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「異色」の経産官僚への道は 海外大にも門戸開放

「異色」の経産官僚への道は 海外大にも門戸開放

 霞が関のキャリア官僚といえば、東京大学など難関大学の学生が目指すエリートというイメージが強かった。ただ、官僚批判もあり、人気が下がるなか、報酬が高い外資系企業などを選ぶ人が目立つ。その中で「霞が関の異色の存在」と言われる経済産業省は新たな人材発掘を模索している。同省で研修・採用を担当する大臣官房秘書課の神田啓史課長補佐は「経産省は、国家経営でアクセルの役割を担う」と強調する。変革を担う省庁を自任する経産省が求める人物像を聞いた。

経産省は霞が関の「アクセル」

 ――経産省が求める人物像とは。

 「大きく分けて3つあります。1つは『パッション(情熱)』です。経産省は、霞が関のなかでもユニークで、世の中を変えていく役割を担う役所です。私はよく国家経営をクルマにたとえて『ブレーキなきクルマは事故しか起こさない。アクセルなきクルマは動かない』と話します。アクセルもブレーキも必要で、経産省はアクセルの役割です。何かをしてやろうという気持ちがなければ、どうにもならない省庁です」

 「2つ目は『論理的に考える力』です。情熱だけで世の中が変わるなら、こんなに楽なことはない。行政官たるもの、なぜこの政策をとるのか、今なぜやるべきなのか、国民に説明する責任があります。そのためには論理的に理解し、話せる力が必要です」

 「3つ目は『人間力』です。私たちと他省庁との大きな違いは、分かりやすい事業領域や莫大な予算ではなく、世の中のモメンタム(勢い)を生み出す役割を担っているところです。そのため、他の省庁や企業など、外部の関係者との仕事が多い。彼らは『自分たちと一緒に汗をかいてくれるか』『口先だけの役人じゃないか』と、私たちをみています。外部の人たちとしっかりした信頼関係をつくらなければ、本音も聞けず、結果として現場を分かっていない政策になりかねません。現場を知るには、人間力が必要です」

 ――新卒の採用はどういう流れですか。

 「どの省庁も共通で総合職と一般職にわかれています。教養などを問う基礎能力試験、専門試験などがあり、この合格者が討議試験や面接などの2次試験に進みます。ここまでが純粋な試験で、人事院が一括で実施します。この試験に合格した人が、業務説明や実質的な面接である『官庁訪問』に進みます。2018年は、総合職が7月4日から、一般職大卒程度は8月22日からです」

官庁訪問、「文化」への適性に注目

経済産業省大臣官房秘書課の神田啓史課長補佐は官庁訪問で「リアルな職場体験を楽しんでほしい」と話す

 ――「官庁訪問」はどういうものですか。

 「省庁によって違います。経産省の場合、面接というより政策論議の場だと思ってほしいですね。やり方は、基本的に現場の職員に委ねられています。『お題は何でもいい。あなたの関心があることは何か』と政策論議をふっかける人もいますし、『今一番力を入れていること』を問う人もいます。官庁訪問は、実質的に採用・不採用を左右する場ではありますが、できればそれは横におき、リアルな職場体験を楽しんでほしいです」

 「『変なことはいえないな』という学生の気持ちもわかります。しかし、15分や20分は取り繕えるかもしれませんが、1時間、2時間を超える議論では無理です。だから包み隠さず、自分を出した方がいい。最終的に内々定を得た学生たちは、この議論が楽しかったといいます。つまり組織の文化に適性があるということなんです。逆に『何かを変えようとする文化』や『議論』を好まない人もいます。いい悪いではなく、適性なんです」

新卒の秋採用、中途採用にも力

 ――今の採用制度にはどんな課題がありますか。

 「以前は、公務員試験は春のみでした。そのため、海外大学に留学中の人は卒業が半年ずれるので、春の試験を受けられません。そこで2012年度から秋の教養区分の試験(秋に筆記試験、冬に官庁訪問)を始めました。この制度を作るよう働きかけたのも経産省でした。実際、経産省には、海外の大学を卒業した人もいます。就活イベントの『ボストンキャリアフォーラム』に参加しているほか、シンガポールやロンドンでも説明会を開いています」

 「今の試験制度には古いところもあります。確かに一定の知識は必要ですが、答えのある『試験対策』に照準が偏ってきた歴史があると感じています。できれば合格者を増やす試験にしてほしいと人事院に働きかけています。仕事の能力と『学力』はまったく違います。試験の順位がよくないと経産省には入れないのでは、といわれることもありますが、まったく関係ありません。私たちは実際に会い、どんな人物かを見ることに重きを置きたいですね」

変革へのアクセル役を自任する経済産業省(東京都千代田区霞が関)

 ――中途採用も強化しています。

 「人事院が共通で実施している『経験者採用』と、経産省の独自の採用があります。人事院の方は、新卒と同じような筆記試験や官庁訪問という流れです。試験に合格すれば、年齢の制限はありません。経産省独自の採用は小論文と面接です。求めているのは即戦力人材や専門人材なので、これまで何をしてきたか、その人のキャリアや専門性がもっとも重要です」

官庁も働き方改革 「有事のときは国民優先」

 ――働き方改革が日本の課題になっています。一方、官僚には激務のイメージがあります。

 「ふだんの働き方はずいぶん変わりました。小さな例ですが、昔は審議会に出す資料を何百部も印刷し、誤字が見つかればやり直しでした。夜通しコピー機の前に立って印刷なんてこともありました。しかし、今ではみんなタブレット端末を持っています。ネットワークがあればどこでも仕事ができる。これはトップの意識が大きいですね。世耕弘成大臣への説明もすべてタブレットですし、紙を使うと怒られます(笑)」

 「大きな災害が発生したときなど有事の際は、働き方改革よりも公務が優先になることは忘れないでほしいです。後ろに誰かがいるわけじゃない。何か起きたら、自分が土俵際で踏ん張るという世界で働いている。そういう意識を持つのが、公務員の最も大事な資質です」

 ――官僚批判が高まるなど人気が下がり、外資系企業や商社、新興IT企業などを目指す難関大の学生も多いです。実際、入省する学生はどうですか。

 「給与などの待遇面を比べれば、外資系企業や商社の方がよほどいいでしょう。しかし、特に総合職の場合、就活の人気ランキングで上位にくる大手外資系コンサルティングファームなどの内定を蹴って経産省にきてくれる学生もいます。彼らには、人生をかけて自分の力をこの国にささげたいという思いがあります。売り手市場でもあり、ベンチャー企業も含め、職業選択の幅が広がっています。そんな時期だからこそ、昔以上にピュアな思いの人が多いなという印象ですね」
(松本千恵)[NIKKEI STYLE 2018年3月14日付]

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