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グローバル夜明け前(1)外国人留学生の立場を想像してみよう!

グローバル夜明け前(1) 外国人留学生の立場を想像してみよう!
authored by 田邉理恵早稲田大学ICC(異文化交流センター)学生スタッフ

 はじめまして。早稲田大学の異文化交流センター学生スタッフの田邉理恵です。この連載では、私が学生スタッフとして外国人留学生たちと接している中で感じる、大学のグローバル化について書いていきたいと思います。日本一留学生の多い大学だからこそわかる問題点などについて皆さんと共有し、全国の大学で真のグローバル化が進むことを願っています。

外国人学生7000人超の早稲田大学

私自身が企画したUAE文化紹介イベントで

 外国人学生の在籍者数が7000を超える早稲田大学。この数値は、東京大学や大阪大学などの国際色豊かな大学を凌駕して日本の全大学のトップに立ちます。政治経済学部に在籍する私自身も、毎日学部のビルの中で英語・中国語・韓国語を聞かない日はありません。そんな早稲田大学の国際交流の実情はどのようなものなのでしょうか!? 日本一留学生が多い大学で、誰もが国籍を越えて異文化交流を深められるようなキャンパスを作るために設立されたセンターがあります。名前を「異文化交流センター」といいます。今回は、そこで学生スタッフとして日々異文化理解について考察している私が、レポートさせていただきます。

 最初に、単純な「留学生」とは異なる意味合いを持つ「外国人学生」がそもそもどのような学生を指しているのかを説明しましょう。早稲田には、2カ月や半年の短期プログラムで日本語を勉強しに来る留学生から、1年間滞在する短期留学生、さらに、入学から卒業まで4年間同じ学部の授業を受ける外国人の学生まで、様々な種類の「外国人学生のカタチ」があります。さらに、同じ学部の中にも4月入学や9月入学のプログラム、日本語で授業を履修する場合や英語で学位を修了するプログラムまで、充実した教育制度が整備されているのです。これらのプログラムを履修する「外国人学生」の中には海外で生まれ育ち、英語の教育を受けてきた日本人も含まれています。

 異文化交流センターでは、このような多様性を加味して、留学生というフレーズにとらわれずに外国人学生を「インターナショナル・スチューデント(IS)」とし、それに対して日本で教育を受けてきた日本人あるいはその他の国籍を持つ学生を「ローカル・スチューデント(LS)」と呼称しています。

中国人と韓国人の友人と

 LSがどのような場合に「日本人」以外を指すのか気になる方もいることでしょう。実際には、日本で生まれ育った学生の両親が必ずしも日本人であるということはありません。例えば、両親が韓国出身であっても東京に生まれ、標準的な小中高学校に通い、韓国語も喋ることができない人は多く存在します。

 今のは一例に過ぎませんが、両親が他のどの国・地域出身であったとしても、本人は日本の教育や慣習に適応しているというケースは頻繁に発生します。このようなバックグラウンドを持つ学生を日本の国籍制度における血統主義に基づいて、単純に「外国人学生」としてカウントすることは妥当ではないことを理由に「LS=地元(日本)の学生」というカテゴリーの方式を設けたのです。

毎日イベントを開催し、異文化交流

 先ほどお話した内容からも分かる通り、異文化交流センターは、様々なアイデンティティーや居住歴・出身地を持つ全ての学生に対応できるように日々取り組んでいます。ディスコース(表現やコミュニケーション)の配慮ももちろんその一つですが、具体的に異文化交流センターは普段どのようなことをして、異文化理解を促進させているのかを説明しましょう。

 基本的には、イベントの企画・運営です。様々なバックグラウンドを持つ人の交流の場を提供するために相応しいイベントやプログラムを学期中はなんとほぼ毎日開催しています。イベント企画を担当するのはほとんどの場合が私のような学生スタッフで、学生目線の魅力的な企画を作成することによって、より多くの早大生に異文化交流の楽しさや重要性を発信することを目的としています。

 このような学生相互参画システムは、参加者にとってはもちろんですが、学生スタッフをしている私にとっても非常に有意義な体験を与えてくれます。日本人の学生として入学して、すぐに英語でオフィスワークをする、多様な人材とチームでイベントを運営する、大学の公的な職員として外部団体や企業と打ち合わせをする――。こんな社会人の疑似体験のようなことを経験している大学生は日本全国を探してもそんなに多くないのではないでしょうか。

 インターンとは一味違ったアットホーム感もあり、スタッフ同士でもとても良好な関係を築けています。センターで仕事しているISも、入った当初は片言だった日本語がすっかり流暢になっていたり、逆にLSの英会話能力が格段と上がっていたり、両者ともに各国・地域に関する見識が上がっていたり、と学生にとって生の学習をする場にもなっています。

 異文化交流センター以外でも、IS・LS両者の留学をサポートするセンター、日本語の学習指導を行う教室、ムスリム学生のための礼拝堂や学食でのハラル食品の販売などの取り組みを行っています。早稲田大学ではこのように学生の主体性を取り入れたプログラムから多種多様なサービス・入学方式まで、世界各国・地域から早稲田を訪れる学生に対して寛容な精神のもとで異文化理解の機会を提供しています。まさに、ワセダに象徴される「無門の門」がグローバルな視野で開かれていますね!

イベントの案内板

全体に広がらない異文化交流

 一方で、異文化交流の壁はまだまだ存在します。ISにとって十分に心地良いとは言えない日本社会特有の空気感が、いわゆるISとLSとが均衡に対面して仲を深める機会を阻害しているような一面もあります。たとえば、日本語を1年学びに来た留学生のクラスメイトは当然、日本語を学びに来た他の留学生ですから、日常的に気軽な会話を楽しめる日本人はせいぜい日本語の授業でチューターをしているボランティアさんくらいなのです。今ここで「それならサークルに入ればいいじゃない」というアイデアを思いついてくださった方はたくさんいるかもしれません。

 でも、実は、留学生や外国人学生が学生サークルに入会することは想像以上に大変なことなのです。サークル保有数日本一のサークル天国早稲田でさえ、4年間継続して活動できない交換留学生の入会を拒否していたり、日本語が話せないためコミュニケーション不足が懸念されて活動に参加できない外国人学生がいたりします。さらには、小中高時代合わせて12年間をニューハンプシャーで過ごした帰国子女の知人は、「うちのサークルはパリピには合わないかも」と門前払いされてしまったようです。もちろん、中には日本語によるコミュニケーションが必要な活動も一部にはあるのかもしれませんが、多くの場合は不当な先入観や偏見が原因となっていたり、既存の集団の調和を保持しようとする姿勢がマイナスに働いた結果起こることであったりします。

 異文化交流センターでシフトに入っている時間も、しばしばオフィスのカウンターにISがやってきて、サークル資料の閲覧を要求したりサークルに入る方法、日本人の友達を作る方法について尋ねてきたりします。日本人が留学生や外国人学生との関わり合いを考えることもなく仲間との学生生活を楽しんでいる裏で、ISはその思い出の写真に共に写るべく必死に手段を探している現状があるのです。

UAE文化紹介イベントで司会進行

 「異文化交流の促進」とは日本人同士の交流を疎かにしてまで異文化交流をすべきという話でもありませんし、ISなら誰とでも友達になれという命令でもありません。日本流の人間関係や社会の風潮は誰かの悪気があって成立した訳ではなく、長い年月をかけて築き上げられてきた日本固有の文化でもあります。手放しでこれに穴を穿つことが最善策ではないのであって、まずは相手の気持ちを想像してみることが重要です。

 もし留学しているのが自分で、一緒にお出かけをしてくれる友達ができなかったら......、英語や生活のサポートをしてくれる人がいなかったら......、日本人であるという理由だけでディープな会話をするのを拒まれたら......。このような柔軟な視点の転換は異文化交流の扉を大きく開くことになり、より多くのISにとっての心の支えとなり得ます。

 グローバル大学を目指すための取り組みを積極的に行っている早稲田大学ですが、今後は学生一人一人が能動的にこのような「グローバル・シンキング」をすれば、ますます分け隔てのない自由なキャンパスを作る一歩を踏み出せると思っています。