモデルの生態系を生み出し続けていきたいと思います。けれどもこれは、和えるだけでは実現できません。みなさんも一緒に、次世代のために自分ができることから始めてみませんか。

*この連載は今回で終了します。

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