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アマゾン・ゴー始動 顧客データ、店を変える
D4DR社長 藤元健太郎氏

アマゾン・ゴー始動 顧客データ、店を変えるD4DR社長 藤元健太郎氏

 米アマゾン・ドット・コムがシアトルで実験していた無人レジ型の店舗「アマゾン・ゴー」がついに一般消費者向けに開業した。すでに多くの人が体験し、高い利便性をSNS(交流サイト)などでリポートしている。

 アマゾンが社員で実験していたこの1年の間にも、中国ではすでにコンビニもスーパーも大量の無人レジ型店舗が街中に多く登場している。しかも中国のほうが店舗入り口で顔認証をしたりロボットカートが顧客を自動で追随したりするなど、アマゾンの先を行く取り組みをしている店舗が次々と出てきている。事業者には資本市場からも大量の資金も投入され、「500店舗」「3000店」などと威勢のよい出店計画が目白押しだ。

 それらの担い手はほとんど大手ネット企業やIT(情報技術)系のスタートアップである。彼らは決済や在庫管理、物流をテクノロジーによって最適にし、低コストで効率的な小売店舗を生み出そうとしている。

 アマゾン・ゴーや中国勢のようなこれらの店舗はレジがないところが注目されているが、実は一番のポイントは「顧客を知っているところ」だろう。かつて日本のコンビニエンスストアは400メートルの範囲を商圏に設定しており、「商圏にいる人は全員顧客だ」という考え方だった。

 全員が顧客といっても、一人ひとりの顧客を区別するというものではなく、あくまで大多数の消費者にあわせた良い商品をそろえることで近隣の競合店から顧客を奪うことに重きを置いていた印象だ。ようやくポイントカードを導入してから、よく買い物をしてくれる人とそうでない人の購買行動の違いを分析できるようになってきた。

 それでも日本のコンビニやスーパーは品ぞろえを重視する傾向が強い。社内でもバイヤーや商品を開発している人たちが重視され、ライバルよりも良い商品を低コストで出すことが勝利の方程式とされてきた。

 しかし、アマゾンのようなネット勢の最大の強みは顧客を知っていることだ。顧客が普段ネットでいつ何をどんな頻度で買っているか、どんなブランドが好きなのか、家族構成も家族の趣味もおおよそ知っている。

 そんな彼らがコンビニ業態の顧客データも手に入れば通勤途中に購入するものや、ランチの興味までが全てわかる。しかも棚を手に取ったところまでもカメラデータで分析しているアマゾンは購入の順番や買うのをやめた商品も知ることができる。顧客を知ることができれば通勤途中で事前に店舗に寄ることを提案することも可能だ。

 顧客ごとに弁当やサンドイッチ、スムージーをカスタマイズすることもできるようになるかもしれない。糖質制限をしている人なのか筋肉を増やしたい人なのかも知っている。

ふじもと・けんたろう 電気通信大情報理工卒。野村総合研究所を経て99年にフロントライン・ドット・ジェーピーを設立し社長。02年から現職

 商品開発のテストも容易だ。あらかじめ選ばれたターゲットに対して参加を依頼し、店頭でサンプル商品を渡してテストしてもらい、スマートフォン(スマホ)で回答してもらうことも簡単になるだろう。社内で社員たちだけで品評会を行うよりも市場の生データが取得できる。

 「良い商品を用意してそれをたくさん買いに店に来てもらう」という長年の小売りのモデルが、「一人ひとりにほしい商品を提案することで『常連客』化し、何度も店に来てもらう」というモデルに変わろうとしている。売れる商品という起点から、顧客がほしいものという起点になっていくということでもある。通販サイトではすでに当たり前のことが、いよいよリアル店舗の小売りでもスタートしようとしているともいえる。

 そう考えると、日本の小売店がレジだけ無人にしても本質的には意味がないだろう。「立地や価格、品ぞろえが抜群の店舗」からITの力で「全ての顧客を知っている店舗」への転換ができるかが重要だ。日本市場にもアマゾンなどの勢力が入ってくることは十分に考え得る。そこに向けた戦いはもう始まったのかもしれない。
[日経MJ2018年2月16日付、日経電子版から転載]

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