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仕事相手の名前「ひも付け」で忘れず
ど忘れしたら会話で探る

仕事相手の名前「ひも付け」で忘れずど忘れしたら会話で探る

 「この人の名前、何て言ったっけ」――。久しぶりに会って顔は分かるのに、名前だけが出てこない。そんな冷や汗をかく経験をした人は多いだろう。ど忘れを未然に防ぎ、いざという時にどう対応すればよいのか、接客のプロや専門家にコツを聞いた。

2000人超の顔と名前暗記

リーガロイヤルホテル ドアマン 重富直也さん

 リーガロイヤルホテル(大阪市)のドアマン歴16年になる重富直也さんは2千人を超す顧客の顔と名前、会社名、自動車のナンバーを暗記している。大規模なパーティーでも、宴会場からどっと出てくる企業トップの姿を遠くから察知し、当人たちが歩いてくる前に次々に車を呼び出す「車回しの達人」だ。

 宿泊や宴会の来客予定リストを前日にチェックし、顧客企業のホームページなどで名前と顔を確認して印象を焼き付ける。目鼻立ちや眼鏡の有無など特徴を探して顔のイメージを記した個別カードを作り、似顔絵も描き添える。

 ホテルの利用目的や利用の多い曜日、誕生日、会社の創業記念日など、名前にできるだけ多くの「枝」を付けて覚え込む。「名前が(記憶から)飛んだときには会社名、会社名が出てこないときには車のナンバーから思い出すなど付けた『枝』が役立つ」

繰り返し覚え込む

 アイドルでも野球選手でも興味のある名前はすぐに覚えるもの。重富さんも「顧客に関心を持ち、喜んでいただくのがサービス業の楽しさ。顔や名前を覚えるというより、人を覚えるようにしている」という。

 「『名前が出ない』がピタッとなくなる覚え方」などの著書がある学習コンサルタントの宇都出雅巳さんは「出身地や趣味、話した内容、表情、身ぶり手ぶりなど関連情報をひも付けておけば、名前をど忘れしたときに手繰り寄せやすくなる」と語る。ただし、「繰り返し覚え込まないと、覚えた気になっただけではいざというときに思い出せない」とくぎを刺す。

 東京・羽田空港内の日本航空のVIPルームに勤務するJALスカイ(東京・大田)国内パッセンジャーサービス担当の熊谷有佳さんは政財界を中心に1500人を超す要人顧客の顔と名前を頭に入れている。声のトーン、背丈、好きな季節、よく利用する方面などとともに「実際に対応した時の印象、話した内容をメモにして一緒に記憶する」。

 テレビの国会中継では、後方に映る政治家の顔と名前が一致するか自らテストする。「色々な機会を利用して覚えることを習慣にしてしまうのが大切」という。記憶と再生を繰り返す努力を接客のプロだからこそ欠かさない。

 とっさに名前が出てこない時は「先日雪山の話をした熊谷です。その後、いかがでしょうか」などと話しかける。あいさつを返してくれたらしめたもの。会話しながらの時間を使って名前を探り当てるという。ただ、「送り出した後に名前を思い出すこともある」と打ち明ける。

JALスカイ 熊谷有佳さん

 「『顔と名前』の記憶術」の著者、椋木修三さんは最後まで名前が分からないまま会話を終わらせてしまうのは一つの手段という。コツは「とにかく堂々と振る舞うこと」。必要ならば「その話、面白いですね。ぜひメールで詳しい情報を送ってもらえませんか」などとメールアドレスを聞き出す。メアドにはたいてい名前が書いてある。

 「名前はなに?」と尋ね、相手が「田中です」と答えた後に、「聞きたいのは下の名前だよ」と聞くのは大物政治家が多用したとされる古典的手法。覚えていないと悟られると気まずい思いをするかもしれない。

 変に取り繕うのが苦手な人は「小細工せず、率直に失念をわびて名前を聞くほうが、かえって相手からの印象が良くなるかもしれない」と椋木さん。失敗すれば強い印象が残り、記憶が強化されるので、忘れたことを認めるのは記憶するのに有効だという。

焦るほど思い出せず

名古屋大学環境医学研究所 沢田誠教授

 名前を覚える脳の仕組みなどを名古屋大学環境医学研究所の沢田誠教授に聞いた。

 ――人の名前を覚えるのはなぜ難しいのですか。

 「記憶には体験に基づいた『エピソード記憶』と、名前や年号、単語など意味を通じて覚える『意味記憶』がある。危険な目に遭ったなど生死に関わる体験はエピソード記憶として残りやすい。脳は生き残るために必要な知識を選択して蓄積するようにできている。一方、名前のように体験でなく学習を通じて獲得した意味記憶は意識して覚えようとしないと覚えられない」

 ――覚えるコツは。

 「名前を覚えるには、その相手に関する様々なエピソードとひも付けを強くしておくとともに、名前が重要だと脳に認識させるよう繰り返し予習復習することだ。ビジネスマンなら定期的に名刺ホルダーを整理し、前回会ったときのオフィスの様子や相手の表情、動作なども思い出しておくと、次に会ったときに名前が出やすくなる」

 「よく似た有名人をイメージするなど自分で想像したエピソードに変えて覚えるのも有効だ。名前を意味でなく絵や映像、位置情報として記憶する人もいる。例えば、『薔薇』という字を正確に書けなくてもバラと読めるのは、画像情報としてひも付けられているからだ」

 ――それでも相手の名前をどうしても思い出せずに困ることがあります。

 「記憶は『覚える力』と『引き出す力』から成り立っている。相手の顔や何を話したかなどを覚えているのに、名前だけが出てこないのは引き出す力が弱まっている状態。だが、ひも付けが強いほど引き出しやすくなる」

 「名前を思い出せないことを必要以上に否定的に受け止めてしまうと、余計に思い出せなくなることがあるので要注意だ。焦るほど不快な心の動きが大きくなり、精神回路に抑制がかかってしまうからだ。覚えているのに思い出せないだけなのだから、抑制を解除すれば意識しなくても出てくる。思い出せなくても問題ないと思うくらいでいた方が思い出しやすい」
(竹沢正英)[日経電子版2018年2月13日付]

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