AI面接体験会に密着~「人の面接官より緊張しました!」
就活リポート2019(8)
「なぜその活動を始めようと思ったのか、もう少し詳しくお話しください」という機械的な女性の声がスマートフォンから聞こえてきました。すると、女子学生がスマホに向かって、「はい。私は大学の先生から......」と話し出す――。これは、AIが面接官をするというAI面接の受検風景です。今回は帝京大学が実施したAI面接の体験会を紹介します。AI面接とはどのようなものなのでしょうか?
スマホが倒れないように固定
就活解禁を2週間後に控えた2月15日、東京・八王子にある帝京大学八王子キャンパスで、タレントアンドアセスメントが提供するAI面接サービス「SHaiN」の体験会が行われました。帝京大学は就活を控えた3年生100人にAI面接を無料受検できるようにし、受検結果をもとに就活指導をすると言います。
当日は男女2人の就活生がモニターとして受検。「AI面接は人がする面接とどう違うのか知りたいと思って参加した」という風見修平さんは、現在4社の選考を受けている途中で内々定も1社持っています。さっそく、スマホを倒れないように固定し、画面に顔が映るように調整してからアプリを起動。
「ゼミや部活、サークル活動、アルバイトなどで、とても苦労したことや困難な状況を乗り越えたという経験はありますか? 「はい」か「いいえ」でお答えください」。女性AI面接官の質問でいよいよ面接スタートです。
AI面接官の質問は「過去の経験」のみ
AI面接は専用アプリをダウンロードし、企業から送られてくる案内メールにある「本人認証用URL」をタップするとアプリが自動的に起動します。ガイダンスで注意事項(バッテリー残量や通信環境の確認、機内モード設定にすることなど)の説明があり、それから面接が始まります。AI面接「SHaiN」でされる質問は、「学生生活で力を入れたこと」などの過去に対する質問だけで、「どのような働きたいか」という将来に関する質問や「志望理由」などの質問はありません。あくまでも過去の経験について質問しながら、その人の持っている行動特性を測っています。
質問への回答によって得られた過去の行動データから「バイタリティ」「イニシアティブ」「対人影響力」「柔軟性」「感受性」「自主独立性」「計画力」の7つの要素を計測し、面接中の表情、質問に対する回答の適切さなどから「インパクト」「理解力」「表現力」「ストレス耐性」の4要素を計測しています。受検結果は11要素の高低と各要素に該当する経験が示され、その結果を採用担当者が確認・評価して合否を決めることになります。
「もう少し詳しく」「具体的に」の質問が続く
風見さんの面接に戻りましょう。風見さんはべトナム人留学生と交流し、日本の生活に馴染んでもらうことを目的にした活動をテーマにし、日本語学校に出向いて「日本の大学生の日常」をプレゼンした経験について話しています。この説明に対してはAI面接官と風見さんの間で以下のようなやりとりが続きました。
AI面接官 「活動してきた結果、得られたことは何ですか?」
風見さん 「相手を思いやる気持ちを持つことの大切さを学びました。私たちはベトナム人への配慮が足りたいために......」
AI面接官 「学生生活において自分で立てた高い目標や達成困難な課題などをやりきったという経験はありますか? 「はい」か「いいえ」でお答えください」
風見さん 「はい」
AI面接官 「その高い目標や達成困難な課題とはどのようなことでしたか?具体的に教えてください」
風見さん 「私の目標は人前で堂々と話すことが......」
AI面接官からは「具体的に教えてください」「もう少し詳しく教えてください」という質問が続き、約70分ほどで面接は終了。面接を終えた風見さんは「スマホの画面に集中し続けるという独特の緊張感があって大変だった」と振り返りました。特に過去の経験について話した後、AI面接官から「『もう少し詳しく』『具体的に』と言われたときには、どう伝えればいいのか迷った」と話してくれました。
画面に映る自分の表情にも注意
もう一人の受検者、野口佳奈さんはゼミで取り組んだ八王子野菜の販売体験や留学経験を話しました。AI面接体験後の感想は「人との面接はコミュニケーションを取れるのですが、AIは自分が一方的に話すので気疲れしました」と。「『もう少し詳しく』や『なぜそのような行動をしたのか』と深掘りされて、自分の行動の背景をもう少しまとめておく必要性を感じました」と、今後の面接対策にも役立ったようです。
また、女性らしくスマホ画面の右上に映っている自分の顔にも気を配ったといいます。「真剣に回答していると、表情が硬くなるので慌てて笑顔に戻しました」。自分の顔がスマホ画面で見られるために、どんな表情をしているか、画面から外れていないかなど、AI面接独特の注意点もあるようです。
面接を受けた風見さん、野口さんは「人の面接官に比べて自分のことを深く理解しようとしていると感じた」と話し、好意的に受け取っている様子でした。
AI面接官対策は
学生生活で力を入れたことから、その人の行動特性を測るAI面接「SHaiN」。面接を受ける歳の注意点について、タレントアンドアセスメントの山崎俊明代表取締役が教えてくれました。
「面接時間は60~90分ぐらいで、200前後の質問をされます。AI面接官は回答だけでなく表情や仕草なども見ています。過去に寝転んで受けている人や面接中に1リットルのペットボトルをガブ飲みしている人がいました。そのような行動も見られていますので注意してください。また、『具体的に』という質問を繰り返されることがありますが、それは回答がAIの求めている内容ではないということ。AIは忖度しませんので、分からなければ何度も質問します。イラッとしないで丁寧に回答してください。話している時の表情も見ています」
2019年卒業予定者の採用選考では、AI面接官に面接を受ける機会もあるかもしれません。これからは人との面接とは異なる面接対策も必要になるでしょう。
日経HRコンテンツ事業部長、桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科非常勤講師。91年入社。高齢者向け雑誌編集、日本経済新聞社産業部記者を経て98年より就職関連情報誌・書籍の編集に携わり、2005年日経就職ナビ編集長、2015年日経カレッジカフェ副編集長、2018年から現職。著書は『これまでの面接vsコンピテンシー面接』『マンガで完全再現! 面接の完璧対策』『面接の質問「でた順」50』など。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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