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僕がゴミを拾うわけ(7)土方と龍馬の子孫が対面
縁も街もつくるゴミ拾い

僕がゴミを拾うわけ(7) 土方と龍馬の子孫が対面縁も街もつくるゴミ拾い
authored by 谷村一成中央大学4年生

 新撰組の隊士たちを生み、今でも江戸時代の古い町並みが残る日野市。雄大な多摩川や閑静な多摩ニュータウンを擁し、『耳をすませば』など様々な作品の舞台となっている多摩市。そして、美しいイチョウ並木や伝統的な絹織物業が継承されている全国有数の学園都市、八王子市。私が在学する中央大学はこの3市が交わるまさに交差点のような場所にある。2017年5月21日。この日、中央大学ボランティアセンターとのコラボレーションごみ拾いが開催された。5月30日のごみゼロの日にちなんで「ごみゼロごみ拾い」と銘打たれていた。

 そこで出会ったのが、浜川成美(中央大3年)と梅原紅音(中央大1年)だった。2人はまちづくりに興味があった。せっかくの大学生活だから何かしたいと思いながらも、実際の行動には移せていない、そんな大学生だった。私はここぞとばかり、グリーンバード中央大学チームのメンバーになってほしいと2人を口説いた。悩んでいる様子だったが、2人とも最終的にはメンバーになってくれた。今思うと、メンバーが1人しかいない団体によくぞ飛び込んできてくれたものだと心から感謝している。この3人で、グリーンバード中央大学チームは、「ごみ拾いを通したまちづくり」の路線で行くことを決め、再スタートを切った。

ハードルは低く

宮城合宿に参加した浜川成美さん㊧と梅原紅音さん

 ところで、まちづくりと言っても様々な種類がある。地域を盛り上げるイベントの開催、地域の有望な人材への奨学金制度の導入、先進的な活動をしている方を招いての交流会。これら全てがまちづくりにあてはまる。では、グリーンバード中央大学チームの行うまちづくりとは何か?

 私はごみ拾いの持つ特徴に注目した。まず、ごみ拾いという行為そのものが、その地域の美化に役立つだけではなく、「自分の暮らす地域を自分の手でよりよくする」という、その地域に関係する人々の地域に対する主体性を育むのに最適の活動だ。なぜ最適かというと、ごみ拾いに参加するハードルの低さがポイントだ。いきなり地域活性化のビジネスプランを考案したり、新しいイベントを企画したりすることは、もちろん参加者の地域に対する主体性を大きく育むに違いないが、何せ取り組むハードルが高い。ビジネス未経験者や普段の生活が忙しい人は参加をためらってしまうだろう。でも、ごみ拾いには特殊な技能も必要ないし、普段忙しい人でも休みの日の1時間を使うだけだ。老若男女問わず、誰でも手ぶらで気軽に参加できる。だから、限られた一部の人だけではなく、広くその地域に関係する人を巻き込むことができるのだ。いつも私たちのごみ拾いに参加してくださっている向井亮二さんは、「義務がなく、それぞれのできる限りで活動すればいいというゆるさが心地よくて、社会人として働きながらも、いつも参加しています。」と話していた。

コミュニケーションのきっかけ

 そして、老若男女問わず誰でも参加できるということもポイントだ。旧住民と新住民や、日本人と外国人、年齢や性別など地域に暮らす多様な人々が、みんな参加できる。それらのグループは、普段互いに関わる機会があまりないため、「若者は怖い」とか、「外国人住民はマナーが悪い」というように、互いに不信感を募らせてしまっている。そのような不信感を乗り越えて、コミュニケーションをとるきっかけを与えることができるのがごみ拾いという場の力である。多様な人々が協力して、自分の街のためになる活動をすることは、地道ではあるが、広く人々の「自分の暮らす地域をよくしていこう」という機運を醸成し、地域が一体となったまちづくり運動の基盤を作ると考えている。これが、私たちグリーンバード中央大学チームの行うまちづくりである。2017年8月15日。多摩市の商業の中心である多摩センターにて、地域の方々も巻き込んだまちづくり目的のごみ拾いがスタートした。それ以来、毎月第4火曜の18:30から1時間ほど、多摩センター商店会の小泉藤夫会長や多摩青年会議所の松田大輔理事長(当時)、そして中央大学の大先輩である岩永久佳さんらのご協力のもと、多摩センター駅周辺でごみ拾いを行なっている。

第1回多摩センター駅北口おそうじのメンバーと

 多摩センターでのごみ拾いには、地元の方々や党派を超えた市議会議員さん、地元行政や商店など幅広い方々に参加していただいている。一方で、中央大学に限らず、帝京大や明星大、大妻女子大、恵泉女学園大などの多様な学生も集まっている。毎月、このような方々と交流しながらゴミを拾う中で、これまで全く知らなかった多摩市の歴史や文化、市議会の論点から美味しいお店などを教えていただいた。いつも新しい発見があり、私は大変楽しい時間を過ごしている。また、ここで学生と地域の方々が出会ったり、地域の方々の間でも、これまで交流のなかった方々が出会ったりすることで、新しいまちづくりのアイデアや企画が生まれている。これらが今後、具体的な形となって現れることが大変楽しみだ。私たちが取り組むまちづくりは、すぐには成果がわからないものだが、数年後、あるいは数十年後に大きな成果となって現れると信じている。

地域資源と掛け合わせ

ゴミを拾う土方愛さん㊧と坂本龍哉くん

 実は、私たちグリーンバード中央大学チームが取り組むまちづくりには、もう1つの側面がある。それは、「ごみ拾いと地域資源を掛け合わせること」だ。日野市は新撰組副長である土方歳三の生誕地で、現在でも生家が残っており、土方歳三資料館となっている。また、土方らが学んだ道場が残るなど、日野市は歴史ファンにはたまらない新撰組の故郷なのだ。さて、多摩センターと同様に日野市でも、高幡不動にて毎月第2月曜の17時10分から1時間程度ごみ拾いを行なっている。そこによく参加してくださっている中央大学の大先輩である峯岸弘行さんからこんなことをお聞きした。「土方歳三の兄のご子孫である土方愛さんが日野市に住んでいて、土方歳三資料館の館長をされているよ。」その時、私は瞬時にあることを思い出した。それは、中央大学に坂本龍馬の兄のご子孫である坂本龍哉くんが在学中であることだ。はっとして調べてみると、2017年12月は奇しくも龍馬暗殺から150年の節目の年。そこで企画したのが、「高幡不動幕末おそうじ〜土方×坂本 150年目の再会〜」であった。

 このイベントは、日野市の歴史をごみ拾いと掛け合わせることで、その掛け合わせの意外性から話題を集め、新撰組の故郷である日野市の魅力をより多くの人に知ってもらうことを狙いとしている。それに加えて、地域住民である土方さんと、地元の学生である坂本くんが共にごみ拾いをすることで、地域の方々と学生がともに地域のために活動をするという私たちグリーンバード中央大学チームの理念をまさに象徴するイベントでもあった。このイベントの実現のために、グリーンバード中央大学チームの日野市担当である田中瑠海(中央大3年)と田中孝之輔(帝京大3年)は土方さんと坂本くんへの連絡や会場の調整、参加者集めなどに奮闘した。グリーンバード中央大学チームを1人で引き継いだ時のことを思うと、自分が動かずともこれほどしっかり運営してくれる後輩ができて感無量だった。

グリーンバード中央大学チームの後輩たちが開いてくれた卒業式

 2017年12月16日。会場の高幡不動には朝早い時間だったのにも関わらず、定員いっぱいの30名が集まった。土方さんと坂本くんはその日が初対面。150年という時を超えて、敵対した過去を持つ両者が協力して地域のためにごみ拾いを行う。このなんとも素敵でほっこりとしたニュースは様々なメディアに取り上げられ、大きな反響を呼んだ。日野市の知名度アップにも一役買ったと思う。日野市役所職員で私たちの活動を支援してくださっている大村国博さんの嬉しそうな顔が忘れられない。そして何より土方さんと坂本くんが本当に楽しそうにゴミを拾う姿を見て、大学生活でこの上なく幸せを感じたのだった。たかがごみ拾い、されどごみ拾い。大学生活の大部分を過ごしたグリーンバードでの活動を通して、私はたくさんの方と出会い、拾いきれないほどのご縁をいただいた。

※この連載は今回で終了します。