日本経済新聞 関連サイト

OK
liberal arts-大学生の常識

人生を経済学で考えよう(14)小テストを行うなら、授業の前か後か

人生を経済学で考えよう(14) 小テストを行うなら、授業の前か後か
authored by 慶應大学 中室牧子ゼミ

 こんにちは。慶應義塾大学中室牧子ゼミナールです。今回は、「小テストを行うなら、授業の前がいいのか、後がいいのか」について考えます。

 日本の大学生は海外の大学生と比べて、授業時間外の勉強時間が少ないといわれています。大学で学ぶことの中には、社会に出て役に立つことも多いのですが、1週間に1回の講義では、次の講義までに前回の内容を忘れてしまうことも多いものです。

小テストは授業の定着度を高める

学生冬
一番左が坂本彩乃さん、その隣りが中村真優子さん

 そこで私たちが考えたのが、授業中に行われる小テストを活用することです。

 誰しも今までの学生生活で授業中に小テストを受けたことがあると思います。小テストを受ける側からすると、面倒だなと感じることもあると思いますが、授業内容を復習する絶好の機会だと捉えることもできます。

 実際に、過去の経済学の研究では、大学生を、毎週小テストを行うグループと行わないグループにランダムに振り分けた結果、毎週小テストを受けていた生徒の方が期末テストの点数も出席率も高くなるということを明らかにしたものがあります。小テストを行うことは授業の定着度を高める効果があるといえるでしょう。

 では、ただどのような小テストでも効果は見込めるのでしょうか。私たちが大学の授業で経験したのは、次の2つのパターンの小テストです。1つは前の週の授業内容についての復習をするために、授業の最初に行う小テストです。もう1つはその日の授業内容について確認をするために、授業の最後に行う小テストです。授業の最初に行う小テストの場合、授業の前に復習するようになるかもしれませんし、授業の最後にその日の授業内容の小テストを行う場合、授業を真剣に聞くようになるかもしれません。小テストを行うタイミングの違いは、各教員の裁量で決められていますが、この違いが授業の定着度に影響を与える可能性があるとしたら、小テストを行うタイミングについて吟味する必要があるでしょう。

 実は、小テストを行うタイミングの違いがもたらす効果について、既にアメリカの大学で実験が行われています。大学生を、授業の最初に小テストを行うグループ、授業の最後に小テストを行うグループにランダムに振り分けます。その結果、授業の最初に小テストを受けていた生徒の方が、勉強時間は長く、期末テストの点数も高くなることがわかりました。日本でも同じことがいえるのでしょうか。

授業の最初の方が効果的

本
中室牧子・慶應義塾大学総合政策学部准教授は、教育経済学が専門。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。最新刊は写真の津川友介との共著『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)

 私たちが今回、日本の大学で同様の実験を行ってみると、やはりアメリカと同様、授業の最初に小テストを受けた生徒の方が、勉強時間は長く、期末テストの点数も高くなるということが明らかになりました。小テストのタイミングの違いが、勉強時間や期末テストの点数にもたらす影響はかなり大きいといえます。

 なぜ、授業の最初に行う小テストが有効なのでしょうか。私たちが実際にテストを受けた生徒たちにインタビュー調査を行うと、1週間後の小テストに向けて勉強する機会が増えたことや、授業の直前に、1週間前の内容の小テストを受けることで、その日の授業内容が理解しやすくなったという意見も出ましたが、最も多く挙がったのは「1週間後」に授業内容を思い出すというプロセスが大事だということです。小テストのための勉強を全くしなかった生徒からも、授業から1週間後に小テストを受けることで、前回の授業内容を思い出そうとする努力をし、小テストを受けることそのものが復習することのような役割を果たしていたという意見がありました。これらより、授業から1週間後に授業内容を思い出そうとするプロセスが定着度をより高めたといえるでしょう。

 小テストは教員が生徒の授業の定着度を測り、出席を確認したり、生徒の評価のためのツールと考えがちですが、活用次第で、小テストを受けるだけで授業の定着度をあげる効果があるということがわかりました。私たち学生が真剣に小テストを受け、授業を理解しようとする姿勢ももちろん大切ですが、教員も小テストの実施を含め、授業の設計は科学的根拠に基づいて行う必要があるのではないでしょうか。

(中室牧子・坂本彩乃・中村真優子)