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アマゾンパンチ、日本で炸裂せず

アマゾンパンチ、日本で炸裂せず

 アマゾン・ドット・コムVSウォルマート。

 ネットの世界とリアルな世界でともにナンバーワンの座にいる米国の両社。2016年度の売上高は約15兆円と約53兆円で大きな開きがあるが、時価総額だとアマゾンが約76兆円、ウォルマートが約33兆円と逆転する。急成長の前者と安定成長の後者といったところだが、つばぜり合いは激しい。

同日にホールフーズの巨額買収を発表

 17年6月上旬にウォルマートが全米で宅配実験に乗り出すと発表した。自宅までのラストワンマイルを店舗の従業員を活用して届ける作戦だった。この発表の数日後、アマゾンは無料の翌日配送サービスの「プライム」の会費を低所得者層には約半額(月約660円)にすることを決めた。この層はウォルマートの得意客とほぼ重なるという。アマゾンによるウォルマートつぶしだった。

日本でのアマゾンとウォルマートの「ガチンコ対決」はいつか?

 同月16日、ウォルマートはアマゾンが強化中の衣料品部門のネット通販会社を370億円で買収すると発表したが、ほとんど話題にはならなかった。というのもその日、アマゾンは高級食品スーパーの米ホールフーズ・マーケットを約1兆5000億円で買収することを決めたからだ。両社がともに意識し合っているのは間違いないが、ウォルマートが対アマゾンを打ち出すと、アマゾンは間髪置かずにより大きなインパクトのあるパンチを炸裂(さくれつ)させる。

 17年8月もそうだった。ウォルマートはグーグルと提携し、人工知能(AI)を搭載したスピーカーで商品を買えるようにすると発表すると、約1週間後にアマゾンはマイクロソフトと提携して互いが持つ音声スピーカーを連携させることを明らかにした。音楽再生やネット通販で優れるアマゾンと、スケジュール管理などのビジネスユースではマイクロソフトに分がある。やはりウォルマートの取り組みは霞(かす)んだ。そればかりではない。アマゾンは時を同じくして買収を完了したホールフーズで大々的なセールを敢行。アマゾングループ入りを生活者に知らしめた。

楽天との提携を発表されるが...

 ここまでは米国の話。今年1月26日、ウォルマートが楽天とネットスーパー事業で提携することを発表した。だが、米国では炸裂する「アマゾンパンチ」は2月8日現在、飛び出していない。アマゾンはすでに日本で「アマゾンフレッシュ」という生鮮宅配事業を手掛けている。ウォルマートは傘下の西友でネットスーパーを展開し、楽天も同事業を持っているが、思うような結果が出ていないという。アマゾンフレッシュも必ずしも軌道に乗っているとは言いがたいとみられるが、アマゾンが組みたいと秋波を送る日本企業は今のところ見当たらないのかもしれない。

1月26日、米ウォルマートのマクミロン最高経営責任者(右)は楽天との提携を発表した(東京都内)

 優良企業のセブン&アイ・ホールディングスは、アマゾンと真っ向勝負を挑んでいるアスクルと組んだ。イオンは独自にネット通販事業の再構築に乗り出したばかり。ユニー・ファミリーマートホールディングスはドンキホーテホールディングスと組んだ。全国規模の流通業は限られる。

 アマゾンの事業領域拡大のパワーは計り知れない。まずはネットの世界でグローバル展開を行い、最近はリアルな店舗に食指を動かす。足りない部分は世界のベストプラクティスと組み、世界を驚かす。

 現時点でアマゾンパンチが国内で炸裂していないということは、アマゾンのお眼鏡にかなう革新的な企業がないことの裏返しかもしれない。

田中陽(たなか・よう)
 1985年日本経済新聞社入社。90年編集局流通経済部記者、2002年流通経済部編集委員。日経ビジネス編集委員などを経て編集局編集委員。小売業、外食企業、流通行政・消費者行政などをカバー。主な著書に「セブン-イレブン 覇者の奥義」「百貨店サバイバル」

[日経電子版2018年2月9日付]

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