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手から、地から(1)長崎・波佐見焼~「使うモノの美しさ」を追い求めて

手から、地から(1) 長崎・波佐見焼~「使うモノの美しさ」を追い求めて
authored by 柳谷直治埼玉大学経済学部3年

 昨年、トビタテ!留学JAPANでの留学体験記を書かせていただきました、埼玉大学3年の柳谷直治です。「スウェーデンから学ぶ、日本伝統工芸の再興術」というテーマで留学してきたわけですが、帰国後、石川県輪島市を訪れる機会があり、またもやショックが私を襲いました。

世界を見て、日本を知らないと知った

 10カ月間の留学生活の中で、スウェーデンのみならず様々な国々を見て感じてきた私が、日本の一地方である輪島を訪れたときの感動は凄まじいものでした。一千年以上も前から続く輪島の朝市、ライトアップされた壮大かつ幻想的な白米千枚田、確かな技術で生活を彩る輪島塗。これらの美、奥ゆかしさを知らなかった自分を恥じました。そして、思ったのです。「日本の美しさ、未来は地域にある」と。

 特に、伝統工芸にはその地だからこそ成り立つモノづくり、受け継がれ発展し続けるワザ、作り手から紡ぎ出される物語が集約されています。「人々のモノに対する姿勢や豊かさを感じる対象が変わる兆し」を感じているのは私だけでしょうか?

 私は大学を一年休学し、様々な物語と豊かなモノが生まれる地を自ら訪れ、感じることにしました。これから私が得ることになる経験の中には、様々な分野でプロフェッショナルを目指し、これからの日本を築いていく皆さんの何かになると思い、共有させて頂きます。

「手から、地から」

作り手から作り手へ受け継がれた技

作り手から使い手への思いやり

その地からの自然の恵み

伝統工芸を中心に生まれる物語

長崎県波佐見町

波佐見焼の窯元が集まる中尾山

 私は、長崎県波佐見町を訪れました。波佐見町は長崎県で唯一海に面しない町で、「波佐見焼」の産地です。長い間、県をまたいで隣町の「有田焼」の下請けを担っていたため「波佐見焼」の名が表に出ることはありませんでした。しかし、10年ほど前から産地表示明確化やモダンなデザインを取り入れたことによって波佐見焼の名が浸透し始めました。

 皆さんは「伝統工芸」と聞いてどんなイメージが浮かぶでしょうか?値段が高そう?普段は使えなそう?古臭い?今回訪れた波佐見町で作られる「波佐見焼」はそういったイメージとは真逆のものです。

 そもそも波佐見町では江戸時代から大衆向けの日用食器を量産してきました。その中で、絵付けの技術も素早く書けることを前提に発展し、今日ではライフスタイルに合わせたおしゃれな普段使いの食器として人気を博しています。

伝統の地 波佐見に吹く新しい風

 私は2017年12月24日、波佐見町にオープンしたばかりの「studio wani」を訪れ、お話を聞くことにしました。studio waniは熊本県出身の綿島健一郎さん(35)とドイツ出身の綿島ミリアムさん(35)が営む焼き物工房。お二人の手から生み出される商品シリーズのひとつ「dinosaur」は遠くから見ると和風の絵柄に見えますが、近くで見ると呉須(ごす)(焼き物の染付に用いるコバルト化合物を含む鉱物)で描かれた恐竜が見えてくる器シリーズ。このような商品が生まれるまでのお二人の物語をご紹介します。

studio waniとは

 「studio」と聞くとアート作品を作っているのかと思いますが、お二人の焼き物に対する姿勢を伺うと興味深いお話を聞くことができました。健一郎さんは「伝統工芸はアートとプロダクトデザインの間ではないか?」と言います。自らを表現する「アート」、使い手のことを考え、生産から流通・使用・破棄・リサイクルにいたる一連の過程を形にする「プロダクトデザイン」。一見、別物のように見えますが、まさしくそこに伝統工芸の魅力があるのではないかと思いました。

窯出しの様⼦(左がミリアムさん、右が健一郎さん)

 「dinosaur」を絵付けするミリアムさんが恐竜を器に落とし込んだのは「幼い頃から恐竜が好きだった。」というシンプルな理由。しかし、その前提には「使い手を考えて、今に合う楽しくて使いやすい、温かさを感じるものを作りたい」という思いがあります。「伝統を目指しているわけではなく、形を変えながら技術を守りたい」と話すお二人は、分業による量産形態が多い波佐見の地で、すべての工程を自分たちの手で行っています。「自分がいいと思えるものを頭を使って考え、それを作れるように技術を磨くのが職人」。そう話すお二人はこの、考えて自分の手で作ることの楽しさを伝えるべく、磁器ブローチの体験ワークショップを開催しています。また、地元の方々の交流の場を「英会話教室」として設けています。

"使う"ということ

左からミリアムさん、筆者、健一郎さん

 陶芸家を志す過程で日本を訪れたミリアムさんの、来日する前に想像していた日本と実際の日本にはギャップがあったようです。来日前に想像していた日本は「かつての日本」と言えるかもしれません。ミリアムさんが日本の焼き物を知ったのは、アメリカ・ペンシルバニア州に登り窯を構え、日本の陶芸をしていたアメリカ人作家のもとへインターンをしたのがきっかけでした。その作家に教わったのは「使うモノの美しさ」。「日本にはそんな世界があるのか!」と、自分の目で確かめに来たミリアムさんは愕然としたそうです。家の中はモノで溢れ、そしてそのモノたちはどういった理由を持っているのか?

 皆さんは好きなものを選び"使って"いますか? 永く"使って"いますか? お二人は「自分たちのライフスタイル、考え方を加味した上で使ってほしい」とモノづくりをしています。お二人の手から作られるモノにはそんな豊かなライフスタイルの提案が込められています。私たちが生活する上で、モノとの関係を断つことはほとんどないでしょう。しかし、「どんな関係を築くか」ということに私たちの生活を豊かにするヒントが隠されているのではないでしょうか。studio waniが吹かせる新しい風が皆さんのもとへ届く日はそう遠くはないかもしれません。

studio wani
〒859-3701
長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1173-3
TEL:050-3558-5698
HP: https://www.studiowani.com/