日本経済新聞 関連サイト

OK
liberal arts-大学生の常識

20年後から見る職選び(9)Uターン・Iターン就活生へ
地方創生担う林業に注目を

20年後から見る職選び(9) Uターン・Iターン就活生へ地方創生担う林業に注目を
authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者

 人気作家の三浦しをんさんの小説、『神去なあなあ日常』は、都会育ちの若者があるきっかけで林業に従事することになり、人間的成長を遂げていく物語です。ベストセラーになり、映画化もされました。このように、林業に若者が魅力を感じ、身を投じるということは、最近ではそれほど珍しいとは言えなくなってきました。受け入れる側の自治体も林業において積極的に外部からの誘致を図り、人材の育成に乗り出していることもあります。

 日本の国土の約7割(66-67%)は森林です。そしてその割合は過去40年間ほぼ変わりがありません。これほど森林の割合が高い国は世界にもそうそうありません。日本は森林大国として、その資源を大切に管理、保全しながら、それを有効に活用していくことが重要です。

「伸びしろ」が非常に大きい木材

 森林の保水機能によって、膨大な雨水が吸収され、周囲の田畑に安定的に水が供給されます。農業の今後の重要性については、すでにこの連載で取り上げました。農業と林業は切っても切り離せない関係にあるといえます。両者がともにうまく機能することが、地方の自然・経済の持続性を保つことになります。

 地方創生においては、何よりもその地域の固有資源を活かすことが必要です。森林のような自然資源はその最たるものでしょう。

 木材の国内需給率はこのところ連続して上昇しており、平成28年は34.8%となっています。とはいえ外国からの輸入が過半を占めていることも確かです。日本の木材はその品質の高さに定評もあり、本当によいものを求める指向性の高まりから、輸入材と比較して高価格であっても、その付加価値は十分に消費者に理解されるところであり、今後の「伸びしろ」は非常に大きいと考えられます。事実、木材は温かみのある建築素材として住宅建設において人気が高まっています。

 住宅資材以外にも、家具など、各種木工製品に対する需要もあります。芸術とのコラボレーションも考えられます。少しでも品質の優れた木材を生産することは芸術ともつながることです。そのためには、農業と同様、科学的な管理が必要となってくるでしょう。最先端の技術が要求される繊細な産業となっていくことは間違いありません。

 その分、投資も求められるでしょうが、国策としてそれを支える体制づくりも同時に進めることによって、少しでもこの分野がスムーズに発展していくよう、社会として支えていかなければなりません。それに質の追求は日本人が最も力を発揮できる領域です。

Uターン・Iターン希望者の重要な就職口に

 そして、林業の振興は、農業ともに、生活の質の教条を求め、地方へのUターン、Iターンを希望する者にとって最も重要な就職口を提供することになります。Uターン、Iターン希望者にとって、最大のネックになることは、そこに就職口を見つけることが困難であることです。今後、この問題を解決しうる可能性が最も高いのが林業です。そして、今すでにある資源を活かすことができるということでは、農業よりも起業時の投資も少なくて済むでしょう。

 林業は、公共性の高い事業であることも見逃せません。光合成による酸素の最大限の発生源である森林は、人間の生存にとってなくてはならないものです。周辺の発展途上国では、輸出によって当面の生き残りのための利益を得ようと、深く将来に思考を巡らせることなく、自国に存在する資源である森林の違法伐採や乱開発が進められています。

 こうした刹那的な生き残りを求めようとする姿勢に対して、日本は先進国として持続的な森林の開発と保全のバランスの見本を示していかなければなりません。その意味において、林業に携わり、その理想的なあり方を追求していくことは、社会的に、そして自分のこの世における存在感を確かめるためにも、大いにやりがいのある仕事と言えましょう。

 また、地域を自然災害から守るということにもつながります。最近はゲリラ豪雨の発生など、これまでとは気象現象が違ってきています。そのような中で森林が適切に管理されず、過剰な伐採が続けば、山地における保水能力がなくなり、土砂崩れが起きやすくなります。実際、近年は土砂崩れによって大きな被害を受けるという事例が「頻繁」に報告されるようになってしまいました。

需要が絶対的に衰えない数少ない産業

 さらには花粉症の問題もあります。春先になると、極めて多くの人々が花粉症に悩まされることになりますが、これも森林が適切に管理されていないためだという見解があります。「現代病」といえるかどうか定かではありません。しかし、花粉症は現在、大きな経済的・社会的損失をもたらしていることは確かです。花粉症による経済損失は5000億円にものぼるという試算もあります。

 花粉症にかかっていれば確実に仕事の効率は低下するでしょう。花粉症のために運転中にくしゃみをした結果が交通事故につながり、そのドライバーに責任が認められたケースも出ています。花粉症の問題を根本から解決するためには、日本の林業の在り方が決定的な役割を担うのです。もちろん、その一方で製薬産業にとっては、花粉治療、対策のための薬を開発・販売することで大きな利益を得ることができる重要なマーケットであることも事実なのですが。

 適切な伐採を行うことは、森林全体の健全な成長にもつながります。自然を保全するということは、人間の手を全く入れないということではないのです。むしろ人間が適切に自然に介入していくことは、時に自然にとっても利益となるのです。森林内の日射量を調整することで、次代の森林が健全に育つようにできます。

 このように、林業は、地方創生の切り札ともなるものであり、公共性も高く、やりがいのある、しかもその需要は絶対的に衰えない数少ない産業といえるでしょう。是非、林業についても興味をもって、将来の就職先として研究してみてください。