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海外引っ越し30カ所中29逃す 痛恨ミスから敏腕営業に
日本通運 大槻哲平さん

海外引っ越し30カ所中29逃す 痛恨ミスから敏腕営業に日本通運 大槻哲平さん
マレーシアを走る日本通運のトラック

 海外への赴任に伴う引っ越しは国内転勤に比べ注意すべき点が多く、当事者の不安も大きい。海外引っ越し事業で首位の日本通運の大槻哲平さん(39)は営業成績の上位者だけが受けられる海外研修を経験し、1千人以上の引っ越しを手掛けた達人だ。家財輸送だけでなく渡航前後の手厚いサポートで顧客の信頼をつかむ。

日本通運の大槻哲平さん

 「海外赴任者の配偶者研修を刷新できないか」。2017年7月、顧客の自動車メーカーから相談を受けた。これまで自前で開いてきたが、内容を充実させるため外部委託を検討。大槻さんの本業は家財輸送の手配だが、持ち前のサービス精神で即座に動いた。

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 研修テーマは健康管理、生活・教育情報、異文化理解、治安・リスクの4つ。大槻さんは海外赴任者向けの健康診断や予防接種を手掛ける医師を口説いて講師に招き、海外駐在の経験がある主婦と相談できる場などを設けた。プレゼンは4社の競合となったが、治安・リスクを除く3つのテーマを受託。「日通は引っ越しだけではないんだね」。顧客企業の担当者からもらった言葉が何よりの喜びだ。

 原点は02年の入社後に配属された大阪で鍛えた「ご用聞き営業」だ。日通が運航する北海道―岡山間の定期船の貨物を集める仕事で、営業スタイルは足しげく顧客訪問し「とにかく元気にアピールして関係を築くこと」。訪問後は当日中にお礼メールを送る。出会った人の出身地や趣味をメモし、機会を見つけては話題に出し相手の懐に入る。

 2年半後に東京の海外引っ越し部門に移る。海外引っ越しは国ごとに持ち込める荷物や必要書類が異なり、覚えることがたくさんある。初めは苦労したが、大阪で磨いたご用聞き営業で力を発揮した。

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 06年に新規顧客を開拓する専任チームのメンバーに選ばれた。任務は4カ月間でとにかく多くの顧客を獲得すること。海外赴任の有無を事前調査せずに電話営業を敢行。門前払いが多い約束なしの「飛び込み営業」では持ち前の明るさで9割の企業に話を聞いてもらえた。期間中の営業収入は1000万円に達し、成績上位者だけが受けられる海外研修の栄誉を手にした。

 その1年後、手痛い失敗を経験した。相手は海外引っ越しの全量を日通に発注していた自動車メーカー。定期的に訪問し、友好な関係を築いていると確信していた。あるとき担当者から複数の企業を比較することになったので見積もりを出してほしいと告げられる。「日通を外すつもりはない」との言質は取った。

 だが蓋を開けてみると引っ越し先30カ所のうち29カ所を他社に奪われていた。担当者に理由を尋ねると「他社と料金を比較した」との回答。顧客との関係を信じ切った慢心が招いた痛恨のミスだった。

 失敗の後に営業スタイルを変える出来事が起こる。海外引っ越し部門が07年から家財輸送に加え、査証や予防接種の手配など派生業務の販売も始めた。当初は本業の海外引っ越しの営業に注力すべきだと懐疑的だった。だが8歳下の後輩から「派生業務をやらなければ未来はない」と説かれ、目からうろこが落ちた。

 当時、海外引っ越し業界では渡航前後のサポートも含めた一括サービスを提供する仲介会社が台頭していた。査証の取得や保険の手配を引き受け、家財輸送は複数の運送会社に見積もりをかける。その結果、運送会社は価格競争に陥り収益を圧迫される。

 日通は40カ国以上に拠点を構え、海外でも日本語で引っ越しサービスを提供できる。その特長を生かすためにも、派生業務まで手掛けて顧客を支える仕組みが欠かせない。足しげく訪問する営業を基本としながら、顧客の要望に耳を傾けて解決策を提示する提案型の営業に進化させた。「年下の意見に耳を傾けたから成長できた」と振り返る。

 海外引っ越し部門は全従業員の1%程度の小所帯だが、営業利益の4~5%を稼ぎ出す高収益事業となった。大槻さんは現在、課長として15人のグループを率いる。手間がかかる派生業務の取り扱いを敬遠する部下もいるが、自らの経験も踏まえ重要性を説いている。「足と頭を使って顧客の懐に入れ」
(村松洋兵)

おおつき・てっぺい
 2002年日本通運入社、大阪内航海運支店に配属。04年東京の海外引越事業支店に異動。06年新規顧客を開拓する専任チームのメンバーに選ばれる。16年から課長。自動車や化学メーカーを担当する15人のチームを率いる。神奈川県出身。

[日経産業新聞2018年2月15日付、NIKKEI STYLEから転載]

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