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日本経済新聞「未来面」
学生から日本特殊陶業会長兼社長へ提案
「売る」から「シェア」への変革

日本経済新聞「未来面」 学生から日本特殊陶業会長兼社長へ提案「売る」から「シェア」への変革

 日本経済新聞の未来面は、読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。共通テーマは「革新力」です。今回は日本特殊陶業会長兼社長・尾堂真一さんからの「持続可能な社会には何が必要ですか」という課題について、学生の皆さんから多数のご投稿をいただきました。

【課題編】持続可能な社会には何が必要ですか

尾堂真一・日本特殊陶業会長兼社長

尾堂真一・日本特殊陶業会長兼社長

 自動車は社会に変革をもたらし続けています。移動の自由、人だけでなくモノを運ぶことで生産活動の活発化や生活者の利便性の向上に多大な貢献をしているのは明らかです。多くの読者の皆さんにとって「自動車のない世界」を想像することはできないと思います。だからこそ、自動車産業に携わる私たちは「人と車と技術と未来」について、いつも真剣に向き合っていなければなりません。

 今、この業界はかつてないスピードで変化しています。従来のガソリン車から電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)への移行です。一方、ガソリン車は全世界で走り続けていて、成長の余地は残されていますが、化石燃料を使うため環境問題を起こしたのも事実です。

 実は、エンジン(内燃機関)に必要なスパークプラグを製造する会社の経営者として心の葛藤があります。世界トップシェア、年間生産個数8億3000万という供給責任を果たす一方で、自動車産業が技術革新によって今までと違う世界へ突き進もうとしていて、決断を迫られることが多くなってきているからです。

 幸いにも、内燃機関のような過酷な状況でも耐えられるセラミックの技術があります。エンジンの燃焼効率を高めるスパークプラグや排ガスを検知しながら燃費を向上させるセンサーで二酸化炭素(CO2)削減に貢献しています。自動車産業で鍛えられた我が社のセラミックは今、通信機器や半導体製造装置に欠かせない素材や人工骨など医療関連でも利用されるまでになりました。色々な可能性を秘めた存在です。

 こうした取り組みは我が社の前史から培われた社会を感度良く見ていく力があるからだと思います。当社の創業者は約90年前に米国を視察し、そこでモータリゼーション(自動車社会)の到来を予期して当社の源流が誕生したのです。

 現在、海外の売上高比率が8割となり、我が社を取り巻く経営環境について考えるにはグローバルな視点で解決することを求められます。セラミックを軸として良品をお届けすることで社会に貢献していくことに変わりありません。

 しかし国や企業に求められるものは大きく変わってきています。中でも持続可能な社会の実現には全世界で取り組まなければならない問題であると考えます。

 そこで読者にお願いです。「持続可能な社会の実現に必要なものは何か」について考えていただきたいのです。大きなテーマでありますが、未来の地球のために、皆さんのアイデアをお待ちします。

(日本経済新聞2018年3月5日付)

◇    ◇

【アイデア編】

アイデア001 「売る」から「シェア」への変革
豊島佳奈美(天王寺学館高等学校総合学科2年、19歳)

 燃料電池車(FCV)、電気自動車......環境問題解決のために開発されたこれらの技術。現状は、高価格やインフラの未整備などが原因で手の届かない存在になっている。果たしてこれで良いのだろうか。優れた技術でもそれが求められている時代に力を発揮できなければ、宝の持ち腐れになってしまう。それを回避するには普及に重点を置いた抜本的な改革が必要だ。そこで私が提案するのは、技術を「売る」のではなく「シェア(共有)する」という発想の転換だ。例えば、最先端のFCVを専用ステーションに配置し、公共交通機関として利用できるようにする。シェアすることで使用する車は削減でき、あらゆるものがつながるIoTを駆使すれば最短経路や目的地への誘導など、エネルギーも減らせる。既存の駐車場を活用すれば全国展開も夢ではない。優れた技術が人々の生活に行き渡る未来...そこに持続可能な社会もあるのではないだろうか。


アイデア002 植物や動物を形づくる素材活用
市地福太郎(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、16歳)

 私が考える50年後の損害保険は「記憶保険」だ。38歳の私は50年後には88歳になる。現在すでに衰えを感じているのが記憶力だ。例えば、人の顔などその他の情報は出て来るのに、名前が出て来ず「えっと、あの人」という風になる事がたまにある。80代ともなればもっとそうなっていると危惧する。一方で、50年後には技術が進歩していることだろう。PC等のデータが個々の端末上よりもクラウド上に保存されることが増えたが、人間の脳の記憶も外部化・クラウド化されるのではないか。その外部化された人間の記憶が盗まれたり壊されたりすることは、文字通り「記憶喪失」である。重大なリスクだ。重大なリスクとなれば損害保険が必要になるはずだ。


アイデア003 製品から原料を生み出す
野口裕太(教諭、34歳)

 製造業では原料を仕入れ、それを加工し、製品として出荷している。この「原料→製品」は原料が尽きれば、製品も尽きることを意味している。これでは、いずれその製品を作り出すことができなくなり、「持続不可能」な社会を生み出してしまう。そこで製造業であっても、「製品→原料」の取組が欠かせない。直接的に古くなった製品を解体し、そこから原料を回収する方法もあるだろう。また、全く新しく原料を生み出すような取組による方法もあるだろう。いずれの方法であっても、将来世代に限りある資源を受け渡し続けなければ、将来私たちの生活が行き詰まることは容易に予想できる。企業のこのような活動は、消費者や投資家の評価を得て、利益を上げることと同等に重視されている。この流れを日本中の企業に広げていく必要がある。持続可能な社会のためには即効薬はない。地道な私たちの将来を見据えた行動が必要だ。


【講評】尾堂真一・日本特殊陶業会長兼社長

「持続可能な社会には何が必要ですか」という問い掛けに読者の皆さんから多くの投稿をいただき、ありがとうございました。「持続可能な社会」が必要なことは誰もが分かっていますが、幅広いテーマだけに明確な答えが見いだしにくい中、そこに向き合って下さったことに改めて感謝申し上げます。

 メーカーの経営者である私にとっての「持続可能な社会」のキーワードは「限られた資源をどう活用するかだ」と考えています。単にものづくりをしているだけではもはや市民社会の理解を得られなくなってきています。シェアリングや分配という考え方が個人や地域だけでなくグローバルで広がらないと意味をなさない時代です。売上高の8割超を海外事業で占める我が社では意識していかないといけないことです。

 投稿の中で私の気持ちに近かったのが「売るからシェアへ」です。「優れた技術の普及」という言葉は理念、精神的な考えとして腑(ふ)に落ちました。

 「製品から原料を生み出す」も大変参考になりました。人類はエネルギーの大半を化石資源から作り出してきました。将来世代の先取りをしてきた部分もあります。いいとこ取りなどできるはずはありません。そろそろ発想の転換をすべきときです。我が社ではセンサー部品の一部を再利用し、可能な限り資源の活用に努めています。コスト面で難しいものもありますが、そこは技術革新で解決する努力を怠ってはいけません。そうした中で水素社会は理にかなっていると思います。

 「動物や植物を形づくる素材活用」も興味深いです。生き物に無駄などありません。これをもっと加速させる必要はありますね。
我が社は、皆さんとともに地球規模の危機感を共有しながら、この課題に取り組んでいきたいと思います。

(日本経済新聞2018年3月26日付)

【「未来面」からの課題】
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