日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

インドでMBA(4)授業に英語と数学の壁
突然の指名に怯える日々

インドでMBA(4) 授業に英語と数学の壁突然の指名に怯える日々
authored by 和泉沢剛

 前回に続きIndian School of Business(ISB、インド商科大学院)のMBAの授業で、私が実際に直面した壁について少しお話させて頂きたいと思います。

インド人は英語と数学に強いってホント?

 「インド人はみんな英語が喋れる」とか、「インド人は数字に強い」とかはよく言われていますが、実際にはそんなことはありません。まず、そもそも約13億人もいるインド人を一括りになどできませんし、英語を喋れないインド人もたくさんいれば、当然みんながみんな数字に強いわけもありません。

 ただし、ISBの学生に限れば、これはYesです。MBAでは英語と数学の基礎力は必須になるのですが、MBA程度のレベルの英語と数学に対して躓いているインド人学生をISBでは今まで一人も見たことがありません。ところが、私にとってはこの英語と数学の壁は大問題です。

 英語については私の場合、外国人留学生が半数以上を占める大学に通っていたことと、学生時代に一年間英国へ語学留学していたこと、就職後も海外ビジネスに携わっていることなどから、日常会話程度ならそれほど支障がないのですが、これがいざMBAが始まってみたら私の英語力では微塵も通用しないという現実を突き付けられました。インドですらこうなのだから米国のMBAなんかはもっと大変なのかもしれませんが、ISBのインド人学生の大半は3歳頃から英語での会話をはじめ、子供のころから学校の授業も日常会話も全て英語により育ってきているようなので、英語は母語と大して変わらない感覚で使っているようです。

 言うまでもなく、日本で生まれ育ち、大学生になって初めて海外に一年間語学留学をし「英語を学んだ」程度の私と、3歳からすべてを「英語で学んだ」彼らとではそれはもう歴然とした差があります。ISBには約1000人の学生がいますが、間違いなく私の英語力は未だにその底辺だと思いますし、今からちょっとやそっと努力してどうにかなるようなレベルの差ではありません。前回も書いた通り、ただでさえ講義とディスカッションのスピードが速いのに英語の能力不足も相まって、コースが始まったばかりの頃は教授や学生が言っていることの半分以下も理解できていなかったような気がします。また、新しい知識を自分の母語でない言語で学ぶというのは簡単なことではなく、毎回授業の度に課される膨大な数のケースの読み込みやアサインメントについても、他の学生よりもどうしても時間がかかってしまいます。

大学時代には英国に一年間語学留学した

 それに加えて、私はいわゆる典型的な文系の出身で数学のバックグラウンドがないことが致命的に授業の理解の足を引っ張っています。他の海外のビジネススクールについては授業を受けたことが無いのでわかりませんが、ISBのMBAはさすがインド、数学を使う機会が本当に多いのに驚かされました。ISBの学生の8割近くがエンジニアでその大半が理工系の一流大学を卒業していることもあり、授業でもどんどん進む計算の過程を理解し周りの学生について行くのは私にとっては本当に至難の業です。

 ちなみにISBは戦略コンサルティングファーム等への就職に圧倒的に強く、そのような業界への就職を目指す学生が実際に多くいます。その際、採用に当たっては学業成績もチェックされるようで、表には出しませんがISBの学生はみんな成績評価に対するこだわりが比較的強いような気がします。試験やアサインメントで手を抜かないことはもちろん、MBAの授業ではClass Participation(授業への貢献度)も成績評価の一部となるのが一般的のため、普段の授業でもインド人の学生はみんな競ったように手を挙げて教授に発言を求めています。

発言少ないとコールドコール

 一方で、私のようにただでさえクラスで唯一の外国人として目立っているのに、周りと比べてあまりにも発言の回数が少ないと、教授から突然名指しで回答や発言を求められることがあります(MBAではCold Callと呼ばれています)。海外の有名なジョークで、"国際会議において有能な議長とは、インド人を黙らせ日本人に喋らせることができる者だ"といったものがありますが、ここではインド人が55人いて日本人が私1人です。プログラムが始まったばかりの頃は英語と数学の壁により一日の授業を通しても一言二言しか発言できないことが多く、このCold Callに怯える日々がしばらく続きました。

一日の授業を通して一言二言しか発言できないことも

 また、成績評価を除いたとしてもインド人の学生は自分の意見や考えを発信することに大変に熱心で、手を挙げたのに教授から指名されなかったり他の誰かに同じような内容を先に発言されたりすると、すごく悔しがる学生が多くいます。最早これはポイントがほしいからという訳ではなく、人口の多いインドのような国では貪欲に自分の意見を発信して主張していかないとすぐに周りの大多数に埋もれてしまうため彼らには普段からそういった習慣が染みついている様にも見受けられます。特にISBに来るような学生たちは常にインドの厳しい競争環境に晒されてエリートとして育てられてきた人が多いため、もしかしたらその傾向が一層強いのかもしれません。

地獄のインド流詰め込み式強化合宿

 インドの教育と言えば詰め込み式教育がよく知られています。私が通っているのは基本的には週末のMBAコースなのですが、プログラム開始時のみ一週間キャンパスにて寝泊まりする詰め込み式強化合宿方式での授業が始まりました。この合宿では、朝8時から夜12時までほとんど休憩も挟まずぶっ通しで授業、その後夜中3時まで翌日提出のアサインメントのためのグループワークというなかなか過酷なスケジュールでした。驚いたのは、そこでは終わらず3時からなんとお酒を持ち寄ってのパーティがスタート。5時頃まで騒いだ後各自の部屋へと解散。授業についていけていない私は、そこから更にその日の復習と翌日の予習、そのまま寝ないで朝8時からの授業に挑み、昼休みに少しだけ仮眠といった地獄のサイクルがスタートしました。普段は睡眠をしっかり取る方なのですが、最初の一週間については3日連続の徹夜とその後も2時間睡眠の毎日が続き(パーティーは初日以外はパス・・・)さすがに疲弊したのを覚えています。


特に一番最初の授業だった統計学では数学が苦手な私にとっては絶望的であり、今後忘れる事がないであろう程の挫折を味わいました。もちろん最初の授業ということで慣れていなかった点もありますが、それを差し引いても「ここまでついていけないものか」と、スタート時点からいきなり心をボキボキにへし折られ、初日から無事に卒業できるのかが大いに不安になってきました。

授業のテキスト

 MBAの授業では予習が大前提で進む為、科目ごとに毎回英語での分厚いテキストと100ページ以上のケーススタディに加え、少なくとも日本語での関連書籍を5~6冊は読んでから授業に臨むようにしています。もちろん最初の授業の統計学においてもある程度は下準備をして挑んだつもりだったのですが、実際には関連書籍を数冊読んだ程度の付け焼刃の基礎知識などほとんど何の役にも立たず、見たこともない数学の公式が飛び交い、JMPやME-XLといった聞いたこともない統計学のソフトウェアを駆使しながら目まぐるしく進んで行く講義には、全くついて行くことができませんでした。

貢献できないもどかしさ


とにかく一番辛かったのは、講義の内容を自分自身が理解できないということよりも、グループワークによるアサインメントでチームに貢献したいのに貢献できないというもどかしさでした。個人アサインメントであればできなければ単に自分の成績が悪くなるだけなのですが、グループアサインメントではグループワークの結果がメンバーの成績にも直接反映されてしまうので、割り当てられた自分の役割を全うしないといけないというプレッシャーが重く圧し掛かります。唯でさえクラスで唯一の外国人学生という事で変な注目を浴びているのに、初日からいきなり「できない奴」のレッテルを貼られたくもないですし、なんとか少しでも貢献できる道はないかともがいてはみたのですが、その日は結局もう飲み物を買ってくるくらいしかできず、メンバーにおんぶに抱っこ状態の自分の無力さに情けなくなり大人になってから久しぶりに泣きそうになりました。

グループワークは室外で行う場合も

 そんな絶望の中、授業についていけないと大きく落胆しているクラスメイトがもう一人おり、同じような境遇に一気に意気投合。その時は、「なんだ、自分だけじゃないのか」とほんの少しだけ安堵し再び前を向いて立ち直ることができたのですが、よくよく考えたら、その彼女は世界の理工系最高峰とも呼ばれるインド工科大学を卒業して米国の大学院で博士号まで取得しているのだから、数学の理解力も英語の理解力も私のそれとは比べ物にならなかったはず。そう考えると、その時点での彼女の「わからない」と私の「わからない」の間には恐らく計り知れない差があったのだろうと、今になって思い出すと少し恥ずかしい気もします。そもそもこの時の私は、一体何がわからないのかすらもよくわかっていませんでした。

 今回はインドのMBAで私が直面した壁と経験した挫折について、少しだけお話させて頂きました。

 次回はこの状況からどのようにサバイバルを生き抜く術を身に着けたのかについてと、インドでの生活とMBAを通して起きた自分の中での変化について書かせて頂こうと考えております。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>