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池上彰の大岡山通信 若者たちへ昭和史を学ぶ意義―現代社会の理解に役立つ

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 昭和史を学ぶ意義―現代社会の理解に役立つ
東工大提供
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 東京工業大学の現役の学生や卒業生と定期的に開いている読書会で、3月に取り上げた書籍は半藤一利さんの『世界史のなかの昭和史』(平凡社)でした。

 歴史が苦手、とりわけ近現代の日本史を学ぶ機会がなくて......と嘆く参加者にどんな本がいいか考えたからです。
この本は、大正から昭和へ、そして現代へという日本史を、ヒトラーやスターリン時代の世界史の中に置いて考察しようという野心作です。

◇ ◇ ◇

 いまの若い人たちが日本の近現代史をどう受け止めたか、参加者の感想を紹介しましょう。

 A君 第2次世界大戦に日本を導いた「指導者(主役)」は誰だったのだろうか。著者は、ソ連はスターリン、ドイツはヒトラーの「巨悪」を巨頭たる指導者として説明する。翻って日本は、時の指導者が戦略性を持って大戦に進んでいったわけではなく、その時々の出来事に対して、政府の各部門が場当たり的に、その場が支配する空気に従って行動していた。戦略を持ち実行できる指導者を欠き、転げ落ちるように第2次大戦に突入していく様子には、やるせない気持ちになるが、まさに教訓になる。

池上教授(中央)と教え子らは読書会を開き現代社会への理解を深めている(3月)=東工大提供

 Bさん 「時代の節目というものは、その規模が大きすぎるとき、渦中にあるものにはなかなか気づかない」という一節を読みながら、昨今の米国や北朝鮮や中国のニュースが、50年後、100年後に時代の節目であったと反省されるのかもしれないと頭をよぎりました。過去の成功や失敗、そのときの国際情勢や国民感情、独裁者となる者がとった手口を詳しく学び、高い視座に腰を据えていきたいと思います。

 C君 本書で特に興味深かったのは、満州事変に対する日本人の見解について書かれた一節です。当時の民草(たみくさ)から見た新聞の報道を想像すると、これが「偉業」と見えたということが納得でき、その権益を認めない米英への反発心を抱くことも自然に思えました。満州事変→日中戦争→太平洋戦争という流れを推し進めた「力」の所在を、しっかりと可視化してくれる本でした。

 Dさん 日本はいつもバスに乗り遅れまいと後追いの政策ばかりだという話がありました。個人的には、日本がバスをゼロから作って他の人を乗せるほどのリーダーシップを取る必要は無いと思っていますが、バスに乗るか別の方法を取るか決める必要はあると思います。何だかよくわからないがとりあえず飛び乗る、という選択は取らないようにしたいです。

 E君 日本は「バスを作っていない」という発言は上手(うま)いと思いました。「バスを作る」とは、自ら目標とプロセスを定め、実行においては、周囲を巻き込み、機会を創出することでしょうか。現在の日本が相変わらず目標もプロセスも作るのが下手というのは同意するところです。

 F君 今のニュースに関心があればあるほど、歴史は面白く学び甲斐のあるものになるのだという認識を強くしました。たとえば、関税の掛け合いという現状と似た過去もあり、そこから戦争につながっていたという歴史がありました。今の事態の理解並びに予測する際に歴史は有用な手段です。

◇ ◇ ◇

 みんな歴史を学ぶ意味をしっかり受け止めてくれたようです。これぞ読書会を開く醍醐味です。

[日本経済新聞朝刊2018年4月16日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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