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career-働き方

文系でもAI人材に 学生起業家が挑む1万人育成
STANDARD代表取締役の石井大智さん

文系でもAI人材に 学生起業家が挑む1万人育成STANDARD代表取締役の石井大智さん

 今や企業から引っ張りだこの人工知能(AI)エンジニア。インターネットやセンサーなどから大量のデータを集め、機械学習などの手法を用いて分析し、業務を自動化・効率化する――。こんな一連の業務を担うのがAI技術者だ。ニーズは高く、米国では新卒でも年収10万ドル(約1100万円)は下らないといわれ、日本でも2020年までに4万8000人不足するとの指摘もある。AI人材の研修や採用支援に取り組むSTANDARD(スタンダード、東京・新宿)代表取締役の石井大智さんに育成法を聞いた。

受講の学生、3割は文系

STANDARD代表取締役の石井大智さん

 「AI人材になるには、文系や理系はあまり関係ありません。文理のバッググランドや、学生・社会人を問わず、受講いただいています」。こう話す石井さんは、早稲田大学創造理工学部経営システム工学科の3年生だ。現在は休学してスタンダードの経営に専念している。

 現在、スタンダードのeラーニングを活用してAI技術者になるための研修を受けているのは、学生約200人と社会人約100人だという。受講している学生の約3割は文系だ。社会人の内訳はシステムエンジニア(SE)が約3分の1で、ほかは企業でデータ分析やマーケティング部門に所属する社員。社会人も理系出身ばかりではない。

 同社では、ネットワークを活用して、研修プログラムを提供。AI技術にたけた東京大学の学生を中心に約30人のチューターも付けて、受講者の質問に答えるようにしている。午後3時から午後9時までサポートし、2~3カ月のプログラム期間中の100時間で、AI技術者を育成しているという。

 石井さんは早大に進学後、AIに興味を持ち、東大の学生らとともにAI・データサイエンスを学ぶ団体「東大人工知能開発学生団体 HAIT(ハイト)」を16年に立ち上げた。最初は10人程度の小さな団体だったが、現在は東大や早大、慶応義塾大学を中心に300人の学生が集まる国内最大規模のAI系の学生団体に成長している。

 学生たちは企業のインターンになり、技術者としての実践経験を積んだり、分野別の集まりを開くなどして技術力を高めている。

当初は9割以上の学生が挫折

石井さんらはAI人材の育成に奔走している

 当初は悪戦苦闘の連続だった。そもそもAI系の団体が少なかったことから多くの学生がHAITに集まった。しかし、実に集まった学生の9割が技術習得の段階で挫折したという。

 石井さんは「人工知能の中核となっている機械学習の技術は、ハードルが高い学問領域として知られています。前提となる知識が多岐にわたることと、スキルの大部分が実社会での経験の中でしか身につかないため、挫折した学生が少なくなかったのです」と語る。初期のHAITは、学生が参考書を持ち寄って独学で力をつけるやり方だったため、限界があったという。

 石井さんは「最初のころのHAITの運営は、ふがいないというほかにありませんでした。成長の軌道に乗る学生と、そうでない学生の決定的な違いは何かということを考え続けるようになりました」という。

 そして、石井さんは17年にスタンダードを起業し、AI人材の育成に本腰を入れることにした。仲間ら計5人でAI人材の法人向け研修や採用支援に乗り出した。

基礎的な「教育」と現場での「実践」

 石井さんは、効果的な技術習得のためには、「基礎的な『教育』を受け、いち早く『実践』を経験できる環境に身を置くことが必要だと考えました」という。AI人材になるためには、具体的にどんな知識や技術の取得が必要なのか。

 「主に3つです。機械学習などの数理統計と、Python(パイソン)というプログラム言語を含むコンピューターサイエンス、適用する事業や業界のドメイン(専門領域)知識が必要になります」と石井さんは明かす。

 文系出身には高度なレベルに感じるが、「数理統計とコンピューターサイエンスは、基礎をコンパクトに学習することが可能です。パイソンは米国の小学校教育にも採用されているとっつきやすい言語ですし、機械学習の手法はパイソンのライブラリー(複雑な処理を簡単に呼び出せるツールのようなもの)を使えば、複雑な(ソフトウエアを作成する)コーディングをしなくても動かせます」という。

 知識と技術を身につければ、次は実践だ。石井さんは、「ドメイン知識との融合を現場で試行錯誤していくことが必要です。HAITの学生にも、弊社の教材で基礎を学んでもらった後に、企業でのインターンを経験することをすすめています。インターンなどのマッチングイベントを定期的に開催しているのもそのためです」という。石井さん自身も大学病院などの医療画像を扱うインターンに参加して、経験を積んだ。

AI関連の検定・資格も登場

AI技術を学ぶHAITの学生たち

 もちろん、研修を終了したからといって、すぐAI技術者として認められるわけではない。17年にはAI分野の資格検定試験もスタートした。

 AI研究の第一人者とされる東京大学大学院工学系研究科の松尾豊特任准教授が理事長を務める、日本ディープラーニング協会(Japan Deep Learning Association、 以下JDLA)。AIやディープラーニング(深層学習)に関する知識や技術の統一規格として、検定試験や資格試験を実施している。石井さんはJDLAの委員でもある。

 AIはIT企業のみならず、小売りや物流、医療、金融、サービスなどあらゆる分野に必要不可欠なツールとなりつつある。経済産業省などの予測では、20年までに日本でも約18万人のAI人材が必要といわれ、4万8000人が不足するとの指摘もある。

 AI人材に対するニーズはうなぎ登りだ。転職などを支援するリクルートエグゼクティブエージェントのエグゼクティブコンサルタントを務める渡辺博一氏は、「確かにAI関連の案件は増えています。優秀な人材なら年収2000万円ぐらいになるかもしれません。しかし、まだ実際にAIの仕事をしている人は少なすぎて、採用するのは難しい状況です」という。

 石井さんは、「人材不足の問題は、AIの人材育成のシステムを構築することで解決に大きく近づくでしょう。研修講座や資格試験、さらには企業と連携して実践の場を用意していけば、有能な人材を育成できます。不足するとされる人の5分の1はスタンダードで育てられるのではないかと思います。1万人の輩出も十分可能であると考えています」という。あらゆる業界から求められるAI人材。学生起業家の挑戦は始まったばかりだ。
(代慶達也)[NIKKEI STYLE 2018年2月4日付]

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