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career-働き方

「37歳まだ若手」 又吉直樹さんに聞く人生100年時代

「37歳まだ若手」 又吉直樹さんに聞く人生100年時代
お笑いの世界で活動を続け、「芥川賞作家」にもなった又吉直樹さん

 平均寿命が延び、若者世代の「人生100年時代」が視野に入ってきた。親世代より20年ほど長生きすることから、これまでとは異なる人生観や生活設計が求められそうだ。お笑いと小説家の"二足のわらじ"で活躍する又吉直樹さんに、新たな時代の生き方について聞いた。

◇  ◇  ◇

 ――人生100年時代と聞いてどんな印象を受けますか。

 「僕が今、18歳で100歳まで頑張れと言われたら、しんどいですよね。だからあまりポジティブなイメージはないですね。これまで60歳定年だったのが、80歳まで働かなければならない。モチベーションの維持が大変ですよね」

 「定年が80歳になると、1つの会社だけで勤め上げることは難しくなるわけですね。(20代に就職して)10年はがむしゃらに働いて仕事を覚えながら、40歳くらいで次の人生の選択を考えて準備する必要があるなと。これからはそれを当然のことと考える必要があるのではないでしょうか」

 「お笑いの世界も昔は25、26歳でスターになっていたので、20代後半でダメならあきらめるという判断ができました。今、30歳で世に出て行く時代なので。(吉本興業の)養成所も入所する年齢に上限がありましたが、もうありません。僕だって若手ですよ。37歳なのにね(笑)」

「お笑いの外」への挑戦は必然

 ――若者は人生のキャリアをどう設計していけばよいのでしょうか。

 「僕は18歳から新宿ルミネの舞台に出ていました。楽屋で太宰治の小説を読んでいると、それ自体が立派なボケに見られたし、吉本が出している雑誌のコラムを書かせてくれるようになりました。それが出版社の目に留まり、小説執筆の依頼が来るようになったのが26歳。初めて小説を書いたのが34、35歳でした。もう1つのキャリアを目指したというより、表現の1つとしてやってみたいと思ったのです」

 「若手時代のスタイルで60~70歳になってもテレビに出続けられるとは考えにくく、どっかでやり方を変えないといけません。お笑いも表現の仕方を変えていく必要があります。漫才でデビューして、コントをやったり、複数のユニットで演じてみたりとか」

 「一番考えているのは(売れなくなって)生活水準をめちゃくちゃ落とせるかどうか、という自問です。大金を稼ぐプロスポーツ選手が引退後に借金まみれになるケースがあります。大金を稼ぐと生活水準が上がってしまい、引退して収入が減ってもお金を使いすぎてしまうからです。まあ、自分は大丈夫やなあ、という確認はしています」

 「あと5年はやりたいことが決まっています。今は自分の表現欲求があるので、全力でやっています。だから42、43歳の時に次のタイミングを迎えると思っています」

 ――長く活躍しなければ食べていけないという意味では、お笑いの世界も変わりますね。

 「僕らや下の世代がお笑い以外の分野にも挑戦しているのは必然だと思います。さらにその下の世代ではお笑いを志す人が急減しています。お笑いがテレビで輝いていた時代があって、僕らはそれにあこがれて飛び込みました。今はお笑い芸人がいっぱいいるから、大変そうだからということであこがれの職業ではなくなっている。僕らの世代が何か新しいことを模索して、世界を広げて次の人たちの雇用の場を生み出してあげる時期に来ています」

自分への投資、若いうちに

 ――人工知能(AI)の進化で現在ある半数の仕事がなくなるとの研究結果があります。若者の働き方も変わりますか。

 「職を奪われるというより、誰でもできることをAIに任せてしまえるならいいですね。古代ギリシャで哲学者が育ったのも、自分では働かずに考える時間が持てたからです。スケジュールを完全に管理してくれるアプリで原稿の全ての締め切りや自分の執筆スピードを把握していて、『設定だけでも今、考えておかないと大変なことになりますよ』と教えてくれるとか」

 ――若いうちにやっておいた方がよいことはありますか。

 「将来の自分にどんな投資ができるか、というのはありますね。僕は本好き、音楽好き、ファッション好きで、演劇も好きでした。仲間が家賃6万円の部屋を借りていたのを風呂なし2万5000円に抑えて、月に本10冊、CD10枚くらい買っていました。自分の快楽のためだったのですが、それが今への投資になったのかなと思います」

 「先輩の話を聞くのもいいかもしれません。何歳の時、何をしていましたかとか。吉本のある講師が『"やらなアカン"とスイッチが入る時が来る』と言っていました。それを聞いて、3年後に売れなかったら、もう自分は終わりやなと覚悟を決めました」

 ――若者の活字離れが進んでいます。小説家としてどう見ていますか。

 「本を読まない友人がいて、1つのテーマについて鋭いことを言います。ただ、その意見は近代文学の中で何度も言及されてきたことで、その意見に対する反対意見もさらにその反論もでていて、すでに2つ3つ先に議論が進んでいるのです。彼が本を読んでいたら、その続きから考えられるのです。彼は賢い人ですが、もったいないですね」

またよし・なおき
 1980年大阪府生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のコンビ「ピース」として活動するお笑い芸人。小説家としては「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞した。舞台の脚本なども手掛ける。

(流合研士郎)[日本経済新聞朝刊 2018年2月19日付、NIKKEI STYLEから転載]

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