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朝型勤務、諦めず意識改革 伊藤忠の垣見氏

朝型勤務、諦めず意識改革 伊藤忠の垣見氏
「脱スーツ・デー」の社内発表会

 伊藤忠商事は朝型勤務や毎週金曜日にカジュアルな服装を推奨する「脱スーツ・デー」を導入するなど働き方改革を進めている。働き方の価値観から変える改革には社内の抵抗も大きかった。その中で改革を指揮した一人が垣見俊之(51)だ。

かきみ・としゆき 1990年慶大経済卒、伊藤忠商事入社。東京本社人事部、米ニューヨークの伊藤忠インターナショナル勤務などを経て2016年4月から現職。愛知県出身。

 朝型勤務制度を始めたのは2013年10月。午後8時から午後10時までの勤務は原則禁止、午後10時から翌日午前5時までの勤務を禁止とした。逆に午前5時~午前8時は深夜勤務と同じように手当が付くようにし、さらに午前8時までに出社した社員には軽食も無料で提供している。

 朝型勤務は岡藤正広社長のトップダウンで導入。「非生産的な仕事をだらだらしているから残業してしまう。出張の報告書や精算書をすぐに提出せず、取引先を訪れるのが遅れ、さらにやり残した仕事がたまっていくという悪循環だ」と、かねて社員の働き方に疑問を持っていた岡藤社長が改革を実行した。ただ社内では「とんでもない逆風が起きた」と垣見は振り返る。

 「人事は現場を何も分かっていない」「やりたくて残業しているわけではない。会社のためだ」「客からのクレームの責任をとれるのか」。朝型勤務への反発は強かった。商社といえば「遅くまで残業は当たり前、飲み会は深夜まで」という「猛烈社員像」ができあがっていた。こうした価値観を根底から変える改革。「意識改革は反対があって当たり前、ひるんではだめだ」と諦めなかった。

 朝型勤務を導入してから、垣見たち人事部のメンバーは毎日午後8時になると本社の各部署の部屋を回り、残業している社員に退社を促した。残っている社員の名前や人数のチェックを3カ月間根気強く続けた結果、社員の意識は少しずつ変わり始めた。

朝型勤務の導入で午前8時まで無料で朝食を配布している

 導入から1カ月ほどたったある日、エレベーターで鉢合わせした社員から「意外に朝型もいいな」と話しかけられた。「残業を削減するのが目的ではなく、朝型に移行することで効率を上げることが狙いだった」。だらだらと残業して深夜に飲みに行く生活から、朝型に変えることで仕事の効率が上がったと実感する社員が増えていった。

 その後も深夜勤務の解消につなげようと社内の飲み会のルールを決め、1次会までで午後10時には終了するという「110運動」を進めた。2次会に参加しても罰則があるわけではないが、帰宅途中で会社の資料などを紛失した場合の罰則を強化している。

 一連の施策の導入で、3年後には午後8時以降に残業をする社員は、交代で24時間体制で働く部署を除きゼロとなった。午前8時より前に出勤する社員は全体の半数近くに上る。電力使用量は約6%減、温暖化ガス排出量約7%減、タクシー代約30%減などの効果が出た。午前8時より前の出勤には手当を付けるが、結果的に残業手当は導入前よりも約10%減っている。

 働き方改革の手は緩めない。17年6月からは毎週金曜日にカジュアルな服装を社員に奨励する「脱スーツ・デー」を推進。岡藤社長は「単に楽な格好で仕事をしようというものではない。金曜日の服装をどうしようかと考えたり、お客様や周りの人の反応を見たりすること自体が、何事にも積極的に関心を持ち柔軟な発想力を養うことにつながる」と社員に呼びかけている。普段と違う服装で刺激を与えることで、斬新な仕事のアイデアを生み出しやすい環境をつくるのが狙いだ。

 社員のがん予防・治療の強化にも乗り出した。40歳以上の社員は専門的な検診を5年ごとに無償で受けられる。高額治療費がかかる高度先進医療も会社が全額負担する。正社員約4300人を対象に、4月から本格的に始める計画だ。主な施策は(1)がん検診の義務化(2)高度先進医療の無料化(3)相談体制の拡充(4)教育支援の拡充――の4つ。「国民病」を克服し社員の健康を維持することは企業にとっての重要課題。支援体制を確立し働く環境整備を進めていく。

 働き方改革は新しい企業像の構築にもつながっている。ここ数年で就職活動中の学生の見方も変わってきた。以前は内定を出してもライバル商社に流れることも多かったが「最近は伊藤忠を第1志望とする学生が増えている」。

 以前は商社というと激務のイメージが定着しており、商社に対する就職活動中の学生の両親の印象は良いものばかりではなかったが、ここでも見方は変わってきたという。意識改革は簡単なものではないが、垣見は「環境を整備して、とにかく諦めずやり続ければ改革は可能だ」と自信をみせる。=敬称略
(企業報道部 松田直樹)[日経産業新聞 2018年3月20日付、日経電子版から転載]

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