経営者デビューのチャンスは、人生に4度やって来る!
経営者JP社長 井上和幸

「人生100年時代」を迎え、経営者になる世代の幅も大きく広がっています。10歳代の学生時代に起業したり、一度リタイアした人たちが新たなチャレンジとして会社を立ち上げるケースも相次いでいます。大企業では社長は60歳代からが定番でしたが、トップ層の大胆な若返り人事を実施する会社が増えました。筆者は「経営者デビューのチャンスは人生で4度ある」と考えています。どんなタイミングでしょうか。
若返り目立つ大手のトップ人事
1月に日本たばこ産業(JT)の社長に就任した寺畠正道氏。昨年暮れに人事が固まったときは51歳でした。これは1985年の民営化後、最年少の社長になるとのことで、企業ニュースをにわかににぎわせました。続いて2月に、積水ハウスの社長になった仲井嘉浩氏は52歳。66歳の阿部俊則社長から、14歳若返りの経営バトンです。ヤフーは1月24日、50歳の宮坂学社長の後任に、43歳の川辺健太郎副社長が就任する人事を発表しました。
こうした「若手役員の社長抜てき」話は、今後確実に増えてくると思います。しかし一方で、このトップ人事自体がトピックスになるくらい、まだまだこうしたケースが日本企業において少数派であることもまた、事実です。
世界平均より「8歳高齢」の新任CEO

そもそも、日系の大手企業においては社長に就任する年齢はおおむね50歳代半ばから60歳すぎであるのが一般的です。30歳代での社長就任はほとんどあり得ず、40歳代でも驚きをもって受け止められるのが普通でしょう。若い世代の社長就任は、外資系企業やリクルートなどの一部企業、あるいは創業ベンチャーを除いてはいまだにあまり例がありません。
米国のコンサルティング会社、ストラテジーアンドが世界の上場企業における時価総額上位2500社を対象にした「第17回CEO承継調査」(17年5月発表)によると、新任CEO(最高経営責任者)の平均年齢は53歳。日本はこれより8歳高い61歳で、国・地域別では最高齢でした。世界とはまだまだ差があるといえるでしょう。
とはいえ、私はこの15年ほど、エグゼクティブ人材市場を追いかけてきて、若い世代が社長に就く傾向と事実は確実に増えていることを実感しています。
起業型経営者に関しては、若い世代のアントレプレナーが次々と生まれ、最近は高校生どころか、中学生起業家も現れて話題になっています。起業はまだまだ増えていくでしょうし、その会社の後任社長の就任年齢も若くなるケースも増えるでしょう。
60~70代から経営者デビューするイマドキのシニア
もちろん、今後すべての経営陣が若くなっていく、また、若い経営者でなければダメなのかといえば、それは違います。「人生100年時代」で現役として就労する期間が長くなるにつれて、やりがいや自己実現、経済的理由などから、経験と年齢を積んだ上で会社を創業する、あるいは、後継社長として着任するケースもまた増えていく予兆が見えています。
例えば、高齢になってからの創業では、旧住友銀行(現三井住友銀行)副頭取の吉田博一さんのチャレンジがよく知られています。吉田さんは、三井住友銀リース(現三井住友ファイナンス&リース)の社長、会長を経て、2006年、69歳のときに環境問題への情熱から大型リチウムイオン電池の会社、エリーパワーを設立しました。わずか4人で始めた会社でしたが、古巣の銀行を頼ることなく、同社を330人超(17年9月1日時点)の規模にまで育て上げ、80歳になられた今もますます意気軒高のご様子です。本当に魅力的で、パワフルな方だと思います。(関連記事「『2度目の起業も』 79歳の元住銀副頭取、夢に挑む 」参照)
また、この原稿を書いている少し前のことですが、私はある40代の前半のエグゼクティブの方の転職をお手伝いしました。お話を聞いてみると、今回転職を思い立ったきっかけは、お父さまが退職された後に70歳で自ら開業されたことだというのです。高齢のお父上の行動に刺激を受けて、働き盛りのシニア世代の息子さんが「大きくチャレンジしたい」と転職を思い立つ。この構図はとても面白いし、現代的だと思いました。
人生100年時代と経営者になる世代の広がり
私がここで何を言いたいかというと、「今、人生において経営者になるチャンスとタイミングの世代がとても広がっていますよ」ということです。
経営者になるというと、とかく「若返り」に注目が集まりがちです。冒頭にご紹介したように、大手のトップ人事が大きく若返りとなったとか、20代起業家、最年少上場社長、あるいは高校生、中学生での起業――これからの時代、60歳以上の社長は老害だから辞めよ、40歳代以下にバトンを渡す時代だ、などなど。
もちろん団塊の世代、あるいはその後のバブル世代、そしてそろそろ団塊ジュニア世代すらもが40歳代に入り、企業組織においての「重たい世代」、下の世代のキャップになってしまっている部分もあり、大手企業を中心にそれが若手~中堅世代のキャリアの足かせになっているケースもあります。
しかし一方で、先にご紹介したようなアクティブシニア世代が、価値ある事業を創出したり、新たなチャレンジをしたりすることで活力を生むケースも増えてきています。要するに、10代、20代デビューもあれば、30代も40代も、そして、80代デビューもあり得る。そんな時代になっています。
具体的なデビューの「節目」としては、大きく人生に4回巡ってきます。学生の頃からの着想を得て起業する「~20歳デビュー」、社会人経験をしながら枠にとらわれない発想で起業する、あるいは知人・友人・先輩の会社の経営に参画する「~40歳デビュー」、十分なビジネス経験・事業経験と実績を上げたことが認められ抜てきされる「~60歳デビュー」、そして、第2の人生のチャレンジとして経験や社会貢献的な思いを生かしてビジネスを興す「~80歳デビュー」です。
高齢化に寄っている訳でもなく、若手にだけ寄せている訳でもない、世代の広がり傾向にこそ、今後の時代の可能性を感じるのです。
エンプロイアビリティーを高める「経営者の5つの力」
自分の話をさせていただけば、私は大学卒業後にリクルートに入社した後、30歳過ぎにベンチャーの人材コンサルティング会社に転職、取締役になりました。4年後、30歳代半ばをすぎて、出戻り的にリクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)に入社し現場のコンサルタントから事業企画室長、マネージングディレクターを経て、40歳代前半で経営者JPを設立。社長兼CEOとして現在に至ります。
とはいえ、若い頃から「将来は経営者としてやっていこう」と明確に考えていたわけではありません。ただ、リクルートのような社風の会社を選んだこともあって、定年まで会社に身を預けたまま過ごす生き方は非常にリスクが高いとは思っていました。
世の中はどんどん変わっていくだろうし、良くも悪くも何かあったときに積極的にチャンスをコントロールできるようにする、今風に言えば、エンプロイアビリティー(雇用可能性)を高めることを強く意識していました。会社の看板がなくなったときに何をしても自力で稼げる、そして、自分で商売をしてキャッシュを持ってこられる人になれば、リスクを最も下げることになると思っていたのです。
ですから、今はおかげさまで個人としての不安はありません。会社をきちんと成り立たせ、成長発展させ続け、従業員を守るという責任はありますが、仮に今後、会社を乗っ取られ、裸で放り出されたとしても(笑)、何とかなるさ(自ら、なにがしかでそれなり以上にはまた稼げるという)という自信があります。
それも20歳代から30歳代にかけて、後付けの分析にはなりますが、「描く力(構想力)」「決める力(決断力)」「やり切る力(遂行力)」「まとめる力(リーダーシップ力)」「学び続ける力(学習力・習慣化力)」を磨いてきたからなのだと思います。ここに挙げた5つを、私は「経営者力の5つのチカラ」と呼んでおり、これらを順次身につけてきた方が、結果として経営者やリーダーとして活躍されている人たちの共通項となっていることを発見しました。
実際に起業する、あるいは、社長になるかどうかは別として、いつどのようなときにおいても「自分の足で立てる」仕事力を身につけようという意識を持って働くことが、これからのすべてのビジネスマンにとって「人生100年時代のキャリアデザインやリスクマネジメント」になるでしょう。
その上で、20歳代で起業してもよいし、40歳代で社長デビューしてもよい。そこまでで上に立てなかったら終わりかといえば、全くそのようなことはありません。60歳代でも、今後は80歳代に至ってからでも、チャンスは続くのです。
「長い人生、常に前進」という気概を持ち日々を楽しみながらチャレンジし続ければ、デビューの日はいつまでも続くのが、これからの「人生100年時代」なのです。
経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。
[NIKKEI STYLE 2018年3月3日付]
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