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量子コンピューターって? 
創薬や物流、暮らしに貢献

量子コンピューターって? 創薬や物流、暮らしに貢献
NTTなどが共同開発した量子コンピューター

 「量子コンピューター」って何ですか? いまあるコンピューターよりもものすごく性能が良くなるというふうに聞いてるけど、それがわたしたちの暮らしと何か関係があるの?

 量子コンピューターについて、吉川和輝編集委員に話を聞いた。

――量子コンピューターとはいったい何でしょうか?

 計算問題には、一見簡単そうですが実は計算量がとても多く、普通のコンピューターでは解くのが難しいものがあります。その一例が「巡回セールスマン問題」です。セールスマンがいくつかの都市を1度ずつ訪問して出発点に戻るとき、移動距離が最小になる経路を求めるのですが、15都市になるとルートの数は1兆を超えます。

 すでに実用化されている量子コンピューターは、このような「組み合わせ最適化」と呼ばれるタイプの問題を、とても速いスピードで計算して解くことができるのが最大の特徴です。

 図にあるように、組み合わせ最適化の仲間といえる問題や、従来のコンピューターで速く解くことが難しい問題は世の中にはたくさんあり、高速で解くメリットは大きいとされます。

――高性能というとスーパーコンピューターが有名ですよね。何が違うのですか?

 従来のコンピューターは「0」と「1」のふたつの数字を使う2進法で計算します。電流のスイッチがたくさん集まった半導体チップを内蔵し、電流を流した状態を1、流れない状態を0と決めておいて計算をします。スーパーコンピューターは半導体の動作を速くしたりチップの数を増やしたりして、計算スピードを上げるのです。この0と1の状態はデータの最小単位「ビット」といいます。

 これに対して、量子コンピューターは「量子ビット」というものを使います。量子ビットは、ひとつのビットが0と1の状態を共存させることができるのです。ミクロの世界のことなので直感的には理解できないと思いますが、この「状態の重ね合わせ」によって、同時並行で非常に速く計算ができるのです。

――研究開発はどの程度進んでいるのですか?

 実は量子コンピューターと呼ばれているものは、大きく2つのタイプがあります。すでに実用化されているのは「量子アニーリング方式」で、カナダのベンチャー企業が2011年に発表しました。冒頭で説明したように、組み合わせ最適化問題を得意としており、米ロッキード・マーチンや米グーグルといった企業や研究機関が実際に導入しています。

 一方、1980年代から今も研究が続いているのが「量子ゲート方式」です。量子ビットの重ね合わせ状態を維持する技術が難しいため実用化に至ってませんが、もし完成すれば、あらゆる種類の計算を汎用的にこなせるといわれています。世界では量子ゲート方式の研究開発が加速していて、米IBMやグーグルなど様々な企業や大学が成果を発表し始めています。

 日本でも2017年11月、NTTや国立情報学研究所が国産初の量子コンピューターが完成したと発表しました。先ほど説明した2つのタイプとはまた少し違う方式で、組み合わせ最適化問題の解を高速で求めるマシンといえます。

――私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか?

 実用化されている量子アニーリング方式によって物流や創薬などで応用が進むでしょう。また量子コンピューターは人工知能(AI)に学習させる計算が得意です。AIの発達で、人間の役割や社会の姿が大きく変わるでしょう。

 汎用的な計算ができる量子コンピューターがスーパーコンピューターに取って代わることも考えられます。ただ、必ずしも良いことばかりではありません。例えば、現在のコンピューターでは事実上不可能とされるインターネットの暗号解読が、簡単にできると懸念されています。

■ちょっとウンチク
量子、暗号・センサーに応用も
 一つの粒子が同時に異なる状態を取ったり、遠く離れた粒子同士が影響し合ったり――。ミクロな世界では、私たちが生活している通常の世界では考えられない現象が起きている。膨大な計算を一瞬でこなす量子コンピューターは、こうした量子の不思議な現象を利用して、世の中に役立つものを作ろうという研究の一つだ。
 盗聴やハッキングが不可能とされる「量子暗号」や、従来難しかった細胞内などの状態を詳細に観測できる「量子センサー」も注目されている。コンピューターにとどまらず、こうした量子がらみの技術が今後表舞台に出てきそうだ。

(編集委員 吉川和輝)[日本経済新聞夕刊 2018年1月15日付、NIKKEI STYLEから転載]

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