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池上彰の大岡山通信 若者たちへいい質問をする会(下)君たちが未来を決める

池上彰の大岡山通信 若者たちへ いい質問をする会(下)君たちが未来を決める
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 東京工業大学で開いた「池上彰先生に『いい質問』をする会」での対話を紹介する最終回です。この企画は学生たちの疑問や問題意識について一緒に考えようというイベントです。今回は日本や国際情勢に関する話題を取り上げます。

◇ ◇ ◇

 質問 日本が自力で国を守る仕組みをつくるにはどんな問題があるでしょうか。

 池上教授 専門家が試算したところ、米軍と同じ規模の能力を獲得するにはおよそ20兆円が必要という分析がありました。「誰が国を守るのか」という究極の問題も、経済合理性が問われる難しいテーマなのです。

 日本は専守防衛に徹してきましたが、防衛力を増強すれば、近隣諸国との新たな摩擦を生むかもしれません。

 質問 中国が南シナ海などで影響力を強めています。どんな目的があるのでしょうか。

 池上教授 この戦略は少し視野を広げ、世界史的な観点から分析する必要があると思います。

 たとえば、トルコのエルドアン大統領は大変豪華な大統領公邸を新設しました。儀仗(ぎじょう)兵の装いは、オスマン帝国時代を想起させるものだそうです。

 ロシアのプーチン大統領の執務室周辺にはエカテリーナ2世の肖像画が飾ってありました。ソ連の崩壊をみて、帝政ロシア時代のような強大な国家の復活を思い描いているように見えます。

 中国の習近平国家主席も明の時代を思い描いているのではないでしょうか。漢民族による王朝である明の時代、鄭和という人物が南シナ海、インド洋、アフリカへ向かう航路を切り開きました。それが「南シナ海は中国のもの」という主張の根拠になっています。

 帝国主義的な傾向が強まっているのは「かつての栄光を再び」と考えるリーダーが増えているからではないでしょうか。

◇ ◇ ◇

 質問 核廃絶は可能ですか。世界的に機運が高まっているようです。

 池上教授 現実としては非常に難しい問題です。ただ、国連で核廃絶に関する決議があったように、国際的な世論になりつつあるといえます。米国でも最近は若者を中心に核兵器に批判的な考え方をする人々の比率が高まっています。

 私も国内の被爆者を取材する中で勇気づけられる言葉がありました。「私たちが核廃絶を訴えてきた取り組みは微力だったかもしれないけれど、決して無力ではなかった」。機運を高めるには、あきらめないことが大切と思い知らされました。

 質問 「第4次産業革命」で新しい産業や技術が生まれ、人々の働き方にも大きな影響が及ぶと指摘されています。

 池上教授 これからどんな社会がやってくるのか、未来のかたちがどうなるのかを考えるのが君たちの役割なのです。大切なことは、これまでの価値観や世界観の延長線上で考えないこと。君たちの世代が新たな世界を築いてしまえばよいのです。それが若い君たちの特権ですから。

 今回、学生との対話を通じて感じたことがあります。それは「池上先生に質問すれば、何かよい答えをもらえるのではないか」と期待しないでほしいということです。そもそもの問題設定を疑うことも大切です。人生には正解のない問題がたくさんあります。問題意識を持ち、自らその答えを考え抜く努力を重ねてほしいのです。

[日本経済新聞朝刊2018年2月26日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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