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トビタった!私たち(15)フィリピンの孤島で教育を(下)1ミリのBetterから世界は変わる

トビタった!私たち(15) フィリピンの孤島で教育を(下)1ミリのBetterから世界は変わる
MOHSPの先生たちと一緒に
authored by トビタテ!留学JAPAN

 みなさん、こんにちは! 横浜市立大学4年生で、現在トビタテ!留学JAPAN7期生として、フィリピンのカミギン島で教育支援を行っています、ジェイミーこと中川千絵美です。前回の記事では、カミギン島のオルタナティブな教育システム、「Mobile Open High School Program(MOHSP)」がどのようなものなのか、ということをお伝えしました。今回は、そんなMOHSPをよりよくするには? 私がこの半年で行なってきた活動についてお伝えしようと思います。

せっかくの映像授業。でも使われていない...?

先代たちが作った映像授業がMOHSPの中で使われていなかった理由はたくさんありますが、1つ言えることは「途上国にあるものを定着させるには、時間をかけ根気よく周りを巻き込んでいくことが重要」ということです。それは2~3年で完結するようなものではありません

 前回の記事で書いたように、e-Educationフィリピンプロジェクトは2012年にスタート、代々インターン生の間でプロジェクトが引き継がれて来ました。先代のインターン生が行なってきたことの一つに、数学の映像授業の作成があります。

 フィリピンの数学の先生たちと協力して、現地語であるビサヤ語を用いた映像授業を作ってきたのです。特にこの「ビサヤ語で」というのがポイントです。フィリピンの数学の教科書は基本的に英語で書かれています。しかし、MOHSPの生徒たちは英語が苦手という生徒が多いので、ビサヤ語での授業の方が格段に理解度が上がるのです。

 先のインターン生たちが苦心して作ってきた映像授業。しかし、私がカミギン島に来たときにはこの映像授業はMOHSPの中で使われてはいませんでした。

映像授業を見る生徒。この時は、普段使っている机が教会に貸し出されており、机なしで授業を行いました

 生徒はおろか、先生も数学が苦手。教科書もわかりにくく、生徒の学力には繋がっていない...そんなMOHSPを、確実な学力がつくパーフェクトな授業にいきなりすることは難しい。でもこの映像授業をMOHSPに取り込むことで少しでも良くできるのではないか。そう思った私はトライアルとして2つのパイロットクラスを決め、そのクラスの中で映像授業を使ってもらいはじめました。

試行錯誤を重ねて、やっと見えた生徒の笑顔

 毎週のパイロットクラスではトライ&エラーの繰り返しです。最初、特に何もなしに映像授業を生徒に見てもらいました。すると、、、「難しすぎる」「わからない」の声が。ゆっくり、かつできるだけ噛み砕いた解説を行なっている映像授業。ですが、基礎ができていない生徒は理解が追いつかず、しかもノートを取ることにも慣れていないので、ただ映像授業を眺めるだけ、という状況でした。

ビサヤ語で「めっちゃ難しいよ」は「リソッド カアヨ」と言います。最初は「リソッド カアヨ」の嵐でした

手元にあるのがUnit Print。映像授業をプリントの中で再現できるように作りました

 そこで作成したのが、Unit Print。映像授業と内容をリンクさせた穴埋めプリントです。映像授業をただ傍観するだけでなく、穴埋め形式のプリントに記入していくという形をとり、ノートを取ることに慣れていない生徒も映像授業に沿って数字を埋めていけるようにしました。穴埋めという形式にすることで、ノートテイキングの練習になる上に、問題を解けるということ自体が生徒の自信につながるのではないか、と考えたからです。

「よっしゃ!これでどうだ!!!」と、映像授業とUnit Printを持って授業に乗り込んだ私。ですが、またしても「リソッド(難しい)」といわれてしまいます。話を聞くところによると、「もう、数学ってだけで無理!!数字を見るだけで嫌になっちゃう!」というような数学アレルギーを持っている生徒がたくさんいました(これは、日本でも同じですね。笑)。また、空欄に正確な数字を入れることだけに集中してしまい、本来身につけてほしい論理的な解き方を理解できていないのでは、という懸念も出て来ました。

みんな真剣な顔ですが、何をしているのかと思えばどの空欄にどの数字が入るか暗記をしていました。穴埋めのタイミングになると、一斉に覚えた数字を記入しだした生徒たち。「ストップ!ストップ!勉強ポイントはそこじゃないのよ!」と先生が止めに入ります

一番奥にいるのが先生。はじめは手探りの状態でしたが、最近はどのタイミングで映像を止めて問いかけをするか、など先生自ら工夫して授業を進めています

 そこで、先生たちと作戦会議。今度は映像授業を再生しながら、生徒がわかりにくそうなところや大切なポイントは先生が映像を止め、先生から問いかけや追加の解説を行うことにしました。映像授業も【1回目:映像授業の全体の流れに慣れるために見る】【2回目:先生が解説をしながらUnit Printの穴埋めをしつつ見る】【3回目:みんなで穴埋め内容が合っているか確認しつつ見る】というように複数回見るようにしました。

 すると、授業内で明らかな変化が。今まで各々黙ってモジュールを解いていた生徒ですが、映像授業を見ながら先生に「これはこうだよね?」と聞いたり、生徒同士で授業内容を確認し合ったりするようになったのです。さらに授業内での生徒の笑顔が明らかに増えたように思いました。今まで「やらなきゃいけないから、やる」という感じで勉強していた生徒たちが、結構楽しそうに勉強しているのです!

普段使っている公民館が閉まっていたため、屋外で授業をした時の一コマ。授業中に生徒の笑顔が見られると本当に幸せな気持ちになります

 この映像授業の使い方だと、映像授業の「生徒一人でも学習ができる」という特徴は活かされていないように思うかもしれません。ですが、【映像授業を見ながらディスカッションができること】また【数学が苦手な先生も、映像授業が一緒だと解説がしやすいこと】において、MOHSPでの映像授業の十分な可能性を確信しました。

確かに感じる教室での変化

 おっ、これはいいんじゃないか? そう思い、授業の最後にプリントの数字を変えて確認テストを行ってみました。生徒たちの反応は......

 「リソッド(難しいよ)。ギブアップ~」

 ......やはり、数学アレルギーを克服するのにはまだまだ長い時間がかかりそうです。ですが、今まで掛け算もままならなかった生徒が素因数分解をできるようになっている姿を見たりすると、少しづつ、でも確実に「変化が起きている」ということを実感します。
そしてそれが私の活動のパッションに繋がります。

1ミリのBetterから世界は変わる

少しづつ、現場で変化は起きています

 e-Educationプロジェクトはまだまだ発展途上です。映像授業もUnit Printも改善すべき点ばかりですし、そもそも本当に映像授業という手段を使うべきなのか?といった迷いが無いわけではありません。また、現地のカウンターパートである行政や先生たちが納得する形でプロジェクトを進めていくのはとても時間のかかることで、一筋縄ではいかないと痛感しています。

 社会課題を解決したい、そう意気込んで日本を飛び出した私でしたが、今の段階でわかったことが1つあります。それは社会を変えるということはBetterを積み重ねることだということです。矛盾の全くないBestな社会はある意味ユートピア的で、1つの課題を解決したらまた新たな課題が見えてくる、それがこの社会の構造なのかなと思っています。なので、試行錯誤をしながら1ミリずつBetterを積み重ねて、1センチのBetterに、それが積み重なって1メートルのBetterになっていく。そのような行動が社会を変えていくのではないかと思います。

 2018年8月まで、私のフィリピンでの挑戦は続きます。また機会があれば私の挑戦をみなさんにお伝えしたいと思います! 今回も読んでいただきありがとうございました。応援、よろしくお願いいたします!

現地の学生団体のみんなと一緒に。フィリピン国内にも、自分の国をもっと良くしたい!と活動する学生たちがたくさんいます

プロフィール
ジェイミー(中川千絵美:なかがわ・ちえみ) 1996年、高知県に生まれる。横浜市立大学国際総合科学部四年、ヨーロッパ史専攻。NPO e-Education フィリピンプロジェクト カントリースタッフ。2017年8月末から「トビタテ!留学JAPAN」7期生としてフィリピンへ。現地教育局と協働しながら、ドロップアウトした中学生の支援を2018年8月まで行う。現地での教育支援の他にも、日本の地方の子供たちにもっと海外を知ってもらいたいと、高知とフィリピンの高校生の間でオンライン交流会も開催している。好きなことは絵を描くこととピアノを弾くこと。特技は開脚と側転で、これをすると現地の人に喜んでもらえる。