日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

トビタった!私たち(14)フィリピンの孤島で教育を(中) 学ぶ楽しさって何だろう?

トビタった!私たち(14) フィリピンの孤島で教育を(中) 学ぶ楽しさって何だろう?
現地で活動する教育局の皆さんと一緒に
authored by トビタテ!留学JAPAN

 みなさん、こんにちは! 横浜市立大学4年生で、現在トビタテ!留学JAPAN7期生として、フィリピンのカミギン島で教育支援を行っています、ジェイミーこと中川千絵美です。前回の記事では、高知県出身の田舎っぺだった私が、横浜、そしてはるばるフィリピンの孤島、カミギン島に行くまでをお伝えしました。

 途上国支援を志してフィリピンまで来た私でしたが、着いた島はカミギン島。決してお金があるわけではないものの、青い海、大きな山、豊かな自然の中で支え合って生きている人々がそこにいました。マニラのストリートチルドレンがたくさんいるフィリピンのイメージをしていた私は、「あれ、この島って私が活動する意味あるの...?」そのような第一印象を抱いてしまいました。

カミギン島のさらに離島、マンティギ島から見たカミギン島。力強い山がそびえたちます

 しかし、カミギン島で長く活動することで、それまでは見えていなかったカミギン島の姿が見えてきました。今回は、私が見つけたカミギン島、特に中学生たちの姿をお伝えできればと思います。

カミギンの教育システム「Mobile Open High School Program」とは?

 フィリピンには日本と同じように、小学校、中学校、高校があります。学年はGradeと呼ばれ、小学校にはGrade1~6、中学校にはGrade7~10、高校にはGrade11~12の学年があります。中学校は4年間、高校は2年間という区分けになっています。

MOHSPの生徒。30代の彼女は子供がだいぶ大きくなったので、改めて中学校をちゃんと卒業したい、と授業に来ています

 しかし、カミギン島の生徒たちの中には、家計を支えるために働かないといけない、妊娠している、育児をしなければならない、学校が家から遠くて通えないなど、様々な理由でレギュラークラス(通常のクラス。日本と同じように平日毎日授業が行われる)に通えない生徒がたくさんいます。

 そんな生徒のために実施されているのが「Mobile Open High School Program(MOHSP)」と呼ばれる、オルタナティブな教育システム。レギュラークラスに毎日通うのは大変だけど、中学校は卒業したい、そんな生徒のためにあるのがMOHSPなのです(高校は近年の教育改革によって新設された教育期間なので、まだMOHSPのようなシステムはありません)

 地理的、経済的な部分をサポートする、まさにカミギン島オリジナルの画期的なシステムですが、一方でそのシステムゆえに難しい現状もあります。私がインターンとして活動しているe-Educationは、そんなMOHSPに通う生徒に最高の授業を届けようと2012年から活動、特にフィリピンで苦手な人が多いとされる数学のサポートを行ってきました。

生徒たちは何のために勉強しているのだろうか?

霧が濃い山の中まで先生は授業に行きます。この先生は妊娠中もこの山道を通っていたというから驚きです

 授業を見る中で、MOHSPの現状が少しずつ見えて来ました。フィリピン国内共通の課題もありますが、フィリピン最果ての島・カミギン島だからこその問題も存在すると感じます。例えば、先生たちが専門の科目以外も教えないといけないということ。MOHSPは担任の先生が毎週同じ生徒に授業を行うスタイルです。つまり、音楽専門の先生が中学高校レベルの数学を教えないといけないこともあるのです。これが先生の負担になったり、生徒たちの十分な学習に繋がっていないという状況を生み出しています。

 また、授業内で使う教材が生徒にとってあまり親切ではないということもあります。MOHSPで進級する条件は、「モジュール」と呼ばれるテキストを解き、一定割合以上の正答率を出すことです。生徒は先生からモジュールをもらい、それを家で解いてきます。そして週に1回の授業のときに先生がモジュールの答え合わせや解説を行うのです。

 ですが、モジュールは解説がかなり省略されたもので、「わかりやすい」と言えるものではありません。MOHSPのシステムはセルフラーニングが前提にあるのですが、多くの生徒が自力でモジュールを解けきれないので、週に1回の授業の中で先生の手を借りながらモジュールを解いています。

13人のMOHSPの先生のうち数学専門の先生はゼロ。生徒に教えるために数学を自分で勉強している先生もいます

 さらに算数が十分に身についていない生徒もいます。そんな生徒が、解説の少ない、中学高校レベルのテキストを十分に理解しながら解くというのはかなり難しいことです。先生もそのことはわかっていて、全部のモジュールを解けていなくても、一定量が解けた時点で合格にしてあげます。ですが、図形の基礎ができなければ応用ができないように、飛ばし飛ばしに行なってきた授業は、次の単元が理解できないことに繋がってしまいます。その結果、先生の「思いやり」で単位は取れるものの、実際に学力がついているわけではない、という状況が生まれます。

モジュールを解く生徒たち。生徒の学年はバラバラ。そして解いているモジュールの科目もバラバラなので、先生は個別指導を行わなければなりません

モジュールは貸し出し式なので、解き終わったら先生に返却しなければなりません。生徒は、以前解いた問題の復習がしにくい状態にあります

 このような状況を見たときに、この生徒たちは勉強から何を得ているのだろう? と疑問に思いました。確かに、卒業認定を得て、より良い仕事につくことも彼らの生活にとって重要です。でも、勉強することから得られるものはもっと他にもあるのでは? 例えば、知ることのワクワクや、わかる楽しさ、そこから生まれる自信とか......勉強って、ただ「終わらせる」ことが目的ではないはず。

 この状況をより良いものに変えるには......? ここである秘密のアイテムが出てきます。それが、何を隠そう、映像授業です!

映像授業を見ながら問題を解く生徒

 私がインターンとして活動するNPO e-Educationは「最高の授業を世界の果てまで届ける」という理念の下、映像授業を活用した教育支援をフィリピンほか、アジアを中心に各国で行ってきたのです。5年以上の歴史を持つフィリピンプロジェクトでも、先代のインターン生たちがフィリピンの先生たちと協力しながら映像授業を作ってきたのでした。

 「なんだ! 映像授業があるなら、先生が数学専門じゃなかったり、テキストがわかりにくくても大丈夫じゃないか! やったね!」

 ......そんな楽観的な考えは、すぐに様々な壁に打ち砕かれることになるのでした。さあ中川、この状況をどう打破するのか? それは次回の記事でお伝えできればと思います!今回も読んでいただき誠にありがとうございました!

プロフィール
ジェイミー(中川千絵美:なかがわ・ちえみ) 1996年、高知県に生まれる。横浜市立大学国際総合科学部四年、ヨーロッパ史専攻。NPO e-Education フィリピンプロジェクト カントリースタッフ。2017年8月末から「トビタテ!留学JAPAN」7期生としてフィリピンへ。現地教育局と協働しながら、ドロップアウトした中学生の支援を2018年8月まで行う。現地での教育支援の他にも、日本の地方の子供たちにもっと海外を知ってもらいたいと、高知とフィリピンの高校生の間でオンライン交流会も開催している。好きなことは絵を描くこととピアノを弾くこと。特技は開脚と側転で、これをすると現地の人に喜んでもらえる。