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20年後から見る職選び(8)情報社会で求められる能力とは
重要性増すインテリジェント・サービス

20年後から見る職選び(8) 情報社会で求められる能力とは重要性増すインテリジェント・サービス
authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者

 今回はインテリジェンス・サービスを取り上げます。何らかの形で「加工された情報」を提供するサービスです。業種としては、ボストン・コンサルティングなどの「(経営・戦略)コンサルティング業」などが当てはまります。

 「情報社会」と言われるようになって久しくなりました。それでも、近年における情報技術の進展は依然として著しく、その加速度も目を見張るほど高まっている状況にあります。クラウドコンピューティングを通した巨大なデータベースの分析が可能となり、日々様々な形で情報の加工・分析、それに基づいたサービスの提供がなされています。

情報の正誤を見分ける能力が大切に

 こうした情報市場の中で生き残っていこうとすれば、統計的知識は重要となります。この点については、今ではかなり多くの場面で指摘されるようになっており、書店のビジネス書のコーナーに行くと、統計入門のような本が多く置かれていますし、統計をめぐる資格や検定も注目されています。また、各種情報の間の関連性を分析する上では数量経済学的手法も重要になってきます。つまり、ビジネスや行政分野においては、数学の重要性はどんどん高まっています。

 その一方で、大量の情報が取得できるようになった反面、信憑性の薄い情報、そして間違った情報、ねつ造された情報も多く混入するようになりました。アメリカのトランプ大統領も、盛んに「フェイク・ニュース(虚偽の情報でつくられたニュース)」の問題性に関して言及しています。その主張の正当性は置いておくとしても、実際にSNSでは怪しい情報、故意に捻じ曲げられた情報が多いのは、皆さんも実感されているように確かな事実です。そうした中から、どの情報が正確なもので、どれが誤ったものであるか、また、どの情報が関連する他の情報よりも重要なのかを見分ける能力が、今後ますます求められていくことは確実です。

人間の行動を全て予測するAI開発は困難

 確かに、AI(人工知能)にその役割を期待することもできるでしょう。将棋もそうですが、一昔前までは絶対に人間には勝てないだろうといわれた囲碁の世界でさえ、AIがプロのトップ棋士を打ち負かすまでになりました。こうした現状に鑑みれば、今から10年、20年後には、今以上に極めて高い推論能力を持ち、人間と遜色のないAIが開発されている可能性は否定できません。

 しかしながら、囲碁は極めて複雑なゲームであるとはいえ、そのゲーム展開が無限大で、不規則であり予測不可能であるというわけではありません。ゲームとして勝つためのルールが明確である以上、その枠内で勝利するようにプログラミングすることは可能だと思われます。

 しかし、人間の行動においてはすべての状況において、様々な目的が設定され、しかもその達成方法も満足度も変わってきます。それはビジネス市場においても同様でしょう。利益追求ということでいればある程度の方向性は打ち出せるでしょうが、市場の成熟によって、単なる利益追求だけでは成功できなくなっているのも事実です。それをすべて勘案した上でのAIを開発するのは、たとえ10年、20年先とはいえ、まだまだ困難ではないでしょうか。

 ちなみに『ダビンチ・コード』で世界の注目を集め、小説家として世界のスターダムにのし上がったダン・ブラウンの最新作で、今書店の店頭に大々的に並べられている『オリジン』では、人間と全く遜色なく、むしろ人間よりも優れた推論を行うことができるAIがキープレイヤーの1人として登場します。この小説は宗教と科学の問題を取り扱ったものですが、この3月14日、奇しくも、同様に世界的に著名な科学者であるスティーブン・ホーキング博士が亡くなりました。

 ホーキング博士は若い時から筋萎縮症の難病を患いながら、宇宙論においてブラックホールの理論など、革命的な理論を発表し、「車椅子の天才」としてメディアにも盛んに取り上げられてきました。実は博士は、科学の可能性を論じる中で、「宇宙を語るのに神は不要である」といって宗教界からの反発を招いたことがあります。このことは、まさに『オリジン』の内容と重なるものであり、両者のタイミングが重なった偶然性に驚いています。こうした関連性も、AIには、なかなか客観的に予測できるものではないでしょう。

文字化できる情報は全体の1割

 また、AIやクラウドコンピューティングにおける情報分析においては、文書やSNSなどへの書き込みなど、何らかの形で目に見えるような形で記録として残されたものが対象となります。しかし、実際には「文字化」「音声化」されなくても重要な情報は極めて多く存在します。むしろ、その方が重要である場合が多いといえるでしょう。たとえば密室での非公式な会合における情報伝達や、表情や声音、ボディランゲージなどによる非言語的コミュニケーションです。それに、コミュニケーション学では、文字化できる情報はコミュニケーション全体の1割程度とされています。

 価値の高い重要な情報はむしろ公開されないのが通例であり、だからこそ貴重なビジネス・シーズとなりのです。こうした情報をどのような人脈によって、どのような会話によって引き出し、取得できるかの手腕こそが、今後の情報社会で求められているのです。

「人間力がものを言う」経験と判断力

 先日、世界有数の調査会社である英IHSマークイットのランス・ウグラ最高経営責任者(CEO)は、日本経済新聞のインタビューにおいて「AIは我々の専門家が深く幅広い情報を素早く提供することに役立ちはするが、彼らの経験に置き換えることはできない」と応えています(2018年3月8日付日本経済新聞)。まさに「人間力がものを言う」と言っているのです。

 つまり、情報化が進めば進むほど、逆に人間としての幅広い経験と判断力が求められます。一方、情報化の進展は、それらの能力を高める上で支障となるような生活の個別化、人間関係の希薄化をも進めます。だからこそ、これからの情報インテリジェント・サービスは、あえて多額の投資を行わずとも、地道な努力によって付加価値が得られる余地が高い有望分野なのです。