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「縮んで稼ぐ」 小売り・外食の新常識

「縮んで稼ぐ」 小売り・外食の新常識

 店舗の拡大、営業時間の延長に血道を上げた外食・小売り。だが人手も足りないし、そんなマッチョなやり方はもう古い。時短でも店舗削減でも顧客の満足度は工夫次第でいくらでもアップする。自ら「縮む」ことで付加価値を生んだ実践マーケティングに迫った。

人手不足時代の「時短経営」

約230店のファミレスを運営するロイヤルホールディングスは2017年以降、約7割の店で営業時間を平均で1時間20分短縮した

 2月20日、東京・世田谷のファミレス「ロイヤルホスト桜新町店」を訪れた沖ツヤ子さん(70)は「ミート&グリーン ギャザリング・プラッター」を注文した。ヒレステーキにエビやチキンを合わせた商品で、価格は3002円と期間限定メニューで最も高い。

 「以前は2千円ぐらいまでだったけど、3千円のメニューも頼んでもいいと思えるようになった」。高級牛肉を使うなど料理の質はさることながら、沖さんが決め手としたのは、ゆったりとした店の空間だ。食後もコーヒーを頼んでのべ2時間ぐらい滞在するという。

 同店を含め約230店のファミレスを運営するロイヤルホールディングスは2017年以降、約7割の店で営業時間を平均で1時間20分短縮した。さらに24時間営業の店は17年1月までに完全に廃止。人手不足にも対応した働き方改革の一環で、黒須康宏社長は「年7億円の減収を覚悟した」と当時を振り返る。

 だが、ロイヤルホストの17年の既存店売上高は約6億円の増収と予想を大きく上回った。店の総営業時間は大きく減ったものの、高額メニューが支持されたことなどで客単価が16年に比べ3.7%上昇したからだ。

 営業時間を縮めるのに合わせ、同社は従来の運営を抜本的に見直した。最も稼ぎ時であるランチとディナーのピーク時間帯でも、客を目いっぱい座席に詰めない。2人客でも4人席に案内してゆったりと座ってもらう。売り上げを追うのではなく、「顧客一人ひとりの満足度を徹底して高める」(黒須社長)戦略へのシフトだ。

 狙いは当たった。それまでの期間限定メニューの売れ筋は2千円前後だった。徐々により高い商品が売れ始め、今月のフェアでは最も高い3千円超のメニューを注文する人も目立つという。

 営業時間の減少で客数の落ち込みが避けられなくなるなか、客の来店が少ない「アイドルタイム」と呼ぶ時間帯にも目を付けた。

 例えば午前10時から11時ごろに、子どもを送り終えた母親らが集まるのはカフェが主流。そこでオムレツやサラダセットなど軽食メニューを新たに提供し、交流の場として気軽に使ってもらうようにした。最近何度も訪れるという都内に住む30代の主婦は「ゆっくり落ち着いて会話できるのがいい」と話す。

 限られた時間だからこそ、消費者により価値を感じてもらいやすい。従来の拡大路線では見過ごしていた盲点ともいえる。黒須社長は「営業時間と客席の稼働率にこだわる時代ではなくなった」と強調する。

「30分遅く」で用意周到

 営業時間を縮め、稼ぐ力を高めたのは同社だけではない。2月中旬正午ごろ、食品スーパーのいなげやが運営する「いなげや入谷店」(東京・台東)の鮮魚売り場に、サーモンやブリなどの切り身魚がびっしりと並んでいた。売れてもすぐに従業員が次々と商品を補充していく。

 ピーク時間帯なのに商機を逃している――。実は1年ほど前まで同店では、来店客がどっと増える正午を過ぎると、「鮮魚売り場は商品の隙間が目立つことも多かった」接待範夫店長)。従業員は特売商品の陳列などを優先するため、カット作業など生鮮品の仕込みが十分に追いついていなかったのだ。

 そこで、いなげやは思い切った決断に出た。17年から同店の開店時間を午前9時から30分遅らせた。従業員の出社は午前8時と従来と変わらず、接客までの余裕が生まれた30分を有効活用した。

 まず青果の仕込みを済ませた後、午前9時半までに特売品をほぼ全て並べる。鮮魚や精肉も8割程度まで仕込みを終わらせる。開店して接客の仕事が増えても、余裕を持ってピーク時間帯までに補充品をそろえられるようにした。

 営業時間は30分減ったものの、入谷店の17年の売上高は前年を2%上回った。販売ロスが減ったことなどが要因だ。接待店長は「限られた人材をうまく活用し、さらに顧客の満足度を高めたい」と話す。いなげやは17年に計38店で営業時間を縮めたが、18年はさらに13店舗で開店時間を30分遅らせる。

 外食や小売りチェーンで営業時間を延長する動きが目立って広がったのは80年代から。だが、24時間営業のコンビニが急増し、ネット通販が普及した今、店を長く開けることで業績を伸ばすという方程式は成り立ちにくくなった。とりわけ、外食・小売業にとって深刻化する人手不足は大きな制約要因だ。

 リクルートジョブズ(東京・中央)の調べでは、首都圏・東海・関西の都市圏で1月のフード系の時給は前年同月比2.4%増の985円と過去最高水準が続く。特に早朝や深夜の時間帯はアルバイトの確保がままならず、一部では計画していた出店をとりやめる動きも出ている。

 ルミネはテナントの人手不足に対応し、17年4月から全15店のうち12店で営業時間を短縮した。マックスバリュ九州は17年12月から8店で24時間営業を中止。17年にグループ全約3000店舗の2割で営業時間を縮めたすかいらーくは、18年にさらに対象店舗を増やす考えだ。「縮んで稼ぐ」逆転の発想はより求められている。

店半減でも売り上げ2.6倍

売り場にはアルビオンのロングセラー商品「スキンコンディショナー」が並ぶ(東京都新宿区)

 JR新宿駅に直結する地下街に17年4月に改装オープンした化粧品店「エクス新宿」。約80平方メートルの小さな店で扱うブランドはアルビオンのみだが、客の列が連日途絶えない。18年2月期の売り上げは約2億円で、単位面積当たりで見ると全国の化粧品店でトップクラスを誇る。

 服飾関連の仕事をしている山田美雪さん(40)は「効果を実感できる品質と丁寧な接客」を魅力に感じ、月2万~3万円という化粧品の出費の大半がエクス新宿だ。同店を支えるのは山田さんのような熱心な会員約2000人。客単価は約1万2000円に達する。

 運営会社の坂巻商店(東京・目黒)は都内に3店を構える。新宿では76年に開き、資生堂やレブロンなど10以上のメーカーの商品を扱ってきた。アルビオンは取引先の1つにすぎなかったが、売り上げ構成比が上昇を続けたため、12年に店を移転したのを機に商品をアルビオンに絞った。

 坂巻正夫社長は「ブランド価値を伝えやすいアルビオンは、突出してリピート率が高かった」と説明する。移転に伴い売り場が縮小したため売り上げは減ったが、他メーカーの販売を止めたことで在庫は半減。エクス新宿のアルビオン取引開始後の営業利益は18年2月期に過去最高を見込む。

 売り上げ規模でいえば国内6~7番手のアルビオンが、全国の化粧品売り場で存在感を高めている。専門店と並ぶ主要販路の百貨店でも、16年度は全国20以上の有力百貨店で、化粧品のブランド別売り上げでトップとなった。

 秘密は「選択と集中」だ。商品は「アルビオン」「エレガンス」「イグニス」の3ブランドにほぼ特化。化粧品ブランドの数は資生堂の1~2割だが、国内最大の化粧品情報サイト「アットコスメ」では乳液などで規模で圧倒するライバルをしのぐ人気を集める。

 化粧品各社は消費者の嗜好の多様化に対応するため、コンビニや電子商取引などの新販路を開拓してきた。だがアルビオンの販路は百貨店と専門店のみでネット通販はしない。約1500という取扱店舗数は主要化粧品メーカーで最少だ。

 1990年代半ばまで同社は他メーカー同様、販路の拡大を通じて成長を目指す戦略をとってきた。創業家3代目の小林章一社長が戦略を一新。高級ブランドとしての希少性を高めるため、店舗と商品を絞る路線に転換した。

 ピーク時の96年に3300以上あった店舗は20年で半減。「アルビオン商品は他店にない価値を生み出す」として、販売へのインセンティブが高まった。年代別に細かく分けていたブランドを整理し商品点数も半減したことで、マーケティング投資の効率も改善。16年度の売上高は96年度比で2.6倍の630億円に伸びた。

 同社は売り上げ2億円以上の店を16年度の11から26年に100に増やす方針を掲げる。販路の絞り込みをさらに進め、店舗当たりの売り上げを引き上げる計画だ。流通チャネルや品ぞろえの多様化が主流の化粧品業界で、独自の成功モデルを打ち立てる。
(栗本優、松井基一、小田浩靖、松田崇)[日経MJ2018年2月26日付、日経電子版から転載]

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