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池上彰の大岡山通信 若者たちへ高校生ら米首都で行進―銃規制、勇気持ち訴え

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 高校生ら米首都で行進―銃規制、勇気持ち訴え
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 新年度を迎えました。今春から大学や高校へ通い始めたり、オフィス街で働き始めたり、新たな生活をスタートする若者たちも多いことでしょう。そこで今回は、米国から世界へ広がりつつある若者たちの勇気ある行動を取りあげます。

 「私たちの命のための行進」。3月下旬、米国の首都ワシントンで、高校生らが銃規制や学校の安全を訴えました。報道によればおよそ80万人が参加し、趣旨に賛同する草の根の運動は米国内のほか世界の主要都市にも広がりをみせました。

◇ ◇ ◇

 代表としてスピーチした女子生徒は、「誰かに任せる前に、命のために闘おう」と呼びかけました。行進の模様をニュースでご覧になった読者もいるでしょう。

 きっかけは2月にフロリダ州の高校で起きた銃乱射事件です。殺傷能力の高いライフル銃が凶器となり、17人が犠牲になりました。犯人も元生徒だったという痛ましい凶悪事件でした。

 私が注目したのは、この行進が追悼イベントだけではなく、安全な新しい社会づくりへの第一歩と感じた点です。大人に任せ切りにするのではなく、理想の実現へ行動を起こしたからです。

 では、「なぜ銃による犠牲者が後を絶たないのか」。日本で暮らしているとわかりにくいのですが、そもそも米国では憲法が国民の銃を持つ権利を認めています。個人が自らの安全や命は自分の手で守るという権利を貫いているのです。

 その結果、学校を舞台にした銃乱射事件が幾度も発生し、多くの学生や生徒が犠牲になったことも事実です。日本人留学生が亡くなる悲しい事件もありました。

 そのたびに銃の規制を訴える声が上がりました。米国には全米ライフル協会(NRA)という巨大組織があり、国民の銃を持つ権利を主張し、大統領や政治家にも強い影響力を持っています。残念ながら、根本的な銃規制が実現しなかった背景には、この団体の存在が大きかったといわざるを得ないでしょう。

 米国のトランプ大統領は、高校生らの行動をたたえながらも、銃規制には消極的です。フロリダでの事件後ですら、「教師に銃を持たせればよい」という趣旨の発言をしているほどです。

 これに対して米国の高校生らは静かに訴え、主張し始めたのです。そこからは、「安全に暮らし、学べる社会を実現してくれる政治家を選ぼう」という高校生たちの強い意志を感じます。

 米国では18歳から投票できます。今秋、連邦議会の中間選挙が行われ、2020年には大統領選挙があります。政治に無関心だった若者たちの投票率が上がれば、銃規制に消極的な政治家の当落に大きな影響を及ぼすかもしれません。

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 日本の高校生や大学生には、米国から広がり始めた「私たちの命のための行進」は、遠い世界の出来事に感じるでしょう。日本でも「18歳以上選挙権」の導入に続き、「成人の定義」を20歳から18歳に引き下げる議論が動き出しました。若者の役割が大きく期待されることでしょう。

 日本では来年、「平成」という時代が終わります。激動する国際社会のなかで日本はどこへ向かうのでしょうか。若者たちも日本の針路を選択することができます。新しい生活の節目を迎え、日本の将来にも思いをはせてみてください。
[日本経済新聞朝刊2018年4月2日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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