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「東大に一番近い」筑駒のOB 先端技術の旗手に次々

「東大に一番近い」筑駒のOB 先端技術の旗手に次々
首都圏の「神童」が集う筑波大学付属駒場中学高校

 東京大学に3人に2人が進学する全国トップクラスの男子進学校、筑波大学付属駒場中学・高校(筑駒、東京・世田谷)。研究者や官僚、大企業幹部になる卒業生が少なくないが、にわかにIT(情報技術)など先端技術分野で起業をするOBが増えている。1人の起業家を通じて、「東大に一番近い進学校」筑駒のOBの今を追った。

 「これは東大で開発された心臓シミュレーションUT-Heartを可視化したCG(コンピューターグラフィックス)ですね。心臓内部の動きなど、実際に直接見るのは難しいものでも、様々な角度から見ることができます」。東京大学の本郷キャンパス内にあるアントレプレナープラザで、サイアメント社長の瀬尾拡史氏(32)は、こう話す。同社は、医学を中心に科学専門のCGコンテンツを制作する新興企業だ。

 筑駒出身の瀬尾氏は、NHKの番組「驚異の小宇宙 人体」に感銘を受け、東大理科3類から医学部医学科に進学。臨床医や研究医ではなく、CGを活用した最先端技術で医学領域の進化をサポートしている。その原点は筑駒のパソコン研究部にあったという。

 東大駒場キャンパスから徒歩10分の閑静な住宅街にある筑駒。1学年の定員は中学が120人、高校は160人という比較的小規模な中高一貫の男子校だ。瀬尾氏が中学1年生の頃は、米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ98」が発売された時代、インターネットブームが起こる直前だった。パソコン部のメンバーたちは、「C言語」などのプログラム言語を習得し、富士通のパソコンを使ってソフト開発に熱中していた。

 「この人すごいな」。瀬尾さんの3学年上の先輩にソフト開発の達人がいた。人工知能(AI)ベンチャーとして注目を集めるプリファード・ネットワークス社長の西川徹氏だ。「どんなゲームソフトでもつくれる。こんな人がエンジニアになるのか」と舌を巻いた。4年前、総務省で再会したとき、西川氏はイノベーションをテーマにした審査委員会ですでに委員を務めていた。

 同部の同級生には数学の天才もいた。国際数学オリンピックに5度の出場を果たした大阪大学准教授の大島芳樹氏だ。瀬尾氏は「中学1~2年の時に大学の数学も解いていました。中高で5度の出場は日本人として前人未到の記録じゃないですか」という。

筑駒OBの瀬尾拡史氏は医学を中心に科学専門のCGコンテンツを制作

 瀬尾氏が興味を抱いた3DCGのアルゴリズムは高等数学の塊だ。大島氏は、瀬尾氏ら部の仲間に、その基礎となる三角関数や行列、ベクトルなどを講義してくれた。今も瀬尾氏は当時の資料を大切に保管している。

 瀬尾氏と大島氏は、同じ東大でも医学と数学という別々の分野に進んだが、10年にくしくもそろって東大総長賞を受賞している。その年の学業での受賞者はわずか7人、極めて優秀な学生やその研究活動などを評価して選ばれる。

 瀬尾氏の恩師で、今も親交のある筑駒の大野新副校長は、「瀬尾くんは画期的な3DCGをつくりましてね。当時スタートした裁判員制度に用いる3DCGの作成を最高検察庁に提案して、その裁判員裁判第1号事件の証拠資料となる3DCGを制作したんです。彼の3DCGは裁判にも活用できるんだと驚きました。筑駒の生徒はもともと『地頭』がいい子ばかりだが、発想が柔軟で面白い生徒が多いですね」と話す。

 筑駒は芸術家も輩出している。ピアニストで作曲家でもある森下唯氏。瀬尾氏の4学年上の憧れの先輩で、筑駒の音楽祭で披露するピアノにしびれた。森下氏は東京芸術大学に進学した。瀬尾氏は、「実は筑駒時代に面識はなかったのですが、私の制作したCG映像の音楽を森下さんにお願いしたいと思いました。CGに音はすごく大事なんです。失礼を承知でいきなりメールしたら、二つ返事でいいよと。私が想定したより100倍もいい音楽をつくっていただいた」という。

 筑駒時代に森下氏は生物部に所属し、瀬尾氏と同様に人体に強い関心を持っていたそうだ。「森下さんは人体の中身にも造詣が深かったので、親和性が高かったんだと思います」という。

 異能の経営コンサルタントと呼ばれる経営共創基盤最高経営責任者(CEO)の冨山和彦氏も筑駒時代に瀬尾氏と似たような体験をした。筑駒の名物は3日間続く文化祭。中学1年生の時に、高校3年生だった野田秀樹氏の演劇に衝撃を受けた。「高3になったら、あんなすごい芝居をつくれるのか」。女子高生たちが長蛇の列をなしていた。

 冨山氏は演劇の道には進まなかったが、「独創的で才能にあふれた人がたくさんいて、すごく刺激的だった。東大に入ったら、普通の人が多いなと感じましたね。筑駒OBは大企業の経営者になるタイプではなく、自分の考えを持ち、研究を極めたり、革新的な事業を手掛けたりするタイプの人が少なくないんです」と振り返る。

 瀬尾氏の後輩にも先端技術の世界で活躍する異才が少なくない。1学年下で、ロボティクス開発のイクシー(東京・中央)代表だった近藤玄大氏は東大大学院からソニーを経て独立。現在はソニーに復職して、研究を進める。手のない人が直感的に操作できる電動義手の開発で注目を集めている。瀬尾氏の3学年下の高橋直大氏は、競技プログラミング界の代表的な存在だ。

瀬尾氏も学んだ東京大学医学部

 もともと筑駒OBは研究者や官僚になる人が多かったが、2000年以降は起業などを通じて、先端技術の旗手となる人が増えている。大野副校長によると、「筑駒愛」が強い冨山氏は、後輩に「起業家になろう」と呼びかけているという。

 筑駒の林久喜校長(筑波大学教授)は「とにかく自由な学校で、これという校則もない。ちょっと個性的で、もしほかの学校だったら、浮いたり、いじめられたりしていたような生徒でもこの学校の生徒はそれを個性として容認するムードがある」という。

 受験校といわれるが、「特別な受験対策をやることはない。そんなことより個性や教養を伸ばす教育を重視している」(林校長)という。

 17年夏、文部科学省の有識者会議は、国立大学の付属校がエリート化し、本来の役割を十分に果たせていないとして、学力テストではなく、抽選で選ぶことなどを求める報告書をまとめた。しかし、大半の筑駒OBは「そんなことをしたら、筑駒らしさが失われる」と反発する。

 瀬尾氏は「小学校時代はトップの成績の生徒ばかりが集まっていますが、筑駒に入ると、上には上があると実感します。テングになったり、勘違いしたりする暇なんてありません。勉強ができるだけではダメで、さらに何かプラス要素がないと仲間内で認められない。刺激し合って切磋琢磨(せっさたくま)するだけでなく、行事も盛んで、生徒の数も少ないので一体感があり、アットホームな雰囲気もある。貴重な学校だと思います」と話す。

 17年の東大合格者数では、首位の開成高校が161人で、2位の筑駒は102人。ただ、1学年あたりの定員は開成が400人に対して筑駒は160人のため、東大への合格率では筑駒が全国トップだ。筑駒は東大駒場キャンパスから徒歩10分の至近距離にあるが、名実ともに東大に一番近い進学校と言えそうだ。

 首都圏では筑駒以外の国立大学付属校の進学実績は伸び悩んでいる。「開成など有名私立校は資金力もあって不動ですが、国立校は予算が限られ、施設も老朽化し、優秀な生徒を集めるのが徐々に難しくなっています。しかも日比谷高校など都立高校の進学実績が復活しています。都は豊富な予算があります。筑駒は国立校の最後の砦ですね」(高校関係者)という。

 先端分野の起業家や技術者を次々輩出している筑駒。今も先輩と後輩がつながり、協力し合ったり、競い合ったりしている。異才たちの母校は、その特色を守れるのか。全国の教育関係者が注目している。
(代慶達也)[NIKKEI STYLE 2018年2月11日付]

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