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お悩み解決!就活探偵団2019進撃の「学生詣で」 企業が地方大学に熱視線

お悩み解決!就活探偵団2019 進撃の「学生詣で」 企業が地方大学に熱視線
authored by 就活探偵団'19

 地方学生は就職活動に不利――。そんな定説がくつがえりそうだ。首都圏の企業が地方学生に猛烈にアプローチしている。「学生詣で」で優秀な人材に目を付け、あの手この手で口説き落とすのだ。売り手市場を背景に、ネットを使った説明会や選考が広がっていることも地方採用に拍車をかけている。

イラスト=強矢さつき

 「チャンスかもしれない」。大分県別府市の山あいに立地する立命館アジア太平洋大学。4年生の渡辺咲紀さん(仮名)は、合同企業説明会の告知に胸を躍らせた。

 志望しているのは首都圏の企業。インターンシップや面接のたびに鉄道と飛行機を乗り継ぎ、半日がかりで上京する。実家は愛知県。都内に頼れる友人や親戚はおらず、交通費や宿泊費はかさむばかりだ。渡辺さんはすでに30万円ほど就活につぎ込んでおり、「これ以上はお金がかけられない」という思いが強まっていた。

 大学の近くで開催された合説には、都内などから企業6社が参加。人事担当者が会社紹介をした後、参加学生によるグループディスカッションが開かれた。渡辺さんのグループには外国人留学生もいたが、得意の英語で議論をまとめ上げた。その様子を見た4社の人事担当者から面談を受けた。

 そのうちの1社、訪日客など向けにハイヤーを運行するアウテック(東京・品川)から後日「ぜひ最終面接に来てほしい」と声をかけられた。

 指定された面接日には所要があったが、相談するとアウテック側は日程変更を快諾し、渡辺さんの都合がいい週末に担当者が休日出勤して面接してくれることになった。こうして渡辺さんは内定を獲得したが、様々な配慮に感激したという。

 アウテックは学生に英語力を求めていた。もちろん首都圏の学生にも人材は多いが、大手志向が強まり、「リクナビやマイナビなどの情報サイトに広告を出しても、なかなか学生が集まらなかった」という。そこで採用支援のグローアップ(東京・新宿)を通じて地方の合説に参加したのだ。

 立命館アジア太平洋大は学生の半分が外国人留学生で、日常的に英語が飛び交う。しかも「地方学生の多くは運転免許を持っている」こともアウテックにはプラス材料だった。同社は業務上、運転免許は必須だが、首都圏では最近は持っていない学生も多いためだ。

全国行脚でスカウト

 電子機器や放送用機器などを手掛ける日放電子(東京・千代田)も地方大学に注目している。「地方には旧帝国大学もある。中には東京大学や京都大学に行ける能力がありながら、事情があって地元国公立大に進学した優秀な学生も多い」。人事担当の藤田欣也さんはこう狙いを明かす。

 藤田さんは1人で全国各地を飛び回っている。学生が訪れやすいように大学の近くにある貸会議室を借り、説明会を開催。その場で適性検査や筆記試験も実施する。

 そして、これはという人材が見つかった場合は、同社の川崎市の拠点に呼び寄せ、社長面接を受けてもらう。面接はこの1回のみだ。学生が首都圏での宿泊先に困っている場合は社員寮を提供するなど支援は惜しまない。こうして18年春入社では地方学生を中心に10人を採用。今年は倍以上の「20~25人程度を確保したい」と強気だ。

立命館アジア太平洋大学で開かれた合同説明会(大分県別府市)

 新卒採用支援のサポーターズ(東京・渋谷)の調査によると、関東地方の学生が就活にかける費用(交通費、飲食費、リクルートスーツなど)は平均12万円台だったのに対し、地方の学生は18万円台と約6万円も高い。

 地方大学は大学の数も限られるため、首都圏のように、他大学の学生との交流から情報を得るような機会も少ない。

 一方で、企業の採用意欲は強まっている。リクルートホールディングスの調査によると、19年卒向けに「採用を増やす」と答えた企業数は15.8%。18年卒向けに比べて2.3ポイント上昇している。

 大手企業も地方開拓に動く。三井物産は2019年卒学生の採用から、これまで東京のみだった選考を大阪や札幌など全国5都市でも実施する。「首都圏の大学出身者が多かったが、地方からも採用して人材の多様化につなげる」狙いだ。地方大学向けの企業説明会やインターンも重ねている。この結果、三井物産の今年のエントリーシート提出者のうち地方学生の割合は前年比で数十%は増えたという。

 ヤフーも福岡市と大阪市に開発拠点を立ち上げ、地方在住の学生をターゲットにエンジニアを発掘しようと動いている。

ネットで合説参加

マイナビの合同説明会「マイナビWEB就職EXPO」はパソコンで視聴可能に

 ネットを使った就活がますます普及していることも、企業や学生の動きを下支えしている。その代表例が、3月1日の採用広報解禁日に開かれた「マイナビWEB就職EXPO」。いわば合説のネット版だ。

 首都圏での大規模な合説には、地方から夜行バスや新幹線に乗って参加する学生も多い。ネット合説であれば、学生はどこにいても参加可能。スマートフォン(スマホ)やパソコンから説明会を視聴できる。しかも合説につきものの大行列とも無縁だ。

 マイナビのネット合説にはソニーや三菱UFJ銀行など約100社が参加。チャットを使って採用担当者に質問したり、学生がコメントを書いたり、といったネットならではの使い方も目に付いた。例えばコメント欄では「採用担当の話から、この会社の雰囲気の良さが分かる」などと書き込まれ、学生同士が盛り上がる場面も見られた。

 選考そのものをネットで行う動きも出始めた。ユニ・チャームはインターンの選考にウェブ面接を導入した。ネット上に公開された面接官の質問動画に対し、学生が回答動画を送信する仕組みだ。どこでも、いつでも面接を受けられる利点は大きい。ユニ・チャームの採用担当者は回答動画について「事前に準備をしっかりしているか、伝えたい思いが盛り込まれているかなどを判断した」といい、今後は本選考での導入も検討している。

 大学側もこうした環境の変化を実感している。九州産業大学(福岡市)の18年卒学生のうち、都内の大手・人気企業への就職者数は約700人と前年比で50人増えた。大学の担当者は「東京の中堅企業から学内での説明会に参加したいとの要望が増えている」と明かす。中には「学生の参加希望者がたった1人でも構わない」と懇願する企業もあるほどという。

 首都圏企業の地方採用が進めば、そのぶん地方大学から地元企業への就職が減るといった影響も予想される。ただ地方をラストリゾート(最後の楽園)とみた首都圏企業の採用意欲は強い。進撃は間違いなく今後さらに広がるだろう。
(鈴木洋介、潟山美穂)[日経電子版2018年4月17日付]

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