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僕がゴミを拾うわけ(6)第2の故郷をつくりたい
地域と歩む決意固めた瞬間

僕がゴミを拾うわけ(6) 第2の故郷をつくりたい地域と歩む決意固めた瞬間
authored by 谷村一成中央大学4年生

 2014年3月30日。香川県で生まれ育った私は、上京して1人暮らしを始めた。それは、私の生活を変える大きな出来事であったが、地域生活という点でもこれまでとは大きく状況が変わった。香川にいたころは、近所の人はみな顔見知りで、向かいの家のおばあさんのお孫さんの遊び相手をしたり、近くの家のおじさんの空き部屋を借りて高校の友人とパーティーをしたり。とても親密な近所づき合いがあった。だが、上京後はアパートの隣の部屋の方の名前すら分からない。近所づき合いなど皆無だった。

下宿の窓にビール瓶

中央大学チームのメンバーとパルテノン多摩職員の瀧澤拓樹さん㊨

 1人暮らしを始めて約4ヶ月後の2014年7月9日。何の前触れもなく、自分の部屋の窓ガラスが何者かに壊される事件が起きた。大きな音に驚いて外に飛び出すと、そこには粉々になったビール瓶が3本転がっていた。恐ろしくなってすぐに警察に通報した。結局犯人は分からなかったのだが、その時警察の方からこのようなことを言われた。「たまにあるんです。旧住民と新住民のいさかいが。昔からこの地域に住んでいる方々の中には、後からやってきたあなたのような若い住民をよく思っていない人もいるんですよ」

 大学生である4年間だけやってきて、飲み会会場や下宿先としてだけ利用して、騒音とお金だけを落として去っていく。そんな、大学生と大学周辺の地域の関係性に疑問を感じていた私は、グリーンバード中央大学チームの活動の方向性に悩んでいた頃、あの時の警察の方の言葉をふと思い出した。

地域の方々のゴミ拾いに参加(日野そうじに学ぶ会、後列右から3人目が筆者)

 ごみ拾いには人をつなぐ役割がある。まずは大学生と地域の方をごみ拾いを通して繋げるところから始めよう。大学生にとって、大学周辺の地域は第2の故郷になればどんなに素敵だろうか。その地域にとっても、若い人がたとえ短期間だったとしても地域と関わることは良い効果をもたらすはず。その後卒業したとしても、その地域のファンとなって全国で応援してくれるに違いない。これこそが中央大学チームの果たすべき役割ではないだろうか?よし、ごみ拾いを通したまちづくりをしよう。私は、地域とともに歩んでいくと決意した。

活動、中立・平等に苦心

 とはいえ、地域の方々と活動することはなかなか簡単ではなかった。まずは人間関係だ。「◯◯さんが参加するなら私は協力しないよ。」と言われることもしばしば。これまで知らなかった地元の勢力図や、様々な人間関係、歴史的経緯などが複雑に絡み合っていて、いかに中立かつ平等な立場で活動するか、とても苦心した。そして何より、グリーンバードの考え方を理解していただくことに苦労した。一部の方は、どうしても第1回の記事で書いたような滅私奉公的価値観が強く、楽しくわいわいごみ拾いをすることになかなか納得していただけなかった。私たちは、自分たちがごみ拾いをする姿を見てもらうことで、その地域にポイ捨てをしにくい雰囲気をつくることを狙っている。そこで、中央大学チームはあえて通行人の多い夕方にごみ拾いを行うこともある。だが、「結局、自分たちが目立ちたいだけでは?」「人に見られていないところでやるのが美徳。」と言われてしまい、どんなに意図を説明しても平行線のままだった。

地域の方々との芋煮会

 また、私たちの活動は、できる限りでいいので、続けることが大きな力になると考えている。そして、長く活動が続くために、そしてよりたくさんの人を巻き込むために楽しく気軽に参加しやすい雰囲気を心がけてきた。だが、「一生懸命無言でもくもくと拾うのがごみ拾い。」「楽しくごみ拾いなんて遊んでいるみたいで応援したくない。」などと厳しい声をいただくこともあった。

信頼関係が重要

 様々な意見がある中で、当初はなんとか説明して理解していただこうと試みたがなかなかうまくいかなかった。ところが、めげずに活動を続けていく中で、「考え方は違うけど、いつもえらいな。頑張りよ。」などと応援してくださる方が少しずつ増えてきた。これまで論理とか効果ばかりにとらわれてきたが、信頼関係こそが重要なのだと私は気付かされた。

 八王子市東部エリアで主に公園管理を行うNPO法人フュージョン長池の会長である富永一夫さんにはいつも叱咤激励を受けている。地域で活動する方々を紹介していただいたり、地域での活動のアドバイスをしてくださったり。時には本気で叱っていただいたり。決して頭の上がらない方だ。

多摩白門会のみなさんと

 多摩市在住の中央大学同窓会である多摩白門会の会長を務める小林誠治さんも、私がお世話になっている方の1人だ。お会いするのはお酒の席の場合が多いのだが、経済論や大学論などいつも興味深いお話を聞かせていただいている。ある時は、2人で日本酒の瓶を空けてしまうほど話が盛り上がったこともあった。

 当初、下宿先と大学を往復するだけだった私の多摩地域での生活は大きく変わった。街を歩いていると、知り合いの市議さんにばったりお会いしたり、町内会の方にお会いしたり。商店会の方のお店でお酒を飲み、近所の方のイベントに誘われて参加する。多摩地域は、単なる通り道から、気づいたら私の第2の故郷になっていた。